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その痛みを強さに変えて  作者: 志未透


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2.その痛みを強さに変えて

熱い。  

左の頬が、焼けるように熱い。


あ、そうか。  

ボクは殴られたんだ。  

あの大男に、なす術もなく。


意識が遠のいていく。

村のみんなの悲鳴が、霧の向こう側みたいにぼやけて聞こえる。


……ごめん。

……ごめんね。

ボクが弱いせいで、君を助けてあげられない。


情けなくて、悔しくて。  

頬の痛みよりも、胸の奥が張り裂けそうだった。


その時。  

不意に、音が消えた。


「……え?」


目を開けると、そこは「無」だった。  

上下も左右もわからない。  

ただひたすらに、どこまでも真っ白な空間。


ボクは、死んだんだろうか?


『――いいえ。あなたはまだ、終わっていないわ』


頭の中に直接響くような、鈴の音に似た声。  

目の前に、一人の女性が立っていた。


透き通るような長い髪。  

この世のどんな宝石よりも輝く瞳。  

その神々しさに、ボクは息をすることさえ忘れてしまう。


「だ、誰……ですか……?」


『私は、あなたたちが「創造主」と呼ぶ存在。  

……リョウト。私はずっと、あなたを見ていたわ』


彼女は慈しむような表情で、ボクの頬に手を触れた。  

さっきまでの激痛が、嘘のように引いていく。


『力を持たなくても、誰かを助けたいという思い。自分を犠牲にしてでも、理不尽に立ち向かおうとする勇気。あなたの魂に宿る「痛み」は、とても美しく、そして切ないわ』


「ボクの……痛み……」


『その痛みは、無駄じゃない。 耐えるためではなく、戦うための力になりたがっている。 ……リョウト。あなたは、力が欲しい?』


力が欲しいか、と問われた。  

ボクの答えは、決まっていた。


自分が強くなりたいんじゃない。  

ただ、あの子の涙を止めたい。  

踏みにじられるみんなを、救いたい。


「……欲しい。……アイツらを止められる力が欲しい!」


創造主が、優しく微笑んだ。


『いいでしょう。リョウト。 あなたに特性ユニークポイントを授けます。その痛みこそが、あなたの武器。受けた傷の数だけ、あなたは誰よりも強くなれる』


真っ白な世界が、パチンと弾けた。


「その痛みを、強さに変えなさい――」


最後に見えた彼女の唇が、そう動いた気がした。


 ◇


「――おい、死んでねえだろうな? 起きろよ、ゴミ屑が!」


現実の音が、一気に流れ込んできた。  

土の匂い。

鉄の錆びたような血の匂い。


目の前には、ボクの腹を蹴り飛ばした騎士の姿。  

そして、その向こう側では――。


「や、やめてください! お願い……もうやめて!」


カイナが泣き叫んでいる。  

彼女の目の前で、ボクの叔父さんが地面に組み伏せられ、髪を掴まれていた。


「うるせえ! 見せしめだ。逆らうとどうなるか、その目に焼き付けろ!」


騎士が剣の柄を振り上げる。  

叔父さんの顔を目掛けて、容赦なく振り下ろされようとしたその時。


ボクの体の中で、何かが「爆発」した。


ドクン、と心臓が跳ねる。

殴られた頬。蹴られた脇腹。  

そのすべての「痛み」が、熱い熱い奔流となって、全身の筋肉に駆け巡る。


視界が、真っ赤に染まった。


「……やめろぉおおおおおおお!!!」


自分でも驚くような咆哮が、喉から飛び出した。  

地を蹴る。  


「あ……?」


騎士が目を見開いた。  

逃がさない。


ボクは渾身の力を拳に込め、その顔面に叩きつけた。


――グシャリ、という生々しい手応え。


鎧を纏った大男の体が、まるでおもちゃみたいに宙を舞った。  

数メートル後ろの石壁に激突し、男はピクリとも動かなくなる。


広場が、静まり返った。


ボクは、荒い息を吐きながら立ち尽くす。  

拳からは煙が上がり、体中が熱くてたまらない。


だけど、もう足は震えていなかった。


「……ボクは、もう負けない」


自分を縛っていた「弱気」という鎖が、今、粉々に砕け散ったんだ。

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