トラッキング エレベーター
よくある家庭のはずが、十人家族になっていた。その一人、三女のミハル、十歳は問題児であった。
「もう、全部プラスチックかメラミンに替える?」
「食器はもう全滅だよ。」
ミハルは食器をめちゃくちゃにして手足は切り傷だらけだった。そんなことでミハルは小児精神科に入ると知らせが入った。薄暗い小さな部屋に入ると、ここは一階のはずよ?なぜ私の部屋があるの?天上が上がっていくとミハルは天上に叩きつけられた。父は私に死んで欲しいと思っている、だって帰ってこないもの。
ミハルが目を覚ますとそこは知らない天上、いや知らない床である。病院の中に居るミハルはここが総合病院だと知った。ミハルは自分自身も夢か現実か分からなかった。ミハルは入院している父を見つけた。なぜ、ここに居るの?父に言うと死にたいと呟いた。でもね、ここは精神科だよ。もう出られないのだと。ミハルが悲しくなるとどんどん床が下がっていった。暗くなるにつれ、自分の部屋に戻ってきた。
夢だったのかなと、ミハルは食卓に戻ると誰も居なかった。外の車もないのでミハルはまた独りになったと解釈した。独りで本を読んでいるミハルに訪問者がきた。父と母が心中未遂したと知らされた。ミハルの解釈は、そうか、十人家族っていうのは昔の話なんだ、この家族に何人居るかなんて分かりっこないんだ。父と母は一緒に旅をしたくて、でも十人家族じゃ大変なんだ。ごめんね、私は一人っ子なんだ。この2つを現実として受け止めよう。
『気づいた?』
ふとミハルはこの言葉を耳にした。
『テーブルの上』
なんなのこの薬、テーブルの上にそのまま二錠の大きめの薬が置かれていた。飲んだミハルは夢の中へ入ってしまって戻れなくなる事を知らなかった。
食卓のテーブルが天上へひっくり返り、部屋の壁が外壁と押し合い広い空間へと変わった。
『窓からおいで』
ミハルは窓から外へ出るとまた総合病院へ入った。一階のトイレから病棟のトイレまで天上が昇ると父が泣いていた。
「気づいた?」と笑顔でミハルは父を見た。
「ミハルか?」と父は驚いた。
ミハルは父に二錠の薬を渡すと飲んだ。トイレの床が下がり、父は母を捜してロビーへ入った。父は母に二錠の薬を渡し、飲むと壁が広がり、大草原に三人は楽しそうにピクニックをした。
この箱はどこにも指してはくれないエレベーター。ミハルは精神科の箱に入れられた。ミハルは十四歳、視覚的に異常である。元から、右、上、左、下、どこでもエレベーターと言っていい。得体の知れない薬からもう実在するものは見えていない。窓と扉は全く目に入ってない。箱から見えるのは左右上下の動きしか目にない。
『今日はピクニックだよ』
口の中にサンドイッチを入れられたミハルはこと毎に
『美味しくない』と呟く。
治療薬を飲んだが、色が平面に見えるのみ。十歳から四年にわたり視覚的、体感的に悪化していて回復に時間がかかりそうだ。
早くここから出たい。扉が開くと眩い光とともにミハルは出ていった。そこは迷路の様な通路だった。人々とあらゆるものが目に見えた。そして父と母。そう、十歳の頃の感覚のままだが、ミハルは光を取り戻した。