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金髪ボクっ娘の太陽神話  作者: 神田大和
外伝「農奴ジェフリーはお姉ちゃんと暮らしたい」
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第39話

 ――この死都で、いつバルトサールに仕掛けるか。

 答えは夕刻。理由は2つ。1つは体力の回復のために時間が必要だったから。

 もう1つは夕刻よりも時間を引き延ばすと、霊体の中を移動する羽目になるからだ。


「……つくづく、分の悪い賭けね。万一にバルトサールに勝てたとしても退路は霊体の都市なんだから」

「バルトサールに勝てなきゃそもそも先のない話だ。だから、そこに全力を掛ける。そうだろう?」


 夕刻に移動する時点で、退路は夜になることは確定している。だが、そのリスクは飲み込むことにした。

 それが、俺たちの決断だった。


「そうね……勝ちましょう? ジェフ」


 アティの言葉に頷き、彼女が掲げた拳に拳をぶつける。

 存外と少年らしい趣味を持っているものだ。嫌いじゃない。


「心配するな、役目は果たすさ。バルトサール相手に時間、稼いでやるよ。たっぷりとな」

「……ジェフ。本当に良いのですね? 貴方は」

「ああ、男に二言はないぜ。任せろ、リリィ――」


 エルトとアティは何も言わなかった。何も。


「じゃあ、行こうか。王国の命運を賭けた戦いだ」


 ――王国の命運だなんて、俺らしくない言い回しだ。

 だけど敢えて使った。だって敵はアマテイト教会の中枢を担う人物だ。

 たとえそれが支部の筆頭だとしても、かなりの地位ではあるし、その立場の人間が都市ひとつを滅ぼしたのだ。

 そうして用意した汚染された”死の力”を手に入れようとしている。もしも俺たちがそれを防げず、この4人全員が殺されてバルトサールが元の地位で動いたらどうなる?


「……ジェフ、帰ったら好きなものを奢ろう」

「なんだよ、エルト。急に」

「いや、なんだ、王国の命運のために戦う者がいれば、それに褒美を与えるのが貴族の務めというだけさ」


 なるほどな、実に貴族らしい感覚だ。別にお前が出さなきゃいけない褒美でもあるまいに。


「なら報酬は現金で頼む。俺が金に困っている話はしたよな?」

「……大切な人と暮らすために、だね? 分かったよ、ただ僕も生憎と持ち合わせは少ない」


 地方領主の次男坊、それも留学中の身分では自由に使える金はかなり少ないと言っていた。

 まぁ、貴族といえど懐事情は火の車ってのは珍しい話ではないんだろう。


「期待してるぜ? カーフィステイン様」


 エルトを一瞥し、俺は一足先に駆け出した。

 先行して突入しなければ意味がないのだ。俺だけが戻ってきたと思わせなければ意味がない。

 リリィとアティの2人の顔は見ていられなかった。多分俺が死ぬんだろうと思って暗い顔をしている2人は。


「――さぁ、行こうか。チェンジバレット・キリングイット」


 スモークボムから殺傷弾へと銃弾を変更する。同時に俺はタンミレフトの屋敷に残る魔術式を敢えて撃ち壊していった。

 バルトサールの目を潰すため、こちらの存在を知らしめるため、そして同時に、3人の存在に気が回らないようにするため。

 所詮は苦し紛れの作戦かもしれない。ただ、それで僅かでも時間が稼げれば良いのだ。あの”死の穢れ”を収集する魔術式を破壊できる可能性が僅かでも生まれてくれれば!


「……戻ってきたのか、ジェフリー・サーヴォ」


 そこに辿り着くまでの道筋は、決して困難なものではなかった。

 障害になるのは死体除けのために展開されたあの”小型の太陽”くらいのもので、それも複雑な動きをしてきたわけじゃない。

 だからあっさりとここに辿り着けた。滑空していた太陽のことごとくを撃ち壊しながら。


「あぁ、行く当てもなくなっちまったからな」


 足元に輝く血のように紅い魔術式。そこに集約されていく死の穢れに眩暈を感じながら、俺は向き合う。

 リリィと同じ純白と紅蓮の装束を身に纏う”筆頭神官バルトサール・アマテイト”と。

 ……こいつが、あのリリィと同じ装束を身に纏っていると思うと本当に吐き気がするな。そんなことを感じながら。


「ハッ、だからってここに戻ってくるなんて、正気かね――?」


 こちらを取り囲むように展開された小型の太陽。それを前に俺は両手を挙げた。


「いやね、アンタ言ってただろう? 俺を仲間にしてくれる、俺の父親の”死の真相”を教えてやるって」

「フン、リリィを殺さなかった君に、その機会はないよ。永遠に」


 太陽をこちらに向けて放ってくるか? そう思った一瞬の間。

 そのひと呼吸を前に、俺は敢えて動じず、ひとつの呼吸が終わってから口にした。

 次の一手を。バルトサールの気を惹くための言葉を。


「……死んだよ」

「なんだって……?」


 ――よし、相手をこちらの流れに乗せることはできた。

 さぁ、ここからか……!


「リリィ・アマテイトは死んだ。お前の望み通りにな」

「だろうね。私はあいつが助からないように殺したんだから」


 依然として太陽は俺の周りを滑空している。そして、あいつは何故か撃ってこない。

 俺を、殺そうとしてこない。


「で? 君はリリィが死んだから私のところに来たというわけかい」

「まぁ、そういうことだ。夜が明ければ”太陽落とし”で全てが消し飛ぶ。生き残るにはこれしかない。なんなら靴でも舐めようか?」

「……その白々しさ。父親そっくりだね」


 ッ、ハッタリか……? それとも本当にこいつは、親父のことを……?


「……お前はいったい何を知っている? 親父とはどういう関係だったんだ?」

「フン、教えると思うかい? 言っただろう? 君はその機会を失ったのさ、永遠に」

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