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百魔と俺  作者: えーや
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幼女2人を囲っているんで事案とか叫ばれねえか心配だ

『さぁ、今宵も宴の時だ』


 魔界にあるとある焼肉店。召した牛や豚が続々と運ばれ調理される有名チェーン店の一角。

 多種多様な角や顔つきをした、悪魔とも呼ばれる者達が宴会をしていた。


『存分に飲むが良い。私からの奢りだ』

『最高っスよ課長!いえ次期部長!』

『ハッハッハそう褒めるな。……ほら何をしている。そっちにいるフレデリークも飲め飲め』

『へーい』


 ここ部長とかある組織だったっけ。フレデリークと呼ばれた幼い少女はぶすーっとした様子でそんな風に考えながらミルクを転がしていた。





『フレデリーク、ちょっといいかなー』


 数時間経ってもまだ終わる気配のない飲み会の最中で次期部長(仮)の上司が歩み寄ってきた。愛も変わらずフレデリークは人……いや悪魔達の喧騒から離れてミルクを転がしていた。


『なんでしょうか』

『実は折り入って頼みがある』

『なんでしょうか』

『いや~あれなんだよね。次期部長だからこーゆーの部下には頼みづらいんだけどね、できれば上にバレる前に対処したいんだけどね。何が言いたいかって』

『なんでしょうか』

『聞いてくれてる!?』

『なんでしょうか』

『まぁいいや。なら勝手に話すけどね』


 訝しげに目を細めて話したくないオーラを出すフレデリークを差し置いて、上司は舌を出してウインクしてきた。キモい。


『この前見せた悪魔や怪異を封じ込めた本、あったじゃん? あれ昨日の前祝の宴会でうっかり破いちゃった☆』

『…………は?』








 目の前に突然現れたのが例え幼い子供だったとしても、手をあげれば事案だなんだと騒がれるこの世の中は最高にクソだと思う。

 しかしこうして男が自室に幼女を連れ込んだとあっては、それはそれで事件性が高いものになりうる。最も、俺が連れてきたわけではなく幼女が勝手に上がりこんできたのが正しい。世間様は許してはくれないだろう。無慈悲である。

 連れ込んだ……否、勝手に上がってきたこの幼女はファンタジーな衣装に身を包んでいた。黒い。そしてきわどい。しかしロリコンではないのでこの辺り誤解しないようにしていただきたい。


「というわけだ。分かったな?」


 胡坐をかいて机の上に座り込むこの大変失礼な幼女はさも得意げに、語ってやったぞとばかりに言い切った顔をしていた。そんな顔をされても困る。


「分からなかったからもう一度頼む」

「いいえを選択するのか。もう一度話を挟むことになるんだぞ。ボタンを連打する感覚で聞いていないか?」

「できればそうしたいところ」


 ばき、と頭を叩かれた。いや殴られた。

 人間が出しちゃいけない音がしたけど、漫画だとドカバキやられてるけど結構平気な奴らが多い。あれはなんの効果音だろうか。


「……無駄だって事は分かったからもう一回説明を頼む」

「癪に障る言い方だがいいだろう。心して聞け」


 こほんと咳払いすると、無駄にふんぞり返って得意げにソレは語り始めた。

 ――脱線した話も交えていたのでかいつまんでまとめると、俺が襲われたのは怪異の一種らしい。確か天狗隠しとか言ったか。

 鼻が長くて赤い顔のイメージと違っていて、体の長い人間と相違ない姿であるという。

 少女……フレデリーク・ジゼル・レイモンド・エロディ・ラロシュ(長いからフレデリークと呼ぶことにする)はそれらを捕獲することを目的としていて……。


「それら?」

「あぁ、他にもいっぱいいるぞ」

「天狗が?」

「天狗以外にも、座敷童とか七不思議とか、こちらの世界で語られる怪異が蔓延っている」

「なんで……」

「クソ上司のせい」


 少女は憤慨した様子で腕を組んで唸っていた。

 本来、こちらの世界にはそんなものは既に無い存在であるとされている。御伽噺や伝承に語られる存在に留まり、こちらには現存できるほどの信仰とやらも脅威もなく、存在意義を失っているからだという。

 それを封じ込めるために『クソ上司』が本の中に収集していたらしい、が。


「あのクソ上司がな、先日行われた宴会で酔ったからって封印を解いてしまったらしい」

「それがこっちに流れてきたと」

「そして上層部にバレる前にこの件をもみ消すための隠蔽……要はこっそり回収してこいと命令してきた」


 心底うんざりしたように肩を竦めていた。何度か首を横に振ってあきれ返っていたが、瞬間きっ、と睨んできた。睨むなよ。


「こちらとしては溜まったものではない」

「こっちの世界の住人としてはお前ら以上に溜まったものじゃない。それで、契約云々って言ったのは?」


 そちらが自分にとっての本題であり、明示するべき内容だった。フレデリークは最初契約について話したときよりも幾分か冷静になっているのか、言いづらそうに、目をそらしていた。


