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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生トラック野郎バカ一代。

作者: ヒロモト

オープニングはお好きなジャズをどうぞ。

「最近のわけぇ奴等はすぐに転生したがりやがる……まったく骨がねぇぜ」


 この男は『菅原桃二郎』……転生希望者、転生系主人公たちを次々と轢き殺す仕事をしている。


「若いやつらだけじゃねぇ……俺の所はいい年した野郎が多いぜ。

だが、それでおマンマ食ってんだ。文句もいえねぇわな」


 この男は『三田我政(サンダガマサ)』……同じく転生希望者を雷で殺す仕事をしている。


「ちっ……次の依頼か……」

「俺もだ」


 桃二郎の車内電話と政の黒電話型の携帯がなった。

「しかたねぇ……いってくらぁ!」


桃二郎はねじりハチマキをきつく絞めた。




「雨……か……」

 桃二郎はフィルターの無いキツいタバコを吸っていた。


「こんな日に死ぬのか……悲しいねぇ……いや、念願の異世界に行けるのだから本望なのか……」


(親も兄弟もいるだろうに……後悔はないのか?)


 車内電話が鳴った。


「なんだ?」

『俺だ。こっちは仕事終了。36才無職童貞……雷で打たれたってのに笑顔で死にやがった……よほど現実世界に嫌気が差してたんだな……毎度のことながらむなしいぜ……そっちは?』

「まだだ……いや、来た」


 ヨレヨレのシャツを着たガリガリの高校生……髪型はクシでとかすことも、ジェルを付けるわけでもない本物の無造作ヘアー。

 下唇を突きだし、何やらブツブツと呟いている。


「行ってくる。切るぜ?」

『あぁ……終わったら飲もうや』

「そうだな。かけ直す」

 桃二郎はアクセルを踏んだ。





プアーー!!


クラクションを鳴らし、ライトで少年を照らす。


「へ……へへ……」


(またか……コイツも笑ってやがる)


 少年は笑っていた……これから轢かれて死ぬというのに……


(これからお前は死んで異世界に勇者の息子として転生する。チート能力付きでな……だがな? もうこっちの世界にゃ帰ってこれねぇ……もう親にも兄弟にも友達にも会えないんだぞ? なのに……なんでそんなに嬉しそうなんだよ……そんなに……そんなに現実世界が嫌か!? 現実世界に楽しいことなんて無いって言えるほどお前は努力したのか? くそ!)

「バカやろうがぁぁ!」


桃二郎は少年を轢き殺した。


……



 ◇

「トモヒロ! トモヒロぉ!」


  桃二郎の轢き殺した少年……トモヒロの遺影の前で泣き崩れる彼の母親……

 鈴木トモヒロ(17)はゲームとアニメが好きな優しい少年だった。

 だが高校に入学してからはイジメに堪える毎日だったらしい。

 彼は常日頃こう呟いていたらしい……『異世界へ行きたい……』と……


……




 異世界……


「うわっと!」


 僕がつまずいて転ぶと顔には柔らかい感触……


「やだ! カイトのエッチ!」

「ご……ごめんよ!」


 幼馴染みのリリエの胸に埋めた顔を上げた。


「カイトったら……毎度毎度……本当はわざとやってるんじゃないでしょうね!」

「不可抗力だってばぁ……」

「……ちゃんと言ってくれればおっぱいぐらいいつでも触らせてあげるのに……」

「えっ? リリエなにかいった?」

「なんでもない! いくわよ!」

「なんだよ……痛い!」


義理の妹のミリアが僕の脇腹を叩いた。


「お兄ちゃん! デレデレしないの!」

「なんだよお前。もしかしてヤキモチやいてるのか?」

「……知らない! みんな! こんなやつおいてっちゃお!」


 冗談だったのだが、ミリアは顔を真っ赤にした。


「ちょっと待ってよ!」


 馬車は僕を残して走り去った。

 はぁ……まったく女ってのはわからない……パーティは僕を含めて6人。

 そして僕以外は全員個性的すぎる女の子ばかりだっていうんだから、女の子が苦手な僕は心が休まる暇なんて無い。

 ふぅ……僕は普通に生きたいだけなのに……なんで勇者の息子として生まれてきちゃうかなぁ……おかげで世界を壊滅させかねない強力な魔法を武器に魔王退治なんてしなくちゃいけないし……めんどくさいなぁ……。


「お前……」

「はい?」

「今、幸せか?」


 ねじりハチマキの男が急に話しかけてきた。


「幸せか?」

「幸せって……なんですか急に?」

「答えてくれ」

「えと……幸せかな? 僕は平穏な毎日をおくりたいんだけど……」

「そうか……もう行け」

「はぁ……」


 変なおじさんだった。


「それじゃあ……おーいみんなぁ! 待ってくれよぉ!」


 僕は馬車を追いかけた。


「うっ……」

(まただ……)


 知らないオバサンが不細工な男の写真の前で泣く顔が頭に浮かんだ。

 オバサンは『トモヒロ』、『トモヒロ』と叫んでいる。


「えーい……誰なんだこのオバサンは……それにしてもトモヒロってやつは不細工な男だな……」


 僕は頭からそのイメージを振り払い、仲間のもとに走った。



……



「幸せ……か……」


 桃二郎は転生トラックの車内でタバコを吸っていた。


「幸せならいいのかもしれねぇな……」


 車内電話が鳴る。


「ハイよ……うん……おう……わかった……じゃあな」


  また新たな転生者を轢き殺す依頼……桃二郎はエンジンをかけた。


(場所を聞いてなかったな……いや、聞かなくともわかる……)


「日本……日本だ……」


 走り出した桃二郎のトラックが異世界の空に消えた……


 転生トラックバカ一代『菅原桃二郎』……次に彼が轢き殺すのはあなたかもしれない……





エンディングはアメージンググレースで……

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