好きになんてなりたくない
クラス替えが行われて、僕はどこか過去に心を置き去りにしたまま、高校二年生になった。
世界で一番報われたかった恋は、いつの間にか記憶になり、その後したいくつかの恋も記憶の中に消えゆき、恋い焦がれたあの子の笑顔も記憶の中の幻になっている。
そんなことを考えながら、ぼうっと、授業を受けていた。
今日の空はどこか変だ、真っ青でもなく、曇っているわけでも無く、薄い青と、白が混ざったような変な色をしている、まるで夢でも見ているように…。
いや、もしかすると自分の心の靄かもしれない。
欲しかった居場所に行けなかった自分の心の靄なのだと、そう思うことにした。
でなければ、美しいはずのこの世界がそんな色で見られているなんて不幸極まりない。
黒板の方に視線を戻そうとした時、一人の女子に目がいった。
何度かその子を見た時、割と好みの顔をした子だなと思った。
でも、好きにはなりたくなかった。
そう、好きになんてなりたくない。
だって外見だけを好きになってしまったら、また傷つき、切なくなり、悲しむだけだ。
だから好きになりたくないのだ。
心の中に、自分に安息を与えてくれるなら、ある程度可愛げのある女の子なら、誰でもいいから、自分と共にいて欲しいと思っている自分が少なからず一人はいる、あぁ、憎らしい、そんな汚い感情を恋と呼んではいけぬだろう。いや、いままでの恋ももしかしたら、そうした汚い感情から生まれた美しく着飾った美談なのかもしれない。
そんなことを考えているうちに時間は進む。
救世主と言うのは闇の中でいくら叫んでも助けに来てくれないものだ。
運命とは気まぐれなのだ。
だからまだ今はあの席の女の子を好きになりたくない。
「好きになんてなりたくない」