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第141章

 それが、フライマン共和国に着いてからは、いやソクハキリに出会ってからは毎日のように考えさせられている。

 そして洋一が出会う少女たちは、まさに自分の責任ということをしっかりと心に留めながら、少女らしいまっすぐな姿勢で行動する娘だった。洋一には、まぶしいばかりである。

 そんな少女たちと行動を共にするのは、はっきり言って洋一には重荷である。しかし、そういう少女たちと接しているのは気持ちがいいし、下司な話だが美少女といっしょにいたくないと思う男はめったにいない。しかも少女たちは、それぞれ性格的にも気質的にも不快を感じる娘は一人もいない。どの一人でも、いっしょにいてくれるのを自慢したくなるような素晴らしい娘たちである。

 そしてメリッサ。

 これが恋なのかどうか、洋一にはまだ判っていない。メリッサのことを冷静に考えることが出来なくなっているのは恋の証拠なのかもしれないが、それだけでは決定とは言えないだろう。

 こうして、手を延ばせば届くところにメリッサがいて、だがすぐにでも抱きしめたいなどという感情は沸いてきていない。プラトニックな憧れなのかもしれないが、別にメリッサのことを女神として崇拝する気持ちもない。

 あれほどの美貌についても、今は慣れてしまったのか、一目見て息をのむほどの衝撃は感じなくなった。もちろん、見るたびにそれなりの感動は受けるのだが。

 結局の所、まだ洋一の中では感情が整理されていないらしいのだ。ただ、メリッサに嫌われたくない、あるいは悲しませたくないという衝動は強くて、ほとんど固定観念のようになっている。だから、今はメリッサが頼めば何でもやってしまうだろう。その意味では惚れているといってもいい。いや、恋ではないかもしれないが、惚れてはいるのだ。男は、美しい女性には外見だけで惚れることが出来る。それを思い知った洋一だった。

 だが、幸か不幸か洋一のそばにいるのはメリッサだけではないのだ。パットがいつもくっついているし、ミナやサラたちもいる。しかも、洋一をめぐって少女たちの間に感情的な軋轢があるのは明らかだ。

 その状態で、積極的な行動に出られるほど洋一は厚顔無恥ではないつもりだ。

 もちろん少女たちの軋轢の原因が洋一にあるとは言っても、それがストレートに恋の鞘当てだと考えるほど洋一も甘くはない。

 多分、そちらは恋とかではなくて、競争心のたぐいなのではないかと洋一は思っていた。何もない状態でなら、誰一人として洋一などには関心すら持ってくれないだろう。そもそも、今のような異常な状態でもない限り、ラライスリたちが一堂に会すことなどあり得ないはずなのだ。

 少女たちはそれぞれ生活圏が違うし、立場的にもしょっちゅう出会うようなものではない。例え出会ったとしても、普段ならお互いの社会的な立場を考慮して、通り一遍な挨拶くらいで終わってしまうのは確実である。

 カハ族とカハノク族の対決という異常な状況で、しかも日本領事館の臨時職員というあり得ないような立場の洋一が媒介することで、少女たちは初めて邂逅できたのだ。

 邂逅してしまった以上、お互いに関心を持つのは当然であるし、競争心が芽生えるのは当たり前といえる。理由は何でもいいのだ。別に洋一である必要もないのだが、妙なことに洋一がこの状況の核になってしまっている。競い合う理由が洋一しかないのだから、必然的に洋一を取り合うような形になっているだけのことだ。

 そう思うと、洋一は心が沈んでくる。今までの降って湧いたような幸運が、文字通りかりそめのものであることを思い出さなければならないからだ。

 物語の主人公のような今の立場は、どっちにせよ長くは続かないことは判っている。今こうやってメリッサの美しい背中を当たり前のように見ていることも、そのうち思い出になってしまうだろう。しばらくたてば、自分でもほんとにあったことなのか、想像なのか判らなくなってしまうに違いない。大体、今こうしていることすら、本当に現実なのか時々自信がなくなる。

