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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
一章 蠢動する闇、日常の終わり
7/13

6話 鍛錬

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 清々しいほどに、まぶしい光がカーテンごしに差しこむ。

『おはよう、主。大丈夫か、昨夜はずいぶん腕が痛んだようだが』

「……すがすがしい朝がうらめしいわ」

 朝を迎えた蓮華は、身体を引きずるように外に出た。昨日はその後も断続的に痛みが襲い、なかなか眠れなかったのだ。

 ここしばらくは幻肢痛とは無関係だったのだが、仕事の話が舞いこんだとたん、これだ。精神的なストレスが影響をおよぼしているのかもしれない。

 起き抜けに鏡で見た顔には、くっきりと(くま)が浮かんでいた。

 アメリカ人の祖父から譲り受けた白い肌は、隈が妙にめだってしまう。

「まあ、こればっかりは、仕方ないけど」

 母屋を見やれば、朝食の()(たく)(さい)(ちゅう)らしい、ほんのりいい香りがただよっている。

 離れに住む蓮華には、日常の一コマだ。このありがたみを感じる日々が、再びはじまるかと思うと、(おっ)(くう)になる。

(こういうこと考えるから、痛むのよね)

 頭を左右に振り、深呼吸を数度。心の乱れは自分を弱くする。その前に先手を打つよう、彼女はある師匠から教わっていた。

 目を閉じ、右腕に鬼の力を集中する。普段は呼吸と同じ、自然と使うそれを、一本一本の糸をつなげるように集めていく。

 編み物の目を数え、新しい段を編みあげる。それに似た細やかさと集中力を、右腕に積み重ねる。

 額に汗が次第に浮き、すべて放って逃げだしたいという気持ちを、強引にねじ伏せる。

 目を開けると、蒼白い光に包まれた右手がそこにはあった。

 すぐに左手に力をこめ、弓を取りだした。現れた右手で、やはり鬼の力で作った矢をつがえる。

 狙いはここから五メートル先の、松の幹だ。

 限界まで引き(しぼ)った弦がはなれる。光跡を残しながら、矢は松を通過し、そばの砂利に突き刺さった。

「……はぁ」

『あれだけの大きな的にこの距離で、ものの見事に外したな。下手くそめ。手に無駄な力が入って、肩が上がっているぞ』

「言い訳して申し訳ないけど、弓歴一年もないのよ。それにこっちを維持するほうが大変」

 蓮華は右腕に集中していた意識を解いた。とたんに鬼の力で編まれた右腕は解け、消えてしまった。

『ふむ。やはり空間を腕として操るのは実用的ではないな』

「そうね。あと弓を鞭にするっていうのも、実際やってみると難しかったし。矢だけ、こうして使うのはだめかしら」

『お前……それは矢ではなかろう』

 その手に浮かんだ蒼白く光る物体は、磨きあげられた水晶のように、先が(とが)っていた。

 蓮華は浮遊したそれを、松の幹に向ける。

「行け」

 彼女の一声で水晶が飛んだ。目にも止まらぬ速さで、幹の根本に突き刺さる。それは矢か銃弾と、なんら変わらなかった。

「あ、これならいけそう。数を増やしたら、槍ぶすまにできるわね」

『やはりそれは矢ではないぞ……と、主。罪なき松を治してやれ。あのまま放置すれば立ち枯れを起こすぞ』

「はいはい、それもそうね」

 蓮華は穿(うが)たれた幹の根元にしゃがみこみ、左手をかざした。先とは違う(みどり)(いろ)の光が、幹の穴をふさいでいく。

 五分と経たぬうちに、幹の傷はあとかたもなくなった。

 戦闘はともかく、力を操る(かん)は鈍っていない。それが分かったことは十分な収穫だった。

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