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第105章

 洋一は、努めて事務的に言った。

「それで、最初は拒否されたみたいだったのか。こっちもとまどってたから、あまり気にはならなかったけれどな」

「……本当は、カハ祭り船団に同行するはずではなかったんです」

 メリッサが呟くように言った。

「ヨーイチさん、私のベーコンをおいしいって言ってくれたんでしょう? 後で兄から聞きました。それなのに、あんな失礼な態度をとってしまって、気になって仕方がなくて、気がついたら船に乗っていたんです」

「……ああ、最初の食事のとき?」

 そう言えば、ソクハキリの屋敷で朝飯を食べたとき、初めてメリッサと握手した覚えがある。そのときは、ほとんど会話もなく、それどころか無視されていると思ったものだが。

「出発のセレモニーの後、パティの世話をしているヨーイチさんをみて、誤解に気づきました。だけど、ひどい態度ばかりとっていたから、恥ずかしくて、謝ろうと思ってもうまくいかなくて……。それに、やっつけ仕事みたいなお食事ばかり食べさせていたことも気になって、しつこくつきまとってしまいました。ごめんなさい」

 洋一の感覚では、これほどの美女がここまでへりくだって話すこと自体に違和感がある。

 これだけの容姿に恵まれていたら、普通は幼い頃からちやほやされて、十中八九高慢な性格になるか、反動で自閉症とか依存症とかになってもおかしくはない。

 もちろん、メリッサはそのどれでもない。きわめて礼儀正しく、年齢の割にはしっかりしすぎているといってもいいくらいの娘だ。

 最初の態度があれだったし、アマンダから色々吹き込まれていたせいで、洋一はメリッサの性格をかなり誤解していたようだ。

 しかし、これでまたメリッサが遠くなってしまったような気がする。女神が理想的な性格だったりしたら、洋一なんかには絶対手が届かない。

 それに、カハ祭り船団の指揮船でやたら親切な出前をしてくれていたのは、言ってみればメリッサの罪悪感故だったらしい。

 てっきり特別の好意でやってくれているのだとばかり思っていた洋一は、顔には出さなかったが少しがっかりした。

 まあ、嫌われているわけではないのだし、どちらかと言えば好意を持ってくれていると思われるのだから、文句など言える義理ではないのだが。

「おかしいと気づいたのは、あのラライスリのイベントからです。それまでも違和感はあったんです。姉さんの態度や、ヨーイチさんを指揮船に閉じこめておくみたいなことが不自然に思えて、調べてみたら陰謀があったんです。でも」

 メリッサは、訴えるような瞳で洋一を見た。

「兄に口止めされていたんです。絶対に危険はないからって、それにこれはココ島、いやフライマン共和国のためになることだからって。そうまで言われたら、私は何も言えませんでした」

 メリッサは、また顔を伏せてしまった。

「全然気にしてないよ。それに無事だったんだし」

「でも……でも、あのあとカハノク族の火炎瓶攻撃があったでしょう?! 指揮船が襲われてもおかしくなかったんです。ヨーイチさんと、パティたちしかいない船で火災が広がったら、命の危険もあったんですよ!」

 感情的なメリッサも美しかった。こんなときだというのに、洋一は見とれてしまった。

 サラにもそれが判ったらしい。峻厳な雰囲気が少し崩れて、やれやれという表情になる。

 ミナの方は、まったく態度を変えない。さっきから感情のスイッチをオフにしてしまっているかのようだ。

 メリッサは続けた。

「だから、私は我慢できなくなって、ヨーイチさんをカハ祭り船団から連れだそうとしたんです。パティたちもついてきたし、あのままアグアココかフライマンタウンに帰ろうと思ったんです。でも……でも」

 メリッサの言葉が途切れた。

 何か言おうとしているのだが、口に出てこない。

「それも、計画のうちだったみたいなんだ」

 サラが、見かねて口を出した。

「私も、はっきりとは知らなかったのだけれど、アマンダさんたちにとってはメリッサの行動は渡りに船だったらしい。どうも、事態の動きが早すぎてアマンダさんたちの計画が狂い始めていたようなの。

 カハ祭り船団も危険になってきて、パティちゃんを避難させようと考えていた矢先にメリッサがそんなことを言い出したから、一応反対するフリをしたけど黙って行かせたらしい。

 それに、ヨーイチたちが出ていったときに、私もついて行くように言われたってわけ。私はカハ祭り船団とは関係ない存在だったし、それどころかカハノク族とのつながりがばれたら危険ですらあったし」

「なるほど」

 あれは随分唐突な行動だった。メリッサが急に怒りだしたと思ったら、みんなでカハ祭り船団から出て行くことになってしまった。しかも、船外機付きのモーターボートで。

 あれほど洋一にこだわっていたソクハキリやアマンダが、無理にでも止めようとしなかったのもおかしかったし、後を追ってこようともしなかったから、洋一もへんだとは思っていたのだが。

 その後の事態の急展開のためにそれ以上考えなかったのだが、あれも計画のうちだったのだろうか。

「ちょっと待てよ。じゃあ、あの後ジョオのホテルに行ったのも、俺が夜明けにホテルから逃げ出したのも、計画に入っていたというのか?」

「……ああ、そういえば、ヨーイチはメリッサと2人だけで逐電したものね」

 サラが皮肉げに言った。

「あれは、夜明け前にジョオのホテルに追っ手が来たから」

「そのへんのところはメリッサから聞いています」

 堅い口調で、ミナが口を挟んだ。メリッサは黙ったままだ。

「あれは、ミスだったんです。というか、メリッサさんに計画を知らせるのが遅れたための誤解というか。

 私たちのところに、ソクハキリさんから連絡が入ったんです。ヨーイチさんやメリッサさんがカハ祭り船団を離れたので、注意するようにと。ソクハキリさんの配下、というかカハ族の人は、ほとんど全員が計画に従って動いていて、余裕がなかった。だから、商売上のつながりがあった私の父に依頼して、ヨーイチさんたちを護衛しようとしたんです。もちろん、気づかれないように影からと思って、夜明け前にジョオのホテルに着こうと急いだことがまずかったみたいね」

「なるほどね」

 洋一は苦笑した。

 スパイ映画じゃあるまいし、深夜に集団で怪しげな連中が襲いかかってくるというような状況があるはずはなかった。あの時は、寝起きでぼんやりしているうちに、メリッサに急かされて走り出してしまったのだが。

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