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プロローグというよりは背景

英雄は、いかにして成立するか。

現代社会においても存在しうるのか。

ヒーローではありません。


登場人物


<日本人>

諏訪洋一 …………主人公。日本人大学生。二十歳。大学を休学して海外を放浪中。

猪野   …………フライマン共和国日本領事館二等書記官。

蓮田   …………フライマン共和国日本領事館三等書記官。


<カハ族>

ソクハキリ…………カハ族の重鎮。褐色の巨漢。相撲ファン。

アマンダ …………ソクハキリの妹で3姉妹の長女。カハ祭り船団を仕切る。美人。

メリッサ …………ソクハキリの妹で3姉妹の次女。絶世の美女で料理の達人。

パット  …………ソクハキリの妹で3姉妹の三女。幼い美少女。本名パトリシア。

シェリー …………アマンダの右腕。凄腕の船長。恥ずかしがり屋の美人。


<カハノク族>

サラ   …………日本人との混血で日本領事館のタイピスト。親分肌の美少女。

シャナ  …………サラの又従姉妹。幼い美少女で天才。本名シャナイズルラーク。

ティナ  …………サラの小学校時代の同級生。

ノーラ  …………手広く商売を営む。愛嬌のある美人。


<第三勢力>

ミナ   …………ラライスリ神殿の次期巫女候補。凛々しい美少女。

アン   …………ミナの親戚。日本の変な本にハマッている。本名アンジェリナ。

ミナの父 …………第三勢力のリーダー。


<小学生>

カマール …………カハ族。

シア   …………カハノク族。


<得体の知れない人たち>

ローグ  …………謎の老人。

ジョオ  …………謎の黒人で巨漢。色々な人と知り合い。

イェンセン…………シンガポール在住の貿易商人。何でも扱う。


彼    …………黒幕。孤高のゲームメーカー。

□プロローグ1


 南太平洋、赤道を越えてもっと南に進んだところに、フライマン群島はある。

 人が住んでいる島は20余り。その他、かなり大きな無人島から満潮時にはほとんど水面下に没する岩礁に近いものまで、約500個の島が弧状にひろがっている。

 太平洋戦争時には、日本からわずかな分遣隊がやってきたが、連合軍にも無視された形で、ついに一発の銃声も聞くことなく終戦を迎えた。

 日本軍が引き上げたあと、一応米軍がやってきたものの、戦略的にまったく価値のない島に居着くこともなく、現在に至るまで平穏無事な生活を謳歌している。

 尚、太平洋戦争までは日本の委託統治領だったが、戦後独立を果たした。

 現在の人口は約17万、主な産業は漁業だが、近年に至って観光や資源開発に力を入れ始めている。


 ココ島は、フライマン共和国の首都島である。大きさは淡路島程度で人口は約10万人、共和国唯一の国際空港と貿易港、それに大統領官邸や議事堂もある。

 だが、現在のところフライマン共和国にはココ島にハイスクールが4校あるだけで、カレッジのたぐいはまだなかった。エレメンタリースクールも、ココ島に7つ、共和国全体では22校しかない。

 ココ島南部のエレメンタリースクール、通称「南校」は、3つしか教室のない木造校舎だが、天井が高くて窓が大きい。

 教室の窓は素通しで、明るすぎるくらいだし、とても勉強に集中できないほど潮風や太陽が入り込んでくる

 こんなところで子供におとなしく勉強しろと言う方が無理な話で、いつもは授業中も静かになったためしがない。

 だが、今日の教室は朝から重苦しい雰囲気につつまれていた。

 普段はベルが鳴ってもなかなか席につこうとしない生徒たちも、全員が行儀良く座ったまま教壇を見上げている。

 学級担任であり、校長でもある白髪のミルツ先生は、コホンとひとつ咳払いをしてから言った。

「今日は、みなさんに、残念なお知らせがあります」

 カマールは顔をふせたままで、ちらっと横の席を見た。

 シアはうつむいたままだった。今朝学校に来たときから、顔をあわせようとしない。いつもの輝くような微笑みが消え失せたせいで、まるで太陽が消えてしまったような気がする。「チムリさん、テスミルくん、シアさん」

