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第182章

 洋一がふとサラを見ると、サラの方もじっと見返していた。

「お互い、貧乏性だよな」

「残念ながら」

 めったにない、心が通じ合った瞬間だった。

「さあて、どうする?」

「そうね。とりあえず数を数えるというのはどう?」

「やるか」

 洋一とサラは手分けして倉庫の中の木箱を数えてみた。大半の荷は積んであって開けることが出来なかったが、中身が入っていることは確実である。

 木箱の大きさや形からしてピストルが一番多く、その他にはライフル銃、マシンガンが同数くらいあった。不思議なのは、同じ種類のものは数丁ずつしかなかったことである。ひとつの箱に入っている物自体がバラバラなのだ。

 こういうものは、量産しないとコストがかさむはずだ。色々な種類を少量ずつ用意するというのは、一番まずいやり方だといっていい。

「多分、製造元から直接買ったんじゃなくて、あちこちで集めたんじゃないかな」

「でも、何のために?」

「そりゃあ数を揃えるためでしょう」

「モデルガンを? 大体、こんな精巧なモデルガンってあちこちで買い集められるようなものなのか? 金がいくらあっても足りないぞ」

 サラは黙ってしまった。洋一の方だって、別に答えを期待していたわけではない。サラを問いつめても何もならない。

 隅の方からは、弾丸も見つかった。こちらはきちんと包装されていて、これも本物そっくりである。しかし開けてみると、巧妙に本物に似せた花火弾が入っているだけだった。火薬だけで、弾丸がないのだ。

 どうも、こういうモデルガンは洋一が思っているより需要が多いとしか思えない。平和日本ではまずお目にかかれないが、世界のどこかではこういった銃を必要とする状況があるのかもしれない。きっとどこかで大量に作っているのだろう。日本には入ってこないだけなのだ。

「ヨーイチ、こういうモデルガンって日本では持っててもいいものなの?」

 サラが言った。ピストルを弄んでいる。

「日本だと、確か駄目なんじゃないかな。モデルガンは見えるように銃口を詰めて銃身を白く塗るとか聞いたことがある。こんなに本物そっくりだったら、まず法律違反になると思うよ」

「そう。フライマン共和国では、スポーツ用の銃は登録すれば個人でも所持できるはず。このピストルなんか、実際には弾が出ないんだから、オモチャ扱いになるかもしれない」

「へぇ。銃って個人でも持てるのか?」

「ココ島ってスペインとかフランスとかの植民地だったことがあるでしょう。だから法律はヨーロッパ風。まあ、実際には銃なんか持っている人ってほとんどいないけどね。使い道がないから」

 洋一は、改めて手の中のモデルガンを見た。定義にもよるが、これは間違いなく武器には分類されないだろう。本物の銃すら登録すれば所持できるとしたら、この程度のモデルガンにはもっと寛容な気がする。

 実際、至近距離から顔に向けて発射でもしないことには、武器としては使えそうにない。かなり重いので棍棒としてなら使えるかもしれないが。

「それで、どうする?」

「とりあえずは隠しておくしかないわね」

「そりゃそうだけど。隠すといってもなあ。これだけの量を運ぶにはえらく時間がかかるぜ。大体、どこに運べばいいんだ?」

「ノーラさんの……屋敷とか……」

 言いかけてサラは肩をすくめた。ノーラとジョオはつながっていないはずはなく、そんなところにこの荷を移しても意味がない。

「サラにはどこか心当たりはないのか?」

「ない」

 サラは言い切った。それはそうだろう。サラは頼りになるとは言ってもまだ未成年者だし、そんなに都合よく隠し場所などに心当たりがあるはずがない。

 その時洋一は、いつの間にか自分がサラとタメ口を叩いているのに気がついて気が抜けた。サラの心の壁も洋一の気後れも、解消してしまっているようだ。サラの口調も紋切り型から女性らしい軟らかい調子になってきている。

 告白めいたことを言われた時はどうなることかと思ったが、とりあえずは「気の置けない友人」という関係に落ち着いたようだ。もっともサラが内心どう考えているのかは判らないが。

 洋一なんかより遙かに頭がいい彼女のことだから、色々考えているには違いないのだ。

 そんな色恋沙汰に時間を潰している暇はないはずだ。洋一としては、この膨大なやっかいものを何とかしなくてはならない。

 いや。

「サラ、なんか変だと思わないか?」

「え?」

「ノーラさんやジョオさんは、俺にこれをどうさせようというんだろう。いや、大体俺が何とかできると思っているのか?」

 サラは沈黙した。

 そうなのだ。何となく状況に流されて、いつの間にかこのモデルガンの処理が自分の使命であるかのように思いこんでいたが、そもそも洋一やサラと、この荷は何の関係もないのである。確かにこの緊迫した情勢でこんなものがあることがおおっぴらになったら、ますます混乱に拍車がかかるかもしれない。だがそれを止められるのが洋一だけだとか、そういう論法はあり得ない。

 例えばジョオだったら、この程度の問題は鼻歌まじりで片づけてしまうだろう。ノーラにしたって似たようなものだ。あの連中にはそれだけの力がある。

 どうしても洋一が係わった形にもっていきたいのなら、罠にかけるとか、いくらでも方法はあったはずだ。そもそもそんなことをして何のメリットがあるというのだ?

 いくら日本人だといっても、ふらりとやってきた洋一にそんな事ができるはずがない。洋一を武器商人に仕立てるのも無理がある。日本領事館をひっかけようとしているのかもしれないが、だったらアルバイトにすぎない洋一を使うはずがない。

 やはり何かある。

「サラ、とりあえずフケようぜ。ここでこうしていても仕方ないだろう」

 サラ相手なら、日本語のスラングも通じる。

「そうね」

 サラは予想に反してあっさり同意した。サラも色々と考えていて、結論が出ない問題にうんざりしているようだ。

 洋一とサラはモデルガンを元通り木箱に詰めて、申し訳程度にそこらへんにあったシートをかぶせた。この程度の偽装など何にもならないだろうが、やらないよりはましだ。

 シートが足りなくて、半分くらいの箱がむき出しのままだったが仕方がない。

 倉庫には鍵すらついていなかった。洋一は扉をぴったりとしめた。これもどうしようもない。誰か好奇心の強い人がここに興味を持たないことを願うのみだ。

 いつの間にか、太陽が没しようとしていた。

 ココ島の日没はあっという間である。洋一とサラが丘を昇っている最中に、もう暗くなってきた。

「まずいな。ここからフライマンタウンまでは、陸を行くと結構かかるぞ」

「ヨーイチ、よく知っているね」

「俺は最初ここに上陸したんだよ」

 あの時は、荷馬車を押してもいたが、かなりの部分を馬車上で過ごした。それでも相当な時間がかかった気がする。これからフライマンタウンまで歩いて帰るとなると、間違いなく途中で真っ暗になるだろう。

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