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第135章

 死んでもいいか、と洋一は不意に思った。そこまで考えなくてもいいのだが、洋一は最悪の結果を規定してしまう癖がある。

 それに、一人では死なないだろう、という甘えにも似た期待もあった。これだけの美少女たちに囲まれて往生出来るのなら、それは幸せな一生だったと言えるのではないか。

 それも、ただの美しい少女というだけではなく、可愛いかったり性格が良かったり料理が上手かったりする、およそ洋一みたいな平凡な青年には高嶺の花としか言えない娘、それも複数だ。

 それもいいではないか、と思ってしまう洋一である。もちろん生きて、これからもつきあっていけて、出来たら恋も成就させたいと思ってはいるのだが、現時点でもとりあえずは満足だった。

覚悟を決めて、洋一は腕を組んだ。メリッサたちも、ほっとしたようにうなずいて、しかしもう跪こうとはせずに洋一の周りに集まってきた。

 今までも洋一を中心として陣形を組んでいたラライスリたちだったが、ほとんど密着しかねないような位置である。洋一の首にしがみついているパットは露骨に不快そうな表情を見せたが何も言わなかった。

 やがて、ラライスリたちは円形に並んだ。洋一に背を向けて、全方位からの攻撃から洋一を守ろうとするかのようだ。唯一パットだけは今までのままの姿勢だったが、これは洋一の背中を身を挺してかばっていると言えなくもない姿だからいいのかもしれない。

 洋一の正面はメリッサだった。美女は背中を見ても美しい。ギリシャ風のキトンに似た服なので、肩胛骨あたりの肌が露出していて、ものすごく色っぽい。

 他のラライスリたちも負けてはいなかった。ミナの肩は意外に細い。斜め後ろからみて初めて気がついたのだが、ミナはむしろきゃしゃといっていいくらいの体格である。

 サラのスタイルも想像以上に洋一好みで、身体はスレンダーなのにヒップが立派だった。ラライスリの衣装は女神の例にもれず露出度が高いのだが、フライマン共和国の女性は普段からそれ以上に露出の高い服を着ている。今はむしろ肌を隠しているといってもいい姿だが、衣装の隙間からチラチラのぞく肌が魅力的で、洋一は目のやり場に困った。

 アンとシャナは、後ろから見ても子供である。パットと違って洋一に迫ったりしないので、洋一としても特に意識することもないのだが、それでも2人ともその年齢なりに魅力的ではある。シャナの賢さも、アンのきまじめな性格も、洋一には快く感じられる性質だが、だからといってロリコンに走るほどのことでもないから、その点ではまだ気が楽だ。

 それにしても、後ろ姿を見ると今までわからなかったことが判ってくるものだ。メリッサは、思ったよりボリュームのある骨格を持っている。いつもは華麗な美貌に目がいってしまって、身体をじっくり観察したことがなかったのだが、こうして見ると白色人種らしい骨太の体格である。

 姿勢がよく、肉付きも薄いのでスレンダーに見えるが、実際に抱いたら案外豊満な身体をしているかもしれない。特に胸と尻のあたりは、衣装の布をはっきりと形作っているくらい立派である。

 メリッサの場合、その美貌だけであたりを圧倒してしまうが、その美貌に釣り合う身体も併せ持っているというわけだった。だが洋一の見るところ、どうもメリッサを女神たらしめているのは美貌とかスタイルとかではないような気がする。

 最初にメリッサを見たとき、洋一は映画女優のようだと思った。あれは映画スター並のきっちりとした「自分の見せ方」をメリッサがやっていたからではないかという気がする。

 もちろん、メリッサは意識してやっているわけではないだろう。おそらく生真面目で緊張しやすい性格のせいで無意識に自分を「見せて」いるに違いない。

 それが異様にさまになるのは、メリッサの美貌と身体のせいだ。普通の人でも見せ方でずいぶん違ってくるものだが、メリッサの場合はただでさえ人目を集める外見をさらに磨く結果になったのだ。

