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オーマ兄弟3

作者: 湯乃屋

暗く黒く。


町は輪郭だけを残して夜色の海に沈んでいる。


通りすぎる、どの門扉にも明かりは無く、すれ違う人も居ない。


そんな場だからこそ、彼はいっそう浮かいて見えた。右に左にわずかに揺れながら、ふわふわとおぼつかなくも見える人影はいっそう白く、夢見心地にも見えるのは手にした酒ひょうたんの所為かもしれない。


やがて。


すっと、闇に消える。


落ちたのか、何かに手を引かれたのか…いずれにせよ夢見心地の事、一瞬の事。恐怖すらも感じなかっただろう……




「くだらないものを持ってきたのならお断りだよ、価値のあるものならお入り」


反響して何処からとも無い声に合わせて、ぼう、と輪郭が浮かび上がる。古い日本家屋、太い梁に支えられた広い玄関口に嵐は立っている。履物をそろえて顔を上げるとさっきまでは見えていなかった長い、磨き上げられた廊下が伸びて見える。


何度来ても慣れないな、と一人ごちる声さえも闇に吸い込まれて、嵐が一歩進むたびにかかとの後ろからまた、闇に消えて行く。


道なりに、ただ一本の道を進む事に飽きた頃には今度は障子が、嵐がその前で立ち止まると、すう、と開いてまた…いや、今度は闇のままに、その中に何かが息づいている事だけが身に感じる事が出来る。


「価値のあるものならおはいり」


「価値があるかどうかは、見て判断してもらわないと」


部屋に足を踏み入れるとまた、すう、と障子が閉まると同時に消えてしまう。前に向き直ると今度は一歩、進んだところに座布団が用意されて、そこに座すると次は塗りの丸盆が滑り出て、用意がいいことだ。


嵐はその上に、持参してきた酒ひょうたんの口を開け、中身を出すと出て来た時と同じに丸盆は奥に、向かい合っているだろう相手の前で止まり、手に取って検分しているのだろう。


しばし。ウンともスンとも言わないのは毎度の事だがで退屈に、見渡してみても暗いばかり、耳を澄ましてみても痛くなるばかりで仕方なく、向かい合う相手のほうに目をやっているしかない。


「紛う事なき銀狐の毛皮ですね、どうして手に入れたのです」


「冬篭りの前を狙いまして、木の実と交換したのです」


「これほどの毛並みの主ともなると、ただの木の実では行かないでしょう」


「春先に訪れた霊果を見つけましたので、それを半年間、凪に浄化させていたのです。そちらを持って来ようかとも思ったのですが、それだと需要が限られますでしょう、それに何より、あなた自身が浄化されてしまっては元も子もない……何か?」


「まだ、あの子どもを飼っているのですね。どうです、役に立ちましょう」


ふと、暗闇の中で銀の毛並みが跡形も無く消えてなくなった気がした。


「そんな眼鏡でいくら見えないようにしたって感じる事は変わらない、居るものは居る。虫除け程度の買い物が思わぬ副産物、今ではこうして、生業としてやっていける。…お気に障られたのなら失礼しました、こちらは代金です、こちらもいい買い物をさせていただきました」


「いえ」




嵐が迎えに行くと、別れた時と同じに煌煌と、隅々まで灯りの行き届いたモールのベンチで足をぶらつかせて暇を持て余しているように見えた。


「嵐、遅いよ」


「ちゃんといい子にしてたみたいだな、偉いぞ」


頭を撫でてやろうと手をあげると心の底から迷惑そうな顔で振り払う。精一杯の剣を込めて続く言葉は想像に難くない…




いえ、凪も俺も楽しくやっていますから、お気遣い無く。


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