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第139章

 そうかもしれないが、あの船団の大部分はただ遊び半分の船旅を楽しんでいるようにしか見えなかったのも事実である。

 そういう風に考えてみると、あの船団にいた連中はカハ族の先鋭分子などではなかったのかもしれない。ただカハ祭りをやろうとしているだけで、別にカハノク族を叩きつぶそうなどと決心しているわけではなかったのだ。

 もともと洋一が同行したのは平和的な海のカハ祭りである。あの食事船の船内の得体の知れない隠し部屋で、ソクハキリからカハ族対カハノク族の一触即発について聞かされてから、あっという間に事態が動いて流されるまでは、そんな裏があろうとは思っても見なかった。

 実を言うとあのソクハキリの話が真実かどうかについても、本当には判らない。ソクハキリもアマンダも策士で政治家だから、洋一を利用しようと思えば騙すくらいは平気でやるだろう。洋一を騙して何の役にたつのかは判らないが。まあ、洋一が今ここにいるということは、何かの役にたたせようというつもりなのだろうが。

 しかし、ここまでの展開がすべて予定されていたのだとすると、ソクハキリたちはどう考えても第3勢力とつながっていることになる。ミナはそんな風には言っていなかったのだが、ミナだって全部知っているとは限らない。むしろ、あのカリスマ性からして、参謀というよりは前線で目立って指揮する要員という気がする。つまり、あまり重要なことは知らされない兵隊という役割である可能性が高い。

 ということは、やはりどころかに黒幕がいるはずだ。それも、カハ族のソクハキリや第3勢力のミナの父親などを配下におくか、少なくとも協力関係にあってその配下の人間を思いのままに動かすことのできる黒幕が。

 そう考えてゆくと、もっと別の可能性もある。カハ族と第3勢力を裏で操るほどの者が、カハノク族だけを野放しにしておくだろうか?

 何かを計画していて、その結果ここまで盛大な騒ぎを引き起こしたのだとしたら、カハノク族だけが無関係というのはあり得ないだろう。完全に抱き込むのは無理としても、カハ族みたいに上層部には話が通じている、と考えた方が自然だ。

 だから、カハ族とカハノク族が集団で激突しているはずのここでも、人が死んだとか大規模に怪我人が出たとかの情報は伝わってこない。それは、2大集団の上層部では話が通じているからではないのか。

 そうは言っても、話が通じているのが上層だけだとしたら、それも問題である。物事には勢いというものがあるし、これだけの大集団を完全にコントロールするなど出来るはずがないから、ひとつ間違えたら本当の戦争になってしまう危険性は常にある。

 ましてや、相当数の連中は戦争するつもりで出てきているのだ。むしろ、ここまで引っ張っておいて何とか衝突をくい止めていることの方が驚きだ。

 いずれにせよ、この舞台が第3勢力だけの一人芝居ではないことはほぼ確実と思える。としたら、少しだが希望が見えてきたのではないか。訳の分からないまま騒動に巻き込まれるのも嫌だが、自分の失敗でフライマン共和国を内乱に追い込むことになってしまうのではないかという不安が少しは解消されたことになる。

 甲板にもどると、辺りはすっかり暗くなっていた。まだ西の空は明るいものの、真上には星が見え始めているし、東の方はもう水平線が見えない。

 周囲を囲んでいるカハノク族の船も明かりを灯し始めたらしい。ポツポツと見えていた光が、みるみる増えて行く。

 このまま日が暮れてしまえば、お互いに下手な行動は出来なくなるだろう。ここまで包囲されてしまってはとても脱出は出来ないが、とりあえず明日の朝までは無事に過ごせるかもしれない。

 だが、それは甘い考えだった。

 いきなり周囲が明るくなった。強烈な光に目がくらむ。洋一は必死で光源から目を背けた。

 いつの間にか甲板の各所に設置されていた投光器が、クルーザーの随所を二重三重に浮かび上がらせていた。それも、ラライスリたちのいる舞台に集中している。まさしく、舞台だった。女神たちがオンステージしたのである。

 ようやく目が慣れてきたが、あまりにも明るすぎて、回りが何も見えない。周囲の海やカハノク族の船団なども、闇にとけ込んでしまっている。

 洋一が呆然としていると、舞台から誰かが駆け寄ってきて腕をつかんだ。

「ヨーイチ、早く! 主役がいないとどうしようもない」

 サラだった。

 洋一は引っ張られるままに、光の洪水の中に戻った。

 ラライスリたちは、光臨を背にして洋一を迎えた。少女たちは前後左右から照射され、あらゆる部分が光りを反射して、まさしく女神の群に見える。

 洋一がよろよろと中央の椅子に座り込む。それを確認して、女神たちは洋一を守るように散開した。といっても、舞台が狭いせいでほんの1,2歩進んで跪いたりポーズをとったりしただけである。学芸会並の演技だったが、あまりにも強烈な光のために、かえって神々しくさえ見えた。

 回りからはどう見えるんだろう?

 直接目に飛び込んでくる投光器を避けながらあたりを伺ってみるが、ラライスリたちの向こうは真の闇である。まるで洋一と少女たちを乗せた舞台だけが何もないところに浮いているようだ。

 それでも、しばらくすると洋一は何か唸りのような音が響いてくるのに気がついた。それは大きくなったり小さくなったりしているが、絶え間なく続いている。それが回り中の闇の奧から響いてくることが判ると、正体は割れた。

 歓声なのだ。

 おそらく、カハノク族の船団から見るとラライスリたちを乗せた舞台だけが闇の中に浮かび上がって見えるに違いない。

 つまりは、これも計画に入っているということか。

 ちょうどこの地点で舞台の用意が整ったときに日が暮れるように、タイミングを図っていたに違いない。太陽の下では無数の船に紛れてしまう女神達の舞台は、こうやって暗闇の中でライトアップすればその存在を強烈にアピールできる。

 しかも、海上なら周囲360度が観客席として使える。だからこそ、第3勢力の船団はあえてカハノク族の艦隊の中心に飛び込み、舞台を乗せたクルーザーを守るように円陣を作ったのだ。

 凄い企画だった。深夜の野外コンサート並の状況を、第3勢力は戦争中にでっちあげてしまったのである。

 多分、これを計画したのは第3勢力ではあるまい。もっと視野が広く、カハ族やカハノク族を含めた全体的な勢力や状況を俯瞰できる立場の者でないと、ここまではやれないだろう。

 大体、第3勢力が独自でこれだけの仕掛けを実行するというのには無理がある。カハノク側の情報も必要だろうし、そもそもカハノク族自身に協力して貰わなければ、ここまでうまくはやれまい。いや、少なくともカハノク族の幹部というか、ある程度カハノク族の行動を左右できる者と共謀しなければなるまい。

 そして第3勢力が直接その幹部と交渉したとは思えないのだ。カハ族やカハノク族にとっては、第3勢力などはしょせん弱小勢力にすぎないし、へたをすると人死にが出るような状況にもってゆくほど第3勢力を信用しきれるとは思えない。どうしても、もっと上で全体を操ることのできる存在が必要だ。

 ここに集まっているカハノク族は何を考えているのだろう。まさか第3勢力がこれを仕掛けているとは思ってはいまい。普通の者には、第3勢力などというものが存在していることさえ知られていないはずだ。

 だから、今集結しているカハノク族の大部分にとっては、闇の中で強烈に自己の存在をアピールしている舞台は、何かの余興くらいにしか思われていないに違いない。

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