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第131章

 いや、それとももっと機動力の高いクルーザーか何かに乗り換えただろうか? 洋一が最初に乗せられたのは、アマンダの旗艦といえる「指揮船」だったはずだ。

 だが、最初の頃のカハ祭り船団程度の規模ならともかく、これだけの艦隊をあの指揮船で制御することはできまい。何より、あの指揮船にはろくな通信整備がなかった。羊の群の周りを走り回って争いを治めるには適していても、艦隊を率いて広大な戦場を駆けるには役者不足だろう。

 やはり、あの食事船だ。あそこに、カハ族の中枢が居る。

 そのときだった。洋一は、いきなり横に引っ張られた。あわてて椅子の肘掛けにつかまって身体を支える。

 ラライスリたちも、バランスを崩していた。さすがに転んだ者は一人もいなかったが、てんでに何かにつかまっている。

 水平線が斜めになり、激しい水しぶきが上がって、それからまた水平に戻った。だが、もはや進行方向にはカハ族の艦隊はいない。

後ろを振り向けば、続いてくる船が一様に、モーターボート競技のように水しぶきをあげながら旋回している。

 第3勢力の船団は、方向を転換したのだ。カハ族艦隊の中核を襲うという計画ではないらしい。

 そういえば、タカルルとしての演技指導どころか、これがどういう芝居なのかすら洋一は知らされていない。ストーリーが判らないのだから、演技のしようがないのだ。まあ、この椅子が示すように、ただ座っているだけの役なら別に演技はいらないわけではある。

 思えば、洋一が最初にソクハキリに頼まれたのも、囮というかカカシの役だった。ただいるだけでいいから、というのは洋一の適役なのかもしれない。

 あのときは、無料で豪華なココ島観光が出来る上に綺麗どころをあてがってくれる、という条件だった。ソクハキリの誘いに乗ったことは、洋一は今でも後悔していない。あの役目を引き受けたからこそメリッサに出会えたのだし、サラやミナや、その他の人たちとも出会えた。単なる観光旅行では絶対ありえない、いやいくら金を積んでもおいそれとは経験できないような素晴らしい体験をすることができた。まさに、洋一にとっては幸運の誘いだったといっていい。

 だが、満足しているかと聞かれると、そう言い切れないのが悲しい。素晴らしい経験とはいえ、ただそれは誰かのストーリー通りに役を演じてきたにすぎないことがわかっているのだ。

 これは、男として、いや人間として屈辱的なことである。判って、納得した上で操られているのならともかく、ただ単に流されているだけで、しかも何とかしようとは思っていてもどうにもならない。さらに悪いことに、不満を抱きながらもメリッサや他の女の子たちにちやほやされる快感に溺れて、自分から何とかしようという気すら失っているのだ。

 何をしていいのかわからない、というのは言い訳である。それを自分でも判っているところがさらに情けない。

 逃げなかっただけでも立派だった、と洋一は自分をなぐさめた。もっとも逃げる暇もないまま、どんどん押し流されてしまったというのが本当の所である。

 厳密に言えば何度かチャンスはあったのだが、右も左もわからない異国で迷うのが関の山だっただろうし、大体逃げたりしたらもう二度と日の当たるところを歩けなくなりそうだ。その頼りないプライドが洋一を支えてきたと言っていい。

 うまくやろうなんて思うな、と洋一は自分に言い聞かせた。全力で自分に出来ることをすればいいのだ。メリッサは、判ってくれるだろう。サラもミナも認めてくれるはずだ。

 あの娘たちが、今時めったに見られないくらい性根の座った、それでいてまっすくで強い性格であることは判っている。だから、洋一は彼女たちを正面から見られないようなことをしなければいい。

 それにしても、俺は一体誰に惚れているのだろう、と洋一は自問した。今の状況でそんなことを考えること自体が現実逃避なのではないかという疑いはあったが、実際問題としてこうやってラライスリたちにかしずかれて椅子に座っている以外に何もすることがないのだから、機会をとらえて少しでも自分の心の中を整理しておくに越したことはない。

 もちろん、メリッサが一番だ。それは判っている。美人だし、かわいいし、性格もいいし、ちょっと精神的に不安定なところもあるが、あれほど理想的な女の子はめったにいない。洋一でなくても惚れるのは当たり前だ。

 その一方で、あまりにも完璧すぎるという欠点もある。特にその美貌とカリスマは、普通の男では持て余す公算が高い。何事も釣り合いが大事だ、と洋一は考えている。要するに分不相応なことはするなということなのだが、その観点から見ると、客観的に見て今の洋一とメリッサではあまりにも格が違いすぎる。

 格が違うからと言ってあっさり諦める必要はないのだが、度がすぎると本人も周囲も不幸になる。

 まあ、洋一が努力してメリッサに釣り合う男になればいいのだが、なれるとしてもどれくらい先になるか神のみぞ知る。むしろ、挫折する確率の方が高い。

 つまり、現時点ではメリッサとの将来は暗いという結論しか出ないのである。しかも、これはメリッサ自身の気持ちを考えに入れない計算であって、そもそもメリッサが洋一のことなど何とも思っていないとしたら、茶番劇にしかないないだろう。惚れるのは自由だから、それはいいとしても、どちらにせよメリッサ相手の恋愛は洋一に相当の決心と努力を強いることは間違いない。

 では、他の女の子はどうだろうか。

 サラは問題外だ。どう考えても、サラが洋一のことを相手にするとは思えない。そういうキャラクターではないのだ。

 洋一から見たら、女の子たちの中では一番親しみやすいかもしれない。日本人とフライマン共和国人のハーフであり、外見は日本人とまったくかわらない。日本で育ったことから、生活経験に共通基盤があって、以心伝心が通じることもある。それに、身分や格からいって洋一と一番釣り合っているとも言えるのだ。

 これは比較しての問題である。サラも客観的に見て美少女だ。日本にいれば、ボーイフレンドに不自由することはあるまい。だが、逆に言えば並の美少女というだけであって、その程度の女の子ならそう珍しくないとも言える。もちろん、それですら洋一から見たら高嶺の花なのだが。

 ミナはどうか。

 とびきりの美少女と言える。美貌はある意味メリッサに匹敵するだろう。カリスマも、メリッサとタイプは違うが十分にもっている。つまり、洋一には釣り合わない。

 だが、ミナと洋一は一番本音の部分で接触してきている。お互いに上辺だけの言葉のやりとりだけでなく、本音の……それ故に汚い部分を見せ合っている。ミナなどは、露骨に洋一を懐柔しようと試みたり、それに失敗して泣きわめくという醜態まで見せているし、面と向かって「好き」と言ってくれた唯一の女の子でもある。

 それがどれほど本気なのかはわからないとしても、少なくともその点では他の2人を大きく引き離していると言えるだろう。

 もちろん、ミナにも他の2人と同じ条件があてはまる。すなわち、どう考えても洋一ごときが相手に出来る女の子ではない。それに加えて、第3勢力の中では未成年の女性でありながらも幹部級の権威を持ち、実質的には指揮官として動けるほどの能力や、将来はラライスリ神殿の巫女にもなろうという立場など、考えれば考えるほど洋一からかけ離れてしまう。

 否定的な材料ばかり揃えているわけではないのだが、真面目に考えると3人のラライスリたちはみんな高嶺の花としか思えない。事実、日本のどこかの通りにいる自分を考えてみると、その隣に立つ彼女たちは、洋一にはどうしても想像出来ない。

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