 ミルツ先生が呼ぶと、3人がのろのろと教壇に並んだ。

「たいへん残念なことですが、チムリさんたちが転校することになりました」

「どうしてですか」

 誰かの声に、ミルツ先生は困ったような顔で答えた。

「・・・それには、色々と難しい問題があるのです」

「チムリたちがカハノク族だからですか」

 ミルツ先生は、もう答えなかった。悲しそうな顔をしていた。

 教室は騒然となったが、カマールにはシアしか見えなかった。全身全霊を込めてシアを見つめる。

 シアは、一度だけ顔をあげてカマールを見た。教壇にいても、シアの黒い瞳はカマールの心を貫いた。

 合図があった。

 それから、カマールは転校するみんなの挨拶が終わるまでそっぽを向いていた。

 シアたちが教室から出てゆくと、いつもの通りミルツ先生の授業が始まったが、カマールはそれどころではなかった。

 ジリジリしながら1時間目を上の空で過ごし、ベルと同時に飛び出す。

 全速力で校庭を駆け抜ける。

 校庭の向こうは林になっていて、少し入るともう校舎からは見えない。

 シアは、木の下で待っていた。

 島には珍しい大木で、そのせいか木の回りはちょっとした空き地になっている。

 カマールは、シアを見た途端に何も言えなくなった。言いたいことがたくさんあるのに、声が出ない。2人は黙ったまま、しばらく見つめ合っていた。

「カマール」

 シアがささやいた。「ごめんね」

「シアは悪くないよ」

 声が出た。カマールは続ける。

「シアのせいじゃない。みんな大人が・・・」「パパたちのせいでもないの。ないと思うの。だから・・・・」

 でもシアの声は途中で消えた。

 シアが泣いている。カマールは、不意に激しい怒りを覚えた。

「なんとかする」

 カマールは、言った。「ぼくがなんとかするよ。約束する」

 シアは、こっくりとうなずいた。そして、そっとカマールの頬にキスすると、駆けていった。

 カマールは立ちつくしたまま、見送った。

見送るしかなかった。今は。

「ぼくが・・・なんとかする」


□プロローグ2


 シンガポール、オモフ港。

 つい最近まではうらぶれた漁港にすぎなかったが、ご多分にもれずこの港にも開発の波が押し寄せていた。

 ほんの10年前までは荒れ地だった商業地区には摩天楼が林立している。

 ひときわ高いビルの最上階に近い一室で、鋭い信号音とともに、大型の端末ディスプレイの隅に旗が立った。

 赤い旗、緊急連絡の印である。

 この貿易会社を一人で切り回すイェンセンは、くわえタバコをもみ消して、ついでにネクタイを締め直した。

 相手にはもちろん見えないが、服装・態度の乱れはなぜか通じるものだ、というのが彼のポリシーである。

 まして、緊急連絡をしてくるようなお得意様相手には、絶対に気を抜かないことが肝心だ。

 髪を素早くなでつけて、卓上鏡でチェックする。

 それから、イェンセンはおもむろにマウスをすべらせ、旗をクリックした。

 メッセージボックスが表示される。

(ダイレクト接続が要求されています)

 YESをクリック。

(接続完了)

 旗が拡大して、シンプルなウィンドウが開く。

(会話モード)

 クリック。

 画面に表示されたのは、古風な電話機だった。このソフトは使い勝手は良いのだが、どうも機能とは関係ないところでセンスの悪さが露呈する。

 イェンセンは、一瞬そう考えたあと、素早く思考を商売モードに切り替えて言った。

「おはようございます、サー」

 ネットフォン特有の、カチッと切り替わる音がして、スピーカーから声が流れた。

「おはよう、イェンセンくん。ちなみに、こちらは夜だ」

 カン高い声だ。

 声にそぐわないセリフだが、変声ソフトを通すくらいはしているだろう。普通の電話を使わずに、追跡不能のネットフォンで連絡してくるほどの相手なら、当たり前と言える。挨拶にしても、向こうが夜というのも疑わしい。

 もっとも、イェンセンにしてみれば、商売になりさえすればいいので、連絡手段や向こうの用心などはどうでもいいことである。

 逆に、そういう用心をする相手との商売の方が、概して利潤が高いから歓迎さえしている。

 カチッ。

「ところで、ご用件は?」

 カチッ。

「ちょっとしたことを頼みたい。詳細はメールしておいた」

 カチッ。

 イェンセンは、素早いマウス操作でファイルを確認した。確かに来ている。

「少々お待ちを」

 言いながら、すでに指先は動いている。

 ウィルスチェックを行い、ファイルを解凍し、暗号複合ソフトを通して合計約1秒。

 表示されたのは、注文票だった。

 読みながら、イェンセンは息を飲んだ。

「・・・・これは、なかなか」

 カチッ。

「出来るかね?」

 カチッ。

「ひとつ質問をお許しいただけますか?」

 カチッ。

「いいとも」

 カチッ。

「戦争でもおはじめに?」

 カチッ。

 しばしの沈黙。イェンセンの背中を冷や汗が流れる。

 そして、「お得意先」は言った。

「その通りだよ。・・・・用意できるかね?」


         *


 そこは暗い部屋だった。

 ネットフォンのソフトを落とすと、彼はため息をついて、しばし黙想した。

 これで良かったのか?目的を果たすためとはいえ、無理しすぎているのではないか?

 いや、計画は完璧だ。コマも出来る限りそろえてある。うまくいくはずだ。

 そう言い聞かせても、心は晴れない。こんなことをやっていいのか、人の運命を、国の運命を独断で左右していいのか、その迷いはまだ消えていない。

 しかし計画は、すでに動きだしている。いずれにせよ、もはやボールは彼の手を離れたのだ。

 薄いドアの向こうから、彼を呼ぶ声が聞こえる。彼は立ち上がると、その部屋を後にした。

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