8話 局潜入
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
海堂に導かれるまま、寺の最寄り駅から地下鉄に乗りこむ。
行き先は管理局だと気付いたが、海堂は霞が関の駅よりも手前で降りた。ここから徒歩で向かうのかと思いきや、彼はなにかを探して左右を見わたす。
「局に行くんじゃないの?」
「もちろんです。ただ休職中の蓮華さんを、堂々とお連れするのははばかれますので――」
海堂の視線が一点に集中した。なんの変哲もない防火扉。そのそばの壁を、彼は掌で叩く。
「蓮華さん、この壁の先に、局への隠し通路があります。出入り口はふさがっていますが、貴女の力ならば、進入可能のはずです」
「まあ、それくらいは簡単だけど。妙に自信たっぷりね。本当に、ここに道が?」
ここに隠し通路の存在は、蓮華も聞いたことがなかった。もし知られた通路なら、他の局員も利用しているだろう。
「戦中に、うちの一族が掘らせた秘密の通路です。結局使われないまま終わりましたが、通路じたいは生きています。風の通る音が聞こえますから」
「ふうん、ならちゃんとつながってるってことね」
海堂家は、かつて陰陽師の一族として暗躍していたらしい。
自然の力を操る彼らは、天災が起きるたびに被災地の鎮撫に駆りだされた。そのため、彼らがこの災害を引き起こしたのだとまことしやかに噂された。
陰陽師という役職が廃止されたのちも、国の中枢に留めおかれた一族であったが、現在、直系にあたる彼以外に、海堂を名乗る人間はいない。
彼は呪符を取りだし、足下に張りつけた。呪符はすぐさまコンクリートの中に吸いこまれていき、二人の立つ場所は白い光で覆われた。
駅を行きかう人々は、不思議と光を避けて歩いていく。
「人払いの術は掛けました。私には空間をつなげられませんから、頼みます」
「了解」
蓮華は一息吸い、左手を壁にかざした。コンクリートに、まるで水のような波紋が浮き立った。
波紋の先は、真っ暗だ。蓮華は左手をそのまま、やわらかくなった壁を突き抜けた。
指の先に、風を感じる。海堂の言うとおり、ここにはなんらかの空間がある。
「あたりね、行きましょう」
「はい。道案内はお任せください」
暗闇の中に、燐光がぽっと浮かんだ。二人の足下を照らすほどのものだったが、歩くには問題ない明るさだ。通路にはつるはしの跡が生々しく残っている。ここまで掘るのに、どれだけの労力がかかったのだろう。
迷うことなく、海堂は先を進んでいく。彼の家には、通路の地図が残されているのかもしれない。
「この道、どこにつながるの?」
「局の地下三階です。もちろん壁で閉ざされていますから、あちらからは気付かれません」
海堂が向かっているのは、どうやら地下にある部署、技術部のようだ。
対異総合管理局には、退魔部の他に管理部、技術部などが存在する。
異動や他部との連携は少ない。管理部から魔の出現報告を受け、退魔部が動く。その程度が関の山だ。
技術部は主に魔の弱点の研究、武器や魔の早期発見システムの開発を行っている。
話には聞いていたが、ここに来るのは蓮華ははじめてだった。
技術部は主に魔の弱点の研究、武器や魔の早期発見システムの開発を行っている。
話には聞いていたが、ここに来るのは蓮華ははじめてだった。
「よし、ここです。中に入りますよ」
先ほどと同様、蓮華が通路と局をつなげた。侵入を知らせるアラームは鳴っていない。大丈夫そうだ。
ところが、海堂は技術部には見向きもせず、どんどん奥へ進んでいく。心なしか廊下の灯りは暗くなり――一部は切れかかっている――、人の気配も感じられない。
ようやく海堂が立ち止まった先に、鉄の扉があった。ドアノブには立入禁止の札がかけられていたが、彼は構わずノックし、扉を開けた。




