二題噺 白衣とセーラー服
「先生、似合う?」
花純が俺の白衣をはおり、はにかむ。
サイズの違いすぎる白衣はまるでシーツのように彼女に覆いかぶさっていた。
「似合わなさすぎだ。」
そううそぶくが、前を開けただぼだぼの白衣から覗く黒のセーラー服とタイツには男心をくすぐるものがある。
「ひどい。そこは嘘でも似合うって言うもんじゃない?」
非難する花純に歩み寄り、白衣に手をかけた。
必然的に距離が縮まり、鼓動が速度を増していく。
「ほら、脱げよ。女子高生はセーラー服が1番似合―」
言いかけて、白衣を肩まで外した手と、照れ隠す口が止まる。
腰には華奢な腕が回され、胸には年の割に幼い顔が押し付けられていた。
艶やかなショートヘアの黒髪が流れている。
「おい、花純…」
「たまにはいいじゃん、先生?」
俺の顔を上目がちに見上げ、いたずらな笑みを浮かべた。
きっとこの女は「わかっていて」やっているのだろう。
まったく末恐ろしい女だ。
俺は彼女の思惑通りに、その小さく細い体を強く抱きしめる。
「ふふっ。」
そのしてやったような顔が腹立たしい。
「おい。」
「え?」
とぼける顔をぐいと引き寄せ、唇を合わせた。
あそこまでしておいて予想外だったとでも言うのだろうか。
驚いたように目は見開かれ、腕は俺の腰から落ちる。
白衣は床へ、はらりと落ちた。
俺の腕の中には、セーラー服の花純が残った―
ドアを叩くノックの音で俺は目を開けた。
間もなくドアが空き、今しがた俺の胸に押し付けられていた顔が覗く。
「失礼します。先生、課題取りに来ました。」
「ああ、いつもすまないね、清水さん。じゃあ、これを。」
そういって机から紙束を彼女に手渡す。このずっしりとした重量にも慣れた頃だろう。
「失礼しました。」
彼女はいつも通り、その紙束を持って化学準備室を去っていった。
部屋のドアの前、1歩進んだあたりでの1分とない彼女とのやり取り。
まったく、人生は思い通りに進まない。だから面白いのだ。