 だが、それだけでは人は女神にはなれない。異常なカリスマを発揮するメリッサの秘密は、その性格の陰の部分にあるのではないだろうか。表面的な、かわいくて献身的なそれではない。パットとは反対方向の、マイナスの引力とでもいうべき資質である。暗い、というわけではないのだが、メリッサには華麗な外見とは裏腹に陰火的な影の部分があって、それがちらちらと姿を見せるのだ。

 表面的に明るい性格と眩しいばかりの美貌に隠れて、視界の隅を漂う影。そのミスマッチが強烈なカリスマを生む。それがカハ族のラライスリの秘密だ。

 メリッサ本人は、多分自分の影響力にはまったく気がついていない。いや、自分が周りにどういう効果を及ぼすのかは、いつも経験しているからある程度は知っているだろうが、なぜそうなるのかは知らないはずだ。

 アメリカに留学したことがあるとアマンダが言っていたが、その時の経験から自分が他人、とくに男に強烈な影響を与えてしまい、そのせいで相手が理性を失ってしまったような行動をとることを恐れているのだろう。だから、人見知りのような態度をとっていたわけだ。

 洋一にも最初はそうだった。だが、洋一の場合はソクハキリとの約束や、パットがつきまとったりしていたせいで、メリッサの影響を受けてもすぐには目立った行動に出られなかったのである。

 そのうちに、洋一もメリッサに慣れてきて、あまり過激な行動に出る心配がなくなってきた。パットがいつもそばにいたことも、メリッサの警戒心をとくのに役だったのかもしれない。

 メリッサが洋一に好意を寄せる理由としてはこんなところか。要するに、恋愛感情など微塵もない「安全なお友達」として認識されているわけだった。

 だからこそ、「私たちが守ります」などという言い方が出来る。少しでも恋愛感情が入っていたら、そんなクサいセリフは吐けないはずだ。

 いや、ちょっと待てよ、と洋一は思った。

 だとすると、あのタカルル神殿跡でのエピソードは何なのだ?

 あれは、まさしくラライスリとタカルルの邂逅だった。洋一とメリッサは神々に乗り移られたかのような行動をとった。もちろん、神々が2人を代理に使ったのだとしたら、洋一たちには何の関係もない。ただ都合のいいシュチュエィションにおいて利用されたというだけだ。

 だが、あれは本当にそれだけだったんだろうか? 2人とも「その気」になってはいなかったか?

 少なくとも洋一に関しては、何が何やらわからなかっただけで、その気どころか何の感情もなかった。後になって色々考えているだけで、現場ではほとんど眠っていたようなものだから、何の気にもなりようがない。

 メリッサの方はどうだったのか。それは知りようがないが、自分の意に反したことをやらされたのだったらもっと反発していてもいいはずだ。

 あの後、洋一を置き去りにして第3勢力に引き渡したりしているから、ひょっとして怒ったのかとも思っていたが、あの後の行動を見るとそれはないようだ。

 だとしたら、逆なのではないだろうか。洋一に対して何らかの感情を持ったために、とりあえず離れたという解釈もできないか?

 もちろん、あんな行動をとったのはソクハキリか誰かに命じられていたからなのは確かなのだが。

 いきなり耳元で高い声が響きわたり、洋一は飛び上がった。パットが洋一の首をぐいぐい締めつけながら、興奮して何か早口でしゃべっている。

 洋一は夢から醒めたかのように辺りを見回し、ため息をついた。こんな場合だというのに、また妄想に陥っていたらしい。おそらくメリッサの背中を見ているうちに、引きずりこまれるように想念の世界へ落ち込んでいったに違いなかった。

 周り中で生きるか死ぬかという大騒ぎをやっているのに、よくもまあ沈黙思考におちいれたものだと思うが、無意識のうちに現実逃避をしていたというのが真相だろう。幸いなことに、洋一以外の全員が全方位から接近しつつあるカハノク族の艦隊に気を取られていたため、一人沈み込んでいる洋一に誰も気がつかなかったようだ。

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