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第189章

 そんな洋一にかまわず、サラが話している。

「まず、第3勢力に合流するべきだと思う。カハ族もカハノク族も、この騒ぎの当事者同士だから頼りにならない。内部分裂しているみたいだし、踊らされているだけよ。私たちが動いても無視されるか利用されるだけだし、やっぱりある程度のパワーを持たないと駄目だと思う」

「ヨーイチさんをはめた黒幕をほっとくんですか?」

 意外なことにミナが口をはさんだ。内容ほどには口調は激していない。むしろ淡々とした調子である。

 サラも同じ調子で返した。

「ヨーイチには悪いけど、とりあえずは置いておく。もちろん」

 そこで言葉を切る。そして無表情のまま瞳を光らせた。

「いずれお返しはたっぷりさせて貰う。ヨーイチが満足するまで」

 ミナが頷いた。こっちの目も座っている。今更ながら、凄い少女たちだ。

 メリッサは複雑な表情だった。ジョオが係わっていることに戸惑いを感じているのだろう。あのジョオがまさか、という思いもあるのだ。そもそもメリッサは戦闘的な性格ではないから、このへんの話題にはついていけまい。

 緊張の一瞬が過ぎ、サラは何事もなかったように続ける。

「とにかく、今となってはこの騒動を避けていればいいというわけにはいかなくなったと思う。私たちはともかく、ヨーイチの立場がない。なんとしても、私たちの手でカタをつけなくてはならない」

「賛成」

 意外な所から声が上がった。

 アンが立ち上がっていた。幼い顔を紅潮させて、それでも主人たるミナを真似たのか、淡々とした口調だ。

「最初にこのお話を頂いたときには、特に怪しいというほどではありませんでしたし、ミナ様が主導権を握られていると思いました。ですが、今までのお話と現在の状況からして、私たちも謀られていた事が判りました。これは、ミナ様、いえラライスリの巫女に対する侮辱です。このまま黙って引き下がるわけにはいきません」

 よほど怒っているらしい。目が座っている。

 ミナはちらっとアンを見て、頷いた。

「……そうね。ありがとうアン。その通りだわ。私も黙っているつもりはないの。でも、それはラライスリの巫女としてではなく、ヨーイチさんの……友人としての感情が強い。ヨーイチさんはフライマン共和国のお客様だもの。そのお客様に無礼な振る舞いをした者は、名誉にかけても許すわけにはいかない」

 プライドがそう言わせたのか。洋一のことを「友人」という所で少し声のトーンが変化した。とにかく、色々な感情とか計算がごちゃまぜになっているらしい。

「メリッサさんは?」

 サラが問いかけるように言った。

 メリッサは少し迷ったようだったが、すぐにきっぱりと言った。

「私も賛成します。ヨーイチさんには、本当にご迷惑をかけてしまいました。恥ずかしいです。それに、私の……兄や姉も、ひょっとしたら、いえ多分絡んでいると思います。だから、私もパティも今は帰る気はありません。ヨーイチさんといっしょに行きます」

 一見、単なる決意表明演説に聞こえたが、さりげなく自己主張が組み込まれていた。

 洋一は頭を抱えた。恋する少女との関係がますますややこしいことになってゆく。今の状態では、2人の間に恋愛感情など起きようがない。

 しかもメリッサの宣言のために、グループ内の感情的な構造がますますエスカレートしていた。メリッサにその気がないとしても、聞いている側にはライバル排除宣言に聞こえたかもしれない。ミナもサラも頭が良すぎて、余計なところまで考えてしまうのだ。

 だがさすがにサラは感情を表に出すことはしなかった。何事もなかったかのように頷いて、年少組に声をかける。

「シャナは?」

「行きます」

 これだけである。

 続いてパットに現地語で聞いたが、これはあまり意味のない行為だった。パットにとっては洋一の行く所についてゆくのは当たり前すぎて議論の余地がないことだ。それに、メリッサもいっしょに行くのだから、たとえ禁止されてもパットはついてくるだろう。

 アンについては質問から除外された。最初に表明している。パットとは違った意味でミナと離れられない忠臣である。

 最後にサラは、洋一に言った。

「ヨーイチ、そういうわけで第3勢力と合流するけど、いい?」

 いいも悪いもないだろう。

「ああ」

 もごもご言う洋一ににっこり笑って見せて、サラは自分の役目は済んだとばかりにバトンタッチした。

「それじゃミナ、あとはよろしく御願い」

「判りました」

 ミナの方も、いささかも動ずることなくバトンを受ける。

「ところで、出発の前にひとつ提案があります」

 ミナはぐるりと見回した。

「カハ族でもカハノク族でもないということで、第3勢力などという仮称がまかり通っているみたいですが、そろそろやめにしたいと思います」

「それはそうね。でも、正式な名称ってあるの?」

 サラが口をはさむ。

「ありません。別に、私たちは自らを集団や勢力だと思っているわけではないんです。まあ、強いて言えば漁業貿易派とでも言うしか……」

「失礼ですが、ミナ様は間違っています」

 突然アンが口を挟む。

「私たちは、別に漁業や貿易をやるだけのために集まっているわけではありません。そういう面ももちろんありますが、もっと重要な理由があるのです」

 神懸かりになっている。アンの頬は紅潮し、瞳がきらめいていた。興奮状態にあるらしい。

「ちょっと、アン」

 あわてて止めようとするミナを無視してアンは演説をぶった。

「前にもお話したと思いますが、ミナ様のお母様はラライスリ神殿の巫女です。引退されれば、次の巫女にはミナ様がなることに決まっています」

「決まってないってば!」

「もう決定事項です。だから、みんなはミナ様やお父上の回りに集まってくるのですし、ひとつの勢力と言えるくらいの力になるのです」

 アンは、ここで心持ち声を低くした。

「ですから、これからは私たちのことは、『ラライスリ派』と呼んでいただきたいと思います」

 ミナは匙を投げたようにふてくされている。

 しばらく誰も何も言わなかった。意外というか、こういう方向に話が進むとは思っていなかっただけに、意表をつかれて混乱しているらしい。

「宗教か」

 洋一がぼそっと呟くと、ミナがあわててまくし立てた。

「ヨーイチさん、そんなんじゃないんです。決して怪しいものでは」

「いいんじゃないの。別に名前がどうでも。要は、ヨーイチの役に立つかどうかよ」

 サラが淡々と言った。穏やかだが、底冷えするような声である。ミナはもちろん、アンすら圧倒されたように押し黙った。

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