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第193章

 ミナはホールまで出ると、そこで立ち止まって振り返った。

「最初に言っておきますが、交渉はうまくいきました」

 一瞬シンとした後、どっとしゃべりかける少女たちを片手で制する。

「私たち専用の船を確保しました。それから、ラライスリ派の組織を使って情報収集するので、とりあえずここで待機することになりました」

「この建物を使えるの?」

 サラが聞いた。

「いえ。ここはラライスリ派の拠点というわけではないので使えません。それに、私たちが固まっていることがあまり広まるのはまずいと思います。だからなるべく船にとどまっているように、と」

「判った」

 サラの返事はいつも短くて的確である。そしてこの集団にあって、サラが了解すればそれは決定事項になる。

 洋一の意見は誰も聞かなかった。

 ミナの先導で、少女たちと洋一はぞろぞろと港に向かった。

 この時間はあまり人影はなかったが、それでもあちこちにパラパラと人が見える。彼らは一様に立ち止まって洋一たちを見送っていた。

 確かに、少女たちは恐ろしく目立つ。全員が水準以上の美少女だし、特にメリッサの金髪は闇夜の灯台並に輝いているのだ。この集団がここにいることが広まってしまったら、誰が押しかけてくるかしれたものではない。

 そうでなくても、カハ祭りやタカルル神殿でのメリッサと洋一の行動の噂が尾鰭をつけて広がっているはずだ。女神降臨がひとつのイベントとするならば、それはカハ族とカハノク族の反目にもかなりの影響を及ぼすかもしれない。特に、女神がカハ族の指導者の妹だったりすると。

 洋一は疲れていた。起きたばかりのはずなのに、身体中がぐったりしている。精神的な疲れの方が大きいのかも知れない。

 それでも弱音を吐くわけにはいかない。少女たちががんばっている以上、唯一の男が泣きを入れるわけにはいかないのだ。これはメリッサに惚れているとかいう以前の、男としての矜持の問題である。

 だがメリッサの目を誤魔化すことは出来なかったらしい。

 洋一は、いきなり肩を捕まれて半回転させられた。パットが大声で抗議しているのが聞こえるが、あたりがぼんやりとしてよく見えない。

「ヨーイチさん!」

 メリッサの声だけがはっきり聞こえる。続いて、視界いっぱいにけぶるように輝く金髪と、神秘的な紫色の瞳が広がる。

「メリッサ」

 普通に話したつもりだったが、声にならなかったらしい。メリッサが何か大声で叫んだかと思うと、両側から軽々と支えられた。

 身体の大きさから言ってメリッサとサラだな、と思う間もなく、洋一の視界が塞がった。

 数秒後、意識を取り戻すと洋一は両側から支えられるようにして歩いていた。それも洋一の足がともすれば宙を飛ぶような速度である。

 目を開けて頭を上げる。どうやら方向転換したらしい。まっすぐ前方には、切り立った崖とその下に並ぶバンガロー風の建物があった。

 メリッサが洋一の顔を覗き込むようにして言った。

「ヨーイチさん、もう少し待って下さい。すぐ着きますから」

「ええと、船がこんなところにあるのか?」

 まだ頭がぼんやりしているらしい。

「手を回して別荘を使わせて貰うことになったのよ。とにかく、ヨーイチは何も考えないでいいから。今は」

 サラの声がした。左側を支えているのはサラらしい。

 最後の「今は」は、サラらしい気配りといえるが、今の洋一にはそんな微妙な心配りは通じないだろう。

 洋一がぼんやりと考え込んでいる間に、一団は小走りのまま「別荘」に駆け込んだ。

 少女たちの手によって、洋一はなだれ込むように寝室に運ばれた。落ち着いた雰囲気の広い部屋にはベッドがあって、あれよあれよという間にベッドメーキングがされてゆく。

 同時に洋一はよってたかって服を脱がされかけ、あわててそれは拒否した。

 まるでハーレム状態だが、洋一が望んでいたのとは違う。

 不承不承手を放した少女たちをしりめに、洋一は必死でベッドに転げ込んだ。頭がぼやけている今、とにかく一人で休みたかった。

「ヨーイチ、それじゃ何かあったら下にいるから」

 サラが最後に声をかけて、少女たちはぞろぞろと部屋を出ていった。

 大きな窓にはカーテンがひかれ、心地よく薄暗い部屋はいきなりガランとしてしまった。

 どうやら休めそうだ。パットもいない。

 出来ればこういう時はメリッサに忍んできてほしいものだが、そんなことになったらグループが崩壊してしまう。もっとも、もし今ここにメリッサが現れて洋一の隣りに滑り込んできたりしたら、洋一は理性を保つ自信はなかった。

 そんなことを考えていたのはほんの数秒だった。洋一は心地よいシーツの冷たさと軟らかい毛布の間で、たちまち眠りに引き込まれていった。

 爽快だった。

 頭が晴れ渡っている。もともとは寝つきや寝起きが良い方ではない洋一だが、ココ島に来てからは人が変わったようにぐっすり眠れるようになってしまった。多分ココ島の気候や環境が体質に合っているのだろう。

 今日も頭が冴えているような気がする。いい気分だった。

 目を開けると、天井が見えた。天井というよりは、屋根の裏というべきかもしれないが、丸太小屋のような材木がむき出しになった光景である。バンガローの2階だから、当然かもしれない。

 ベッドに横になっている事に、その時始めて気が付く。ゆっくりと身体を起こすと、そこは静かで薄暗い部屋だった。

 今回は、さすがのパットも潜り込めなかったようだ。今まで起きたときにパットがくっついていることがあまり多かったので、いないと寂しく感じるくらいだが、ほんの少女とはいえ時々見せるあの大人っぽさを考えると危険きわまりない。間違いが起こる前に、メリッサとの関係を進めておかなければならないだろう。もっとも関係が進んだ後でパットと間違いが起こっても困るのだが。

 ベッドから飛び降りて、カーテンを開ける。いつもの眩しい青空が広がっている。ココ島は今日も快晴だった。

 あれからどのくらい時間がたったのだろうか。

 そういえば腹が減っている。だが、洋一の場合ココ島に来てからは始終腹をすかせているような気がする。うまい空気と激しい行動が身体を活性化させているのだろう。その結果として代謝を促進させているのかもしれない。少なくとも、日本にいる時とはくらべものにならないくらいエネルギーを消費しているのは間違いない。

 運び込まれる時はほとんど寝ていたので気づかなかったが、この建物は巨大な丸太小屋だった。洋一のいる2階は、部屋が占めている部分が建物の面積の半分くらいで、あとの半分は吹き抜けになっている。階段を降りたところがリビングで、ソファーがいくつか置かれていた。

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