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第181章

「さて、と。考えてみたら、あの人めんどうくさい仕事を私に押しつけていったのよね」

「仕事?」

「そう。これについてヨーイチに説明するっていう」

 サラは言いながら、室内いっぱいの荷を指した。

「説明って、サラは判ったのか? あれだけで?」

「多分」

 サラはため息をつくと、ピストルの銃口を洋一に向けた。洋一がびくっと後すざる。サラは手の中でくるっと武器を回し、銃口を自分に向けて洋一に差し出す。

「これ、見て」

「見るって何を」

「いいから」

 洋一が恐る恐る受け取る。サラはじっと見守っている。

 洋一はおずおずとピストルをいじくり回した。ずっしりとして冷たい感触は、洋一の背筋を縮み上がらせる。人を殺せる武器だ。手がしびれそうになったとき、サラが言った。

「ヨーイチ、もっとよく見てよ」

「見ろといっても、どうすればいいんだよ」

「だから!」

 サラがいらついたように洋一の手からピストルを奪い取った。そのまま、慣れた手つきで操作する。

 カチッ、と音を立ててピストルが開いた。これで撃てない。サラは銃口を洋一に向けながら渡す。

 それでもぼんやりと部品をいじくっている洋一に、サラはもうっと苛立った声を上げた。

銃身をつかんで、洋一に覗き込ませる。

「ほら、これでも判らない?」

「……なるほど」

 洋一はやっと了解して頷いた。

 銃口は詰まっていた。それも、ちょっと見たくらいでは判らないように、奧の方で塞がっている。銃口をまともに覗き込んでも、光のかげんがよほどうまくいかない限り見えない巧妙さである。外見や手触りは本物としか思えない出来だったが、このピストルは弾を発射できないのだ。

 もっとよく見てみると、銃身は何かを押し込んで詰めたのではなく、最初からそのように加工してあるのが判った。つまり、これはオモチャなのだ。

「そう、か。だからカハノク族が撃ちまくっても、誰も怪我しなかったのか」

 おかしいと思ってはいたのだ。

 カハノク族急進派の大多数に行き渡るほどの小火器を撃って、怪我人や死人が出ないはずがなかった。もし本当にそんなことになっていたら、大虐殺で今頃ココ島はパニック状態だったはずだ。

「あれ? じゃあ、さっきジョオが撃ったときは何で弾が出たんだ?」

「弾なんか発射されてないのよ。これ見て。すごくよく出来ているオモチャよ」

 サラは弾倉を洋一に見せた。

 洋一も銃に詳しいわけではないが、その部品はどうみても本物に見える。弾がいっぱいつまっていて、禍々しい雰囲気すら醸し出している。

 だがサラが弾を抜いて渡してくれると、たちまち雰囲気は消え失せた。それは、花火でしかなかったのだ。

「凄いな。これで本物とそっくりの煙とか音とか出すわけか」

「多分、ある程度は反動も再現してあるんじゃないかしら。どこで作っているのかしらないけど、ひょっとしたら本物より高いかもしれないわよ」

 洋一はサラが組み立てたピストルを持って、壁に向けて撃ってみた。銃口から煙と火花が吹き出し、軽い反動がある。ハワイで撃ったときより本物に感じられる。

「よく出来てる。銃口を塞いでいる壁に小さな穴があって、そこから火薬が破裂したときの煙が飛び出すみたい。その反動で弾を撃ったときみたいなショックが手に伝わるのね」

「オモチャとしては傑作だな」

 わからないのは、ここまで精巧なオモチャを作ってどうするのかということだが、多分それなりに用途はあるのだろう。映画の撮影とか。

 問題はこのオモチャがなぜココ島にあるのかということだ。しかも、カハ族とカハノク族の衝突という大事件の時に、わざわざ持ち込まれているのはなぜか。

「見てヨーイチ。凄い数よ」

 サラが言った。奧の方の木箱を開けて、銃を取り出す。それはピストルではなく、ライフルか何からしかった。銃身が長く、大きな肩当てがついている。その他にもマシンガンらしいものもあった。ずっしりとした重量感は、どうみても本物である。

 しかし、確かめてみるとすべて偽物だった。模型とは言えない。本物とは違う機能がちゃんとあるのだ。しかしこれだけ精巧なものはオモチャとも言いかねる。モデルガンというのが正しい言い方だろうが、その言葉だけで説明しきれるものでもないことは確かだ。

「普通のモデルガンにはこういう機能はついてないはずよ。知らないで撃ったら本物と思うくらい精巧な機能付きだなんて」

「そうなのか?」

「友達のお兄さんにマニアがいるのよ。モデルガンは見せてもらったことがある。それに、親戚とかパパの友達には本物の軍人もいるから、本物の銃も撃たせて貰ったことがある」

 問題発言だが、今はそんなことを言っているときではない。

 これをどうすればいいのだ?

 倉庫の反対側には中身がない木箱が積んであった。明らかに、ここに一度大量の荷が運び込まれてから、持ち出されたのだ。どれくらいの量がココ島中に散らばっているのか。

 それでも、残っている量に比べればほんの一部と言える。ここにあるモデルガンは、目分量だがカハ族とカハノク族両方の急進派の全員に行き渡らせた上で、第3勢力に配ってもまだ余りそうだ。

「サラ。どうしよう」

 サラは、じろっと洋一を睨んでからプイッと横を向いた。サラとて冷たいとか無責任であるとかではないのだが、これだけの現実を前にして手の打ちようがなく、出来れば洋一に全部押しつけてしまって自分は関わり合いになりたくない、という感情が見え見えである。

 重苦しい沈黙がのしかかってきた。

 先に耐えられなくなったのはサラの方だった。洋一の方は、もう失うものがないのだから、これは当然の結果と言える。

「……とにかく、何とかしなくちゃいけないと思う」

「何とかって、何を?」

 サラは再び沈黙した。

 どっちにしても洋一とサラだけではどうしようもない。運び出すにしろ、その他何かをするにしろ、かなりの人手が必要だろう。

 つまり何をするにせよ、他人を巻き込んでしまう。ノーラなりジョオなりに協力させることになるだろうが、おそらく2人とも洋一の方からアクションをおこさない限り動こうとはしないだろう。何となくそういう気がする。

 このまま立ち去って何も見なかったことにしてしまう、という方法もないではなかったが、ノーラが絡んでいる以上そうもいくまい。いずれは連絡がきて、その無責任の報いを受けることになる。

 厳密に言えば洋一やサラにこのモデルガンについて責任があるとは思えない。しかし誰がとがめなくても、洋一もサラも自分を納得させられるほど都合のいい性格ではないのだ。

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