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第103章

 洋一がすぐにそういう状況を見て取れたのは、そこが明るかったからだった。各建物は煌々と明かりを灯している上、屋外の照明も眩しく輝いている。

 空はもう真っ暗で、地上の輝きのために星も見えない。野外照明が明るすぎるために、影法師ばかりになってしまい、洋一はふと祭りの縁日を思い出した。

 アンの姿も影にしか見えなかったが、洋一が2,3歩進んだ途端に、いきなり叫び声が上がって誰かが飛びかかってきた。

 不意打ちを受けて、洋一は尻餅をついた。腕の中にいる誰かは、洋一の首にしがみついてくる。

 その時にはもう正体は判っていた。洋一の胸に顔を埋めている身体に、こうやって何度体当たりを食らったことか。

「ヨーイチ!」

 パットは、続いてペラペラとほとばしるように話し始めた。もちろん、洋一にはまったく判らない。

 とりあえず、パットを抱えたまま立ち上がる。サーチライトのような光があちこちに飛んでいて、騒然とした雰囲気だ。

 パットは話し続けていたが、不意に口を閉じた。パットの腕が硬直するのを感じた洋一は、薄明かりの中でパットがじっと見ている視線を辿ってげんなりした。

 ミナが腕を組み、こちらを向いて立っている。その横には、アンが控えていて、なぜか晴れ晴れとした表情をしていた。

 パットは、しばらく燃えるような瞳でミナをうかがった後、フンという表情で洋一の腕にさらに強くしがみつく。

 ミナは微動だにしなかった。

 しかし、やはり瞳の奥で何かが燃えているようで、洋一は背筋に悪寒を感じてうつむいた。

 パットもミナも、そんなにあからさまな敵愾心を燃やしてくれたら洋一の立場がなくなる。ミナの場合は「敵愾心」かどうかは判らないが。

 パットは「コッチ!」と叫んで洋一を引っ張った。煌々と明かりを灯している建物の方に向かう。ミナとアンがついてくるのを感じながら、洋一はパットに従った。

 パットがここにいるということは、ここはカハ族の拠点か何かなんだろうか?

 それに、メリッサはここにいるのか?

 考えがまとまらないうちに、洋一は建物に引きずり込まれた。

 中はぶち抜きになっていて、あちこちに荷物が置いてある他はがらんとしている。どうやら、普段は倉庫として使われているらしい。

 隅の方にソファセットが置いてあって、洋一はパットにそこに押し込まれた。

 パットが当然のように洋一の右側に座り、身体を押しつけてくる。洋一は、久しぶりに超大型のネコのようなパットの感触を楽しんだ。性的な意味での快感とは言えないが、パットの身体にはネコのような柔軟性があり、抱いていると快感である。広い意味では性的なものなのかもしれないが。

 ミナとアンは、洋一の向かいに腰を降ろした。ミナは、すでに最初に会ったときの中性的なムードを取り戻している。

 「かわいい女」という演技は洋一と2人きりのときだけなのだろう。いや、今の方が演技なのか、もっとありそうなのは真のミナが無数にいるのかもしれない。

 こうやって宝塚の男役然としているミナも、眺めている分にはなかなか捨てがたい。そばにいるアンも、いかにも主人に仕える従者然としているところも良い。

 この主従は、美しいことももちろんだが、2人揃うとなんとなく芝居の中の登場人物のようで、こうやって眺めているだけでも価値がある。

 だが、ミナたちに見とれている態度がパットの気に触ったらしい。洋一はいきなり腕をつねられて、あわてて視線を外した。

 それにしても気になるのはメリッサのことである。もちろん、サラやシャナのことも気になってはいるのだが、パットがここに無事でいる以上、あの2人についてはそう心配はいらないだろう。

 それに対して、メリッサはいきなり洋一の前から姿を消してしまったのだ。それも、無人島で。

 ミナの言うことはいまいち信用できないし、洋一としては心配でならない。いや、そういう建前もあるが、本音を言うとやはり好きな女の子がいないのが寂しいのだ。

 こんな風に思えるようになったということは、洋一も随分自信がついてきたと言えそうである。

 初めてメリッサを見たときには、女神か映画スターだと思ったくらいで、とてもまともに口をきくことすら出来なかったのだから、その女神を「好きな女の子」として認識できるようになったのは大いなる進歩だ。

 進歩ではあるのだが、本音ではまだ遠慮があって、「恋人」という意識にはなかなかなれていない。

 ましてや、洋一自身はあまり意識してはいないが、メリッサだけではなく次から次へと魅力的な美少女が洋一の前に現れるので、その分注意力が分散してしまっているのだ。

 洋一にとっては、普通に日本で行動していれば高嶺の花に違いない美少女ばかりだから無理はないとはいえるが、やはり客観的に見ると複数の女性の間でフラフラしているとしか言いようがない。

 まあ、パットやシャナ、アンなどの少女たちは、年齢的に少し洋一の守備範囲から外れてはいるのだが、もし単独で会ったら将来的な期待というだけでも洋一が引かれてもおかしくない美少女たちなのだが。

 洋一を間に挟んでの、パットとミナたちの睨み合いはしばらくして終わった。数人の男たちが入ってきて、そのうち一人がミナに何か囁くと、ミナは完全な冷静さを保ったまま囁き返した。

 男が頷いて何か言うと、あちこちで作業していた連中が一斉に出て行ってしまった。

 彼らと入れ違いに、数人が入ってきた。

 まず、サラが見えた。洋一を見ると、少し歯を見せてニコリと笑う。後ろにはシャナがひかえている。

 そして、最後におずおずと進み出てきたのは、長い金髪と紫色の瞳の美女だった。

 洋一は思わず立ち上がっていた。

「メリッサ!」

 その途端、ぐいと引き戻される。パットがもの凄い目で睨んでいる。

 洋一は咳払いして、大人しく腰掛けた。

 サラが落ち着いてソファに座り、その隣りにシャナが腰掛ける。メリッサは、顔を伏せたまま、洋一から一番遠い場所に、うずくまるように座った。

「ついに揃った」

 ミナが言った。もはや完全に、初めて会ったときの青年将校と化している。

「カハのラライスリ」

 メリッサが、伏せていた顔を上げる。疲れているのか、少しやつれた表情が艶となって、洋一の記憶より魅力的になっている。

 ミナは、メリッサに向かって頷いてから、視線を戻した。

「カハノクのラライスリ」

 洋一がポカンとしていると、サラがゆっくりと右手を上げた。ミナは、同じように頷いてから、洋一をまっすぐに見る。

「そして、ココのラライスリ」

 そう言って、ミナはゆっくりと洋一に向けて頭を下げる。

「……どういうことなんだ?」

 洋一が言った。

 誰も何も言わない。3人の美少女に見つめられて、洋一は絶句した。

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