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第21章

 パットが、いつもの格好で立っていた。

洋一は、おもわず腰が引けたが、パットは何もなかったように飛びついてきた。

 ペラペラペラッとしゃべりかけて、ゆっくり言い直す。

「パット、あれはわざとじゃなくて」

 パットは片目をつぶって、ニコッと笑った。

その明るい笑顔に、洋一はほっとして腰が砕けそうになった。

 どうやら、面倒なことにならずにすんだようだ。だが、よく見るとパットの顔は少し赤いし、態度もほんの少し色気のようなものが見える。

 洋一の方も、パットを見るとあのシーンが甦りそうになるので、やはりぎこちない態度になってしまっている。

 それでも、パットはあいかわらず洋一になついていて、しばらくすると2人の関係はもとにもどってしまった。

 パットに手を引っ張られて船首にゆくと、正面に陸地が見えた。いつの間にか、湾に入り込んでいたらしい。

 ほぼ正面に街が見える。急斜面に家が立ち並んでいて、かなり大きな街である。

「パット、あそこは?」

「アソコ?」

「あの街だよ。ザッツタウン」

「タウン。ノウ、カナラヴィレッジ!」

 街ではなく、村らしい。カナラ村というところか。

 カハ祭り船団の最初の寄港地だが、考えてみるとこれだけの船で何をするのだろう?とても全部が入港できるような港ではないような気がするが。

 突然、甲高い汽笛が響きわたった。

 振り返ると、洋一の船の真後ろに巨大な食事船が迫っている。

 すぐに、洋一の船は速度を落として舵をきった。食事船が、まっすぐに港にむかってゆく。

 その他の船は、ゆっくりと集結しつつある。洋一の船はどうやら基点の役目を果たしてらしい。いつの間にか、マストに鮮やかな多色刷りの旗が上がっていた。

「ハタ! カハ・フラッグ!」

 パットの日本語はあいかわらずである。本人も、もはや日本語で意志を伝えようという努力は放棄して、もっぱら英単語の羅列でしのごうとしている。

 洋一の方は、フライマン共和国の共通語などまったく判らない故に、やはりつたない英語に頼らざるを得ない。

 しかし2人とも、この方法に慣れてきたようで、今ではほとんど不自由を感じなくなってしまった。

 洋一が見ていると、カハ祭り船団は見事な艦隊行動で、洋一の乗る指揮船を中心に整列しつつあった。

 食事船だけは、ハーバーの突堤に向かっていたが、速度を落として港の入り口で停止したようだ。碇が投げ込まれ、続いてボートが降ろされて港に向かう。

 突然、洋一の真上で警笛が響いたと思うと、続いてカハ祭り船団の全船からも色々な音色の汽笛が鳴り響いた。

 ものすごく調子はずれのオーケストラである。

「凄いな」

「ザッツ、デンジャラス・サウンド!」

 洋一とパットは耳を押さえながら怒鳴りあった。

どうみても、挑戦である。カハ祭り船団はカナラ村を威圧しようとしているようにしか聞こえない。

 ひょっとしたら、カハ祭り船団というのは戦闘的な集団なのではあるまいか?

 洋一が疑っていると、汽笛のオーケストラは数分続いたあげく、ゆっくりとおさまっていった。

 すると、陸の方から聞こえてくる音があった。こちらは、数種類の音、というか騒音を組み合わせたもので、構成要素はサイレンや爆音らしい。

 数が少ない分、各々の音がはっきり聞こえるが、これだけ離れていても聞こえるとしたら、発生源ではどれほどの騒音になるだろうか。

 音は、いつまでも続いた。

 いきなり、パットが洋一のそでを引いた。

「ヨーイチ! アレ!」

 海岸に動きがあった。

 かなりの人数が出ている。遠くて人間は白い点のようにしか見えないが、みるみるうちに海岸にあふれ出すと、ボートやカヌーらしいもので海に乗り出してきている。

 と同時に、海岸のあちこちから煙が上がり始めた。赤い色が見えないところをみると、どうも松明か狼煙のようなものらしい。

 村からの騒音が次第に収まってきた。

 もう、食事船の回りはこぎ出してきたボートでいっぱいだった。まるで、巨象を蟻が襲っているようだ。そして、どんどん殖えてくるボートは食事船を通り越して、洋一たちの方にも向かってきている。

 洋一は及び腰になった。ひょっとしたら、ソクハキリが言っていた戦争になったのではないだろうか?

 パットが、何か叫んで洋一の手を引っ張った。

「アッチ!」

 パットの指さす方を見た洋一はあっけにとられた。いつの間にか、海上がごちゃまぜの原色に埋めつくされている。

 すぐに、カハ祭り船団の各船に立てられた旗や流しだと判ったが、風にあおられて思い思いにはためくさまは、まるで色彩の嵐が近づいてきるかのようだ。

 パットは、おおはしゃぎだった。多分、パットもカハ祭り船団に加わったのは初めてなのだろう。

 洋一も、まさかこれほどのものだとは思ってもみなかった。なるほど、これだけ派手にぶちあげるのなら、ソクハキリが心配するのも判る。

 おそらく、陸地からみたら水平線までぎっしり揺れ動く色彩で埋まっているように見えるに違いない。

 カハ族のデモンストレーションとしては、インパクトがありすぎるといっていい。

その間にも、陸からこぎ出してきたボートの群は、洋一たちの指揮船を通り越してカハ祭り船団の中に突入していった。各ボートも、数本の旗竿をかかげている。

 そのままボートはカハ祭り船団の間を駆け回り、一体となってゆく。ボートには数人の男達が乗っていて、身体中おどりまくっていた。

 なんともあらっぽいというかスケールが大きいというか、活動的な祭りである。

 洋一たちが見ていると、ボートはひとしきり走り回った後、各カハ祭り船に横付けして乗員が乗り込み、お互いに抱き合ったり水をぶっかけあってりしていた。

 洋一たちの指揮船にも数隻のボートが近寄ってきたが、甲板に出てきたシェリーが何か叫ぶと、ボートの男達は陽気に叫び返して離れて行く。

「パット、シェリーは何て言った?」

「V.I.P!」

 パットの答えは一言だったが明確だった。どうやら、失礼があるといけないので近寄るな、という指令が出たらしい。

 洋一はほっとしながらも少し残念だった。あの熱狂的な行動に興味があったからだが、水をぶっかけられたらあとが面倒だと考えて、ここはありがたく見学に回ることにする。

 海上ではカハ祭りが続いていたが、桟橋の近くに碇を降ろした食事船では、物資の補給が行われているらしい。

 カナラ村の方から、裏方を勤めるらしい人影が出て働いているのが見える。

 洋一が、シェリーに手真似で意志を伝えると、シェリーは頷いてゴムボートを降ろしてくれた。

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