 洋一が堂々めぐりの暗い考えにふけっている間にも、事態は進展しているようだった。

 不意に、あたりが暗くなったような気がした。はっとして見回すと、一瞬暗闇が見えた。しかし、ラライスリたちははっきり見える。すぐに舞台の外の風景もまるで闇から浮かび上がるように見え始めた。

 まだ明るいが、眩しくて目を開けていられないほどではなくなっている。こちらを照射している光源が減っているのだ。

 よく見ると、暗闇にうずくまるように、暗くなったライトがいくつも見えた。第3勢力は舞台のアピールは十分だと思ったらしい。ありったけのライトで照らしまくるのを中止して、舞台の上はかなり眩しい、といったレベルにまで光量が落ちていた。

 次のステップが開始されるのか?

 それでも、洋一やラライスリたちには何の指示もない。そのせいか、あるいは洋一の知らないシナリオを教えられているのか、ラライスリたちはあいかわらず洋一を守るかのようなポーズをとったままである。

 洋一は座っていればいいのだが、ラライスリたちはかなり不自然な姿勢のままなのだ。疲れているだろうに、そんなそぶりも見せない少女たちには降参である。

 洋一が少し姿勢を変えると、パットが一緒に動く。後ろから抱きつかれているので、背中は椅子の背もたれで守られているものの、パットとじかに接している肩や首筋が暑い。

 それにパットの頬が、故意か偶然かはわからないが、しょっちゅう洋一の頬に接するのだ。甘い吐息を耳元に吹きつけられると、いくら相手がパットでもおかしな気分になってくる。

 問題は、パットが意識してやっているわけではないらしいことだ。パットの接近は、あくまで洋一という「男」にではなく、洋一という「人間」に対してなのである。

 キスを迫ってきたり、機会あるごとにくっついてくるのは精神的な親近感によるものであって、性的なものではない、と思う。

 実を言うとこれは洋一が自分に言い聞かせていることでもある。パットにその気がなくても、美少女のあまりの可愛らしさに洋一の方が「その気」になってしまう危険性がかなり高いのだ。

 それに、多分パットは自分でも気がついていないだろうが、時としてはっきり「女」の行動をとることがある。無意識の行動なだけに、手練手管を駆使したものではないのは幸いだが、それだけにストレートに行動に出やすいのでは、洋一としては常に自分の意識をはっきり保っておく必要があるのだ。

 それにメリッサはどうやらパットの行動にだけは敵愾心を燃やしている気配がある。こちらも無意識なのだろうが、洋一としてはメリッサに嫌われることだけは避けたい。

 そう思いながらも、パットにも嫌われたくないという気持ちもある。我ながら八方美人というか、いいかげんというか、美少女に対してはいい顔を見せたい洋一だった。

 この際、サラやミナについてはとりあえず考えないことにしている。というか、メリッサとパットに比べて、カハノク族と第3勢力のラライスリたちは、どうも判らないところが多すぎるのだ。

 ミナは、今でこそ熱狂的といえるくらいのアタックをかけてきている。だがそれも、公の場では完璧に私情を殺せるミナだけに、どれだけ信用がおけるか疑問だ。ましてや、ミナにはその演技力を以て洋一を動かそうとした前科がある。信じてやりたいとは思うが、どうしても躊躇してしまうのが現状だった。

 サラの方は、多分そういう恋愛感情はない。洋一の方も、その性格や行動力など好みのタイプだとは思うもののはっきり好き、と言い切れるほどの感情はない。目の前にメリッサがいる状態ではなおさらだ。

 あまり突き詰めて考えたくないというのが本音だが、いずれにせよどのラライスリもめったにいないくらいの女の子であることは間違いない。ただ、みんなテンションが高すぎて、洋一ごときの手には負えないかもしれない。そのことも考えたくない理由のひとつなのだが。

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