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第140章

 余興としてみると、これはひどくエキサイティングなものに見えるだろうな、と洋一は思った。

 大部分の者にとっては舞台が遠すぎて、せっかくのラライスリたちも点にしか見えないだろうが、それでも原色の衣を纏った美少女たちの姿は、雰囲気だけでも相当のインパクトがあるはずだ。

 そして、多分どこからともなく噂が伝わってくる。あそこにいるのは、ラライスリたちだと。

 当然のことながら、メリッサの名前が使われるはずだ。知名度でいえば、ココ島で一番である。パットの名前も多少は知れているだろう。

 サラやミナは、そんなに名前が知られているとは思えない。アンやシャナに至っては、ほとんど無名のはずだ。

 だが、噂を流す側はそれで十分なのだ。メリッサがいる、というだけで普通の人は注目するだろうし、サラやミナの名前もメリッサに続いて囁くだけでいい。ラライスリとして出てきている以上、女神の資格はあると思うのは当然だろうし、そもそもサラもミナも実際に美少女だ。

 アンやシャナにしても、この舞台にいるという事実が逆にそう呼ばれる資格を証明している。みんなラライスリなのだ。

 そして、噂は続けるだろう。あそこにいるのは、カハ族のラライスリと、カハノク族のラライスリ、そしてラライスリ神殿の巫女候補だと。

 ここまでくれば、作戦は成功したも同然になる。カハノク族船団の大部分をしめる連中は、もうカハ族など知ったことではなくなるからだ。それでなくても血の気の多い連中だが、それは同時に熱狂しやすいということでもある。目の前で滅多に見られないイベントが繰り広げられようとしているのだ。ここに出てきた目的なんか、一時的にせよどこかにいってしまうに違いない。すごい作戦と言える。しかし。

 よろしい。とにかくも、カハノク族の攻撃は阻止した。だが、これからどうするのだ?

 こうやってラライスリたちがポーズをとっているだけでも、多分数時間程度はもつだろう。しかし一晩中こうしているわけにもいくまい。何の動きもないとしたら、いずれ観客は焦れてくる。夜が明けてしまえば、強烈な光と闇の魔法は消え失せてしまう。そして、その時も第3勢力の船団はカハノク族の包囲下にあるのだ。

 あいかわらず強烈すぎる光だった。第3勢力は、このクルーザーの甲板所狭しと投光器を並べたに違いない。これだけのライトをつけるためには、大型の発電器も持ち込んでいるはずだ。すべて計画されていたのだ。

 つまり、この後の展開についても第3勢力は計画をもっているはずだ。今のところ洋一にはさっぱり見当もつかないが。

 少し落ち着いて、洋一は椅子に座り直した。周りを見回してみる。

 まったく影がない。四方八方からライトを当てられて、みんな光の中に浮いているみたいに見える。

 不意に、洋一の手が滑った。椅子の肘掛けを握りしめていたのだが、いつの間にか汗をかいていた。

 もう日が暮れているとはいえ、ここは南太平洋なのだ。おまけに風もほとんどなく、何もしなくても暖かい季節である。

 暑かった。

 当たり前のことだが、大容量のライトを四方から当てられ続けているのだ。日焼けエステにかかっているようなものだ。このままでは、一晩で全身日に焼けてしまう。

 これも作戦のうちなのか。洋一は歯を食いしばった。作戦とはいえ、実行者の負担に無関心すぎやしないだろうか。

 だが、ラライスリたちは一言も文句を言わない。女の子なんだから、洋一なんかよりはるかに日に焼けることには敏感だろうに。

 そこまで考えて、洋一は肩をすくめた。いつの間にか日本の感覚で考えていたが、ここはフライマン共和国だ。日に焼けるなどということは当たり前のことで、ことさらに避けようとか地黒にしようなどと思うはずがない。いくら年頃の女の子でも、ココ島で日光を避けることなど考えたこともないだろう。

 ということは、ここで暑さを我慢している少女たちにとっては、ただたんに我慢大会に出ている程度の感覚なのかもしれない。

 そういえば、メリッサとパットの姉妹は日に焼けているようには見えなかったな、と洋一は思った。

 目の前に見えるメリッサは四方八方からライトを浴びて輝くような白い肌をさらしている。大きく開いた背中や、すんなりとした腕などは本物の女神にも劣らない。

 洋一の首に回されているパットの手も、あちこち滲みや擦り傷はあるものの、滑らかな白い肌である。この姉妹は日に焼けないらしい。

 メリッサもパットも、洋一と行動している間は太陽の下で平気で歩き回っていたし、帽子をかぶろうとすらしなかった。そういう概念がないのだろうか。そういえば、フライマン共和国で帽子をかぶっている姿を見た覚えがほとんどない。あのフテ島のジョオがそういえば古びた野球帽をかぶっていたような気がするが、あのときは夜だったからファッションでしかないだろう。大体、ジョオの漆黒の肌を日光から守るという意味があるだろうか。

 メリッサの金髪は、長くて重いが金を通り越して透けるような髪質である。プラチナブロンドというのか、観る角度によっては金と銀が入り交じった神々しい光を放つ。自然の緩やかなウェーブがかかっていて、光り輝くようなきらめきを見せるのだが、それも髪が日に焼けているせいもあるのだろう。

 もともとメリッサもパットもおしゃれには無関心に見える。メリッサが化粧しているのを見たことがないし、そもそもフライマン共和国で化粧したところであまり意味がない。ずっと部屋に閉じこもっていないかぎり、1時間で剥げる。

 メリッサの場合、ファッションセンスは抜群に思えるのだが、それは買いかぶりかもしれない、と洋一は思っていた。本人は何も考えていないのに、すばらしいセンスだね、と誉められる人が時々いるが、メリッサはその最たる者だろう。

 何を着ても似合うせいで、ファッションセンスが鋭いような印象を周りに与えているものの、単に実用的なものを必要に応じてその時々身につけているだけなのだ。

 ひょっとしたら、おしゃれという言葉や化粧という概念すらよく判っていないかもしれない。何もしなくても周り中からセンスがいい、とか綺麗だ、などと誉められていれば、おしゃれの必要もないわけだ。

 メリッサはそれで判るが、改めて考えてみるとミナやサラも化粧している様子がない。つまりは、みんな地のままで勝負していて、それでいて美少女なのだ。まあ、年齢からいっても、またお国柄からも、あまり化粧する環境ではなさそうだが。

 洋一はラライスリたちのことを美少女、と捉えている。メリッサについてはあまりにも豪奢な雰囲気であるため美女と思うこともあるが、基本的には少女だ。

 別に彼女たちが洋一より年下だからというわけではなく、自然に接しているとどう考えても大人の女性というよりは少女としてのイメージが強い。その証拠に、アマンダについては洋一は一度たりとも少女と思ったことはない。

 洋一にとっては、大人の女性などというものは苦手意識が先走るばかりで、いくら美人でもあまり関心がない。自分が青二才であることを、特にフライマン共和国にきてから嫌と言うほど認識させられていることもあって、少なくとも自分より年下で、かつあまり意識的に成熟していない女の子が望ましい。

 そうは言いつつも、実は洋一の出会う少女たちはみんなしっかりしすぎている嫌いがある。外見も行動も、見た目には少女以外の何者でもないのだが、その行動の根底にある原理というか考え方が大人で、とうてい洋一より年下のようには思えないのだ。

 日本のノンボリ学生である洋一は、もともと人生とか社会責任とかについて普段から考える習慣がついていない。そういう部分についてストレートに試されるような状況に追い込まれることなどなかったのだから、仕方がないとは思うが。

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