「……うっかり、ここにいる怪異達を、永続的に一緒に探して封じてもらう契約をかけてしまった」

「で?」

「本来は一時的なものを使用していたはずだったが、うっかり、間違えた」

「間違えたじゃねえだろどうすんだこれ」

「私が知るか! いや知っているけど! とりあえず100体の怪異や悪魔を封じ込めればいいんだ! それで万事解決!」

「内容は単純だが方法が無理ゲーすぎやしないか」

「とにかく、やりようはある。これから考える!」


 ダン、と腕を机にたたきつけた。怒りたいのはこちらのほうだ。


「分かった、なら契約変更とか、クーリングオフとかできないのか」

「悪魔の契約は人間よりも重い。そんな一言で変えられるならとっくにやっている」

「だよな」


 ……なんだかこの会話だけで異世界同士の交流があると思ってしまう。実感してはダメだ、認めてはダメ。頭の可笑しなヤツだと思われてしまう。誰に見られているわけでもないが。

 悪魔とやらの契約なぞ実感するにはまだまだ材料が足りない。半信半疑ではあるが、こういうのって後々いやでも分かるパターンだ。ラノベじゃあるまいし。

 ともかく現状、コレの話に耳を傾けることにしよう。


「その悪魔とか怪異っていうのを集めるための有益な情報とかないのかよ」

「クソ上司は手当たり次第拾っては集めていたから具体的には分からんが、天狗隠しなんてマニアックなものまで入っているんだからな。その分メジャー所はありそうだ。例えば」


 机の上から立ち上がると、おもむろに押入れに近づいて、ガラ、と勢いよく開いた。


『キャアアアアア!!!!』


 耳をつんざくような悲鳴がした。オイ動物を拾った覚えはないんだが。つーか悲鳴なんか上げないでくれ。ヘンに誤解されたら溜まったものじゃない。ただでさえご近所のおばさんたちに見られてひそひそ話していたのに。


「こちらの異質な存在感につられたのか、来てしまったらしいな。好都合だ」


 恐る恐るフレデリークの後ろから見ると、振袖を着たこれまた小さい女の子がいた。目は切りそろえられた髪で見えないが、脅えていることは容易に想像できた。

これは……。


「座敷童?」

「よく知っているな」

「いやなんとなくイメージで。それっぽいし」

「まぁいい。とにかくこういうものがわらわらと蔓延っている。およそ100……いや天狗とこれも含めて98程か」

「それで……どうすんのこれ」


 座敷童はがくがくと柱にしがみつきながら青ざめた顔をしてこちらを見上げてくる。


「本の中に閉じ込める。害は無いが逃げ出されたりしたら困るからな」


 座敷童の伝承は有名で、座敷童が憑いた家は栄え、離れた家は衰退するという。

 小豆が好物で、それを供える。食事を食べなければ離れていくともされているが。


「……少しだけ様子を見たい」

「なぜだ」

『……!? !?』

「要は幸運になれるんだろ、それがいると。探すにしたってアテがあるわけじゃないなら、運に頼ってみるのもいいんじゃね」

「しかしだな……」

「あ、俺と御前は契約関係なんだっけ。なら逆らえないんじゃね、普通なら」

「そんなこと……待っていろ」


 フレデリークは空中に手を伸ばすと、湾曲した空間を作り出す。その中に手を突っ込むと腕が半分ほどその中に消えていった。

 こういうのってやっぱりファンタジーでもよく見かけるけど、反対側から突いてみたらどうなるんだろうか。しかし試す勇気はないので大人しく待つことにする。

 やがて一冊の本を取り出すと、ぺらぺらとめくり始めた。タイトルは『人間と契約した場合の対処マニュアル』と書かれていた。限定的なマニュアルだ。

 指で紙を伝って、何度か目を動かした後、フレデリークは立腹したように目を閉じた後、乱暴に本を閉じてその辺に放った。投げるなよ。


「……どうやら契約に基づく最終的な決定権はお前にあるらしい」

「つまり、コレは封印とやらをするもしないも自由?」

「そういうことになる」


 座敷童とフレデリークを交互に見た後、座敷童のいる押入れの前に座り込んだ。


「つーわけだから、少しの間ここにいてくれ。近くのスーパーでまた卵が特売になるといいんだけどなー」

『……?』

「じゃあヨロシク」


 パタン、と押入れを閉じた。


「……あれは繁栄のための精霊であって神じゃないぞ」

「それでも頼むだけならタダだろ?」

「まぁいい。とにかく残りの98体。そいつらを捕獲するために力を貸してもらうぞ……あぁ、名前は?」

「鈴木ひょっとこ丸」

「嘘をつけ!」

「殴りかかるな。分かったから。鈴木翔だよ」


 フレデリークに名前を伝えると、彼女は満足したように得意げな顔をしていた。せいぜいよろしくとでもいいたいのだろうか。俺としてはせいぜいでもよろしくしたくはないところだった。

 どんどん遠のいていないか俺の日常。

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