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第110章

 ふと気づくと、洋一の右手にはメリッサがいたし、その反対側にはサラが立っている。

 年長組の3人の美女は、全員洋一のそばにいたらしい。

 それがいつからのことなのかはもう判らないが、あの不意打ちのキスは、位置的にはこの3人全員が出来たことになる。

 一方、年少組の3人は懐中電灯を持つアンの回りにいるようだ。白い円があちこち落ち着かなげに動いていたが、不意に光がこっちを向いた。

 洋一はまぶしさに思わず目を覆った。

 その光が無くなると同時に叫び声があがり、続いて何かが突進してくるような音がして、最後に何かが洋一にぶつかってきた。

 かろうじてひっくり返らずにすんだのは、ここしばらくの条件反射で身体が自動的に動いたからである。小柄だとは言え、元気な少女が思い切りぶつかってくるのだから、覚悟を決めて受け止めないと簡単に押し倒される恐れがある。

「ヨーイチ!」

 その後は、いつもの通りペラペラと判らない言葉が続く。

 やっと目が慣れて視界が戻ってくると、さっきよりは明るさを増した周囲では、年長組の3人の美女が辛抱強く待っていた。

 メリッサは、冷静に見せかけているがかなりいらついているようだ。身体に緊張が見える。

 サラは、そんなメリッサを横目で見ながら、苦笑をかみ殺しているらしい。そしてミナは、少し引いた体勢で洋一を見つめている。その瞳の熱さに、洋一は思わず目を逸らせた。

 こういう状態が続くのはやりきれない。いっそパットにしがみつかれている方がマシなくらいだ。

 気にするな、と思いながら突っ立っていると、懐中電灯が近づいてきた。もう一人、若い男がミナに近づいて、何やら耳打ちしている。

 連絡係らしいが、洋一の方を向いた顔は色々な感情が入り乱れているようだ。

 メリッサをはじめとする美女たちに囲まれている洋一への嫉妬と反感が一番強いが、それ以外にも、タカルルの化身と言われる洋一への興味や、これだけの上玉を周囲に集めてみせる以上、やはり何かあるのではないかというかすかな畏怖、そして現在進行中の事態にこの得体の知れない日本人がどう役に立つのかという疑問などが渾然となって、結果として何とも形容のしようがない表情になっている、ように思われる。

 洋一は思わず顔を背けた。

 今まであまり考えなかったが、フライマン共和国の人たちが洋一をどう思っているのかを見せつけられた思いだった。

 これからカハ族とカハノク族がぶつかろうとしている場所へ、何の策もなく飛び込んでいかなければならないのだ。問題の解決に役立つどころか、洋一が姿を見せることで、かえって事態が悪化するかもしれない。

 それでも行かなければならないのであれば、出来れば最後までそういう目で見られたくはない。

 青年が走り去ると、ミナが洋一の前に来た。

「ヨーイチさん、すぐに出発します」

「ミナのお父さんたちと合流しないのか?」

「時間が惜しいので、ここは通過したらしいです。私たちは『ラライスリ』で行きます。あれは高速艇ですから、途中で追いつけると思います」

「わかった」

 ミナは頷いて、海に向かって歩き始めた。

 洋一が腕にパットをしがみつかせたまま続いた。その後ろを残りの少女たちがバラバラについてゆく。

 『ラライスリ』は、着いたときと同じ場所に係留されていた。すでに波打ち際には大型のゴムボートが用意されていて、さっきの若い男が操舵席についている。

 洋一が6人の少女を引き連れた形で乗り込むと、その男は無言でゴムボートを発進させた。視線はまっすぐ前方に固定したままで、洋一の方には一切注意を払っていない。

 いや、そう見えるだけで、実際には全身を耳や目にしているに違いない。それが判っているのか、女の子たちはパットですら一言も話さず、『ラライスリ』に着くまで沈黙を守りきった。

 アンが真っ先に駆け上がり、続いてミナが軽々と昇る。この中で一番身が重いのは洋一だった。昇るのを手伝ってくれないだけ、洋一のプライドを尊重してくれているのかもしれない。

 アンが、ミナの号令のもと、エンジンをスタートさせた。船長がミナで航海士がアンであるのは暗黙の了解である。

 洋一が振り返ると、ゴムボートの男が見送っていて、洋一と視線を合うとあわてて目をそらし、海岸に戻っていった。

 あの男はこれからどうするのだろうか? ミナに何か報告していたから、多分ミナの父親の部下か何かなのだろう。洋一たちと一緒に『ラライスリ』に乗らないのは、誰かの命令なのか。

 ともあれ、『ラライスリ』は洋一と少女たちだけを乗せて、快調に航路を進んでいる。昼間は気づかなかったが、このクルーザーはなかなか優秀な船のようだ。まだ暗いのに、アンは羅針盤らしい計器を見ながら緊張した様子もなく操舵している。

 ふと気づくと、洋一の回りから少女たちが見えなくなっていた。パットすらいない。気をきかせてくれたのか、あるいは牽制しあっているのか、アンを除いて全員が船室に入っていた。

 洋一は、しばらく遠ざかって行く黒々とした海岸を見ていたが、やがて闇に紛れて見えなくなると船室に入った。

 『ラライスリ』は外洋クルーザーとしては小さい方で、船室も洋一の感覚では3畳間程度である。そこにアンを除く5人の少女たちが詰め込まれているせいで、船室の中は甘酸っぱい匂いが立ちこめていた。

 普段は気づかないが、こんな密閉されたところでは、少女たちの匂いは強烈に洋一を刺激する。

 圧倒されて立ちすくむ洋一めがけて、いつものようにパットが飛びついてきた。

「ヨーイチ!」

 もはや習慣にすらなった動作で反射的にパットを受け止め、洋一はドアの前に腰を降ろした。実のところ、船室の床は少女たちでいっぱいで、そこしか空いてなかった。

 パットは、ちゃっかりとあぐらをかいた洋一を椅子にして座り込み、みんなを見回す。何も言わなくても、洋一を独占して得意なのは明らかだった。

 それに対して、他の少女たちの反応はさまざまだった。まったく気にしていないように見えるのはシャナだけで、年長組の3人はそれぞれの表情を見せている。

 メリッサは、怒っていた。怒りの対象が洋一なのかパットなのかは不明である。

 サラは、見ないふりをしているようだ。さっき、倉庫にいた時とは少し表情が違う。

 そしてミナは、純粋な表情をしていた。何かの感情がこもっているようなのだが、それが何なのかは判らない。ただ、さっきより熱がさらに増しているように感じられた。

 いずれもハイティーンの少女たちだから、洋一ごときにその感情の動きを理解できるはずもない。洋一としては、ただでさえ危険な状態のときに、さらに余計なトラブルが爆発しないように祈るばかりである。

 もっとも、そう思いつつもパットのスキンシップを振り切れないのだから、身勝手というより情けないと言うべきだろう。

幸い、これだけの注視の中では腕の中にパットがいてもおかしな気分にならないですむ。もともとロリコンの気はない洋一だったが、パットは時として年齢に不相応に驚くほど魅力的になるので、洋一としては用心するに越したことはない。

 なんとなく、全員が押し黙ったまま時が過ぎていった。ふと気がつくと、舷窓が明るくなっている。もう夜が開けたのだろう。

 サラがうとうとしている。おそらく徹夜だったのだろう。やがて、壁にもたれかかりながら寝込んでしまったようだ。洋一を除いては、この中で最年長だから、何かと気をつかっていたのかもしれない。

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