6話 鍛錬
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
◇
清々しいほどに、まぶしい光がカーテンごしに差しこむ。
『おはよう、主。大丈夫か、昨夜はずいぶん腕が痛んだようだが』
「……すがすがしい朝がうらめしいわ」
朝を迎えた蓮華は、身体を引きずるように外に出た。昨日はその後も断続的に痛みが襲い、なかなか眠れなかったのだ。
ここしばらくは幻肢痛とは無関係だったのだが、仕事の話が舞いこんだとたん、これだ。精神的なストレスが影響をおよぼしているのかもしれない。
起き抜けに鏡で見た顔には、くっきりと隈が浮かんでいた。
アメリカ人の祖父から譲り受けた白い肌は、隈が妙にめだってしまう。
「まあ、こればっかりは、仕方ないけど」
母屋を見やれば、朝食の支度の最中らしい、ほんのりいい香りがただよっている。
離れに住む蓮華には、日常の一コマだ。このありがたみを感じる日々が、再びはじまるかと思うと、億劫になる。
(こういうこと考えるから、痛むのよね)
頭を左右に振り、深呼吸を数度。心の乱れは自分を弱くする。その前に先手を打つよう、彼女はある師匠から教わっていた。
目を閉じ、右腕に鬼の力を集中する。普段は呼吸と同じ、自然と使うそれを、一本一本の糸をつなげるように集めていく。
編み物の目を数え、新しい段を編みあげる。それに似た細やかさと集中力を、右腕に積み重ねる。
額に汗が次第に浮き、すべて放って逃げだしたいという気持ちを、強引にねじ伏せる。
目を開けると、蒼白い光に包まれた右手がそこにはあった。
すぐに左手に力をこめ、弓を取りだした。現れた右手で、やはり鬼の力で作った矢をつがえる。
狙いはここから五メートル先の、松の幹だ。
限界まで引き絞った弦がはなれる。光跡を残しながら、矢は松を通過し、そばの砂利に突き刺さった。
「……はぁ」
『あれだけの大きな的にこの距離で、ものの見事に外したな。下手くそめ。手に無駄な力が入って、肩が上がっているぞ』
「言い訳して申し訳ないけど、弓歴一年もないのよ。それにこっちを維持するほうが大変」
蓮華は右腕に集中していた意識を解いた。とたんに鬼の力で編まれた右腕は解け、消えてしまった。
『ふむ。やはり空間を腕として操るのは実用的ではないな』
「そうね。あと弓を鞭にするっていうのも、実際やってみると難しかったし。矢だけ、こうして使うのはだめかしら」
『お前……それは矢ではなかろう』
その手に浮かんだ蒼白く光る物体は、磨きあげられた水晶のように、先が尖っていた。
蓮華は浮遊したそれを、松の幹に向ける。
「行け」
彼女の一声で水晶が飛んだ。目にも止まらぬ速さで、幹の根本に突き刺さる。それは矢か銃弾と、なんら変わらなかった。
「あ、これならいけそう。数を増やしたら、槍ぶすまにできるわね」
『やはりそれは矢ではないぞ……と、主。罪なき松を治してやれ。あのまま放置すれば立ち枯れを起こすぞ』
「はいはい、それもそうね」
蓮華は穿たれた幹の根元にしゃがみこみ、左手をかざした。先とは違う翠色の光が、幹の穴をふさいでいく。
五分と経たぬうちに、幹の傷はあとかたもなくなった。
戦闘はともかく、力を操る勘は鈍っていない。それが分かったことは十分な収穫だった。




