第壱章
序章
時は、平安時代。古い日本史のなかでも、一番平和だと言われていた時代。しかし、平安時代は平和ではなく戦いに明け暮れていた時代であった。人と妖と鬼、この3つの勢力による、激しい戦いが繰り広げられていたのである。
第壱話
燃え盛る炎、耳に響くような金属と金属がぶつかり合う音、人や鬼の叫び声や唸り声、泣き声、そんな地獄絵図のような場所に1人の幼い少年が立っていた。
手には、母から貰ったのであろうか布地で作られた、人形のようなものを抱えている。
しかし、少年に人形を与えたであろう、少年の母は、燃えて、倒れてきた柱の下敷きになり、死に絶えていた。だが、少年はそこに突っ立っているだけである。
彼は、死と言うものを知らないのだ。今日初めて、死と言うものを見たのだ。だから、少年には何故母が動かないのかわからなかった。
少年の目の前では、少年の父が侍と刀で戦っていた。
少年の父は、少年たちが住むこの山の集落の村長をしていた。
集落と言っても、何百と言う家が立っていて、平安京にも負けない大都市である。
少年の父の名は、『十六夜』人からは、星熊童子と呼ばれている鬼である。
十六夜は、息子を守る為に必死に戦った。
だが、源頼光に使える四天王 渡辺綱に斬殺された。
十六夜『紫月、早く逃げろ、早く...』
十六夜は、そう言葉を残しその場に倒れた。
渡辺綱『星熊童子を討ち取ったり』
綱が叫ぶと、その場にいた武士たちが
『ウォォォォ』と喜びの声をあげた。
ここは、鬼の頭領酒呑童子が住む大江山より、2つ手前にある山。
酒呑童子の部下で、四天王の1人星熊童子が、家族や手下たちと住んでいた山である。
しかし、近年妖と人の関係が悪化し、鬼たちも人の討伐対象となっていた。そして、先月人たちは、鬼に戦線布告し戦争を始めたばかりだった。その矢先、この山が人間たちに攻撃されたのである。
ほとんどの鬼が応戦したが、源頼光の前には、屍の山となるしかなかった。鬼たちは、女、子供関係なく惨殺された。
『おい、まだここに鬼が残ってるぞ』
1人の侍が仲間の侍たちに向かって叫ぶ。
『なに、討伐せねば』
3人の侍が、我先にと鬼の元へ向かう。
そこには、1人の少年が立っていた。
『なんだ、鬼の子供か...』
1人の侍が言った。
『いや、鬼だから討伐すれば褒美がでるぞ』
もう1人の侍がそう言い放ち、鞘から刀を抜き鬼に向かって斬りかかろうとした、その瞬間。
『やめろ、その稚児に手を出すな』
大きな兜をかぶった1人の侍が斬りかかった侍を止める。
侍『あなたは、富士時棟様』
侍が驚きながら言う。
時棟『この稚児は、私が預かろう。いいですよね?
綱様』
時棟が綱に許しをこう。
綱『いいだろう、しかし人を襲うようならすぐに討伐しなさい』
時棟『御意』
こうして、鬼の子は富士時棟に預かられることとなった。
第壱章『完』