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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
終章 スタートライン
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終章 スタートライン

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 蓮華に連れられ、訓練所をあとにする。元気でやれよ、と男性職員から激励を受けて。

 泣いたばかりだとばれる赤い目は恥ずかしいが、それでもまた、彼女と共に外を歩けるのが嬉しかった。

「で、でも、ほんとに大丈夫?」

「大丈夫だって言ったでしょうが。管理官に頼んで書類まで用意したのよ。そもそも私の退院とあわせて帰るのに、なにかおかしい点がある?」

「な、ないです、けど。アンディ、怒ってないかな……」

 黒鬼がアンディを殺そうとしたところを、刀は覚えている。彼のおびえた顔やその後のことを考えると、本当に大丈夫なのか心配でならなかった。

「大丈夫よ。ほら」

「あ……!」

 家の正門に、アドルフとアンディの姿が見えた。アンディは刀たちに気付くと、手を振りながら駆けだした。

「レンカ、カタナ!! おかえり!!」

「うわわっ、アンディ! た、ただいま」

「親父とまだかまだかって待ってたんだ! なっ、親父!!」

 アドルフはおうとも、と深くうなずいた。

「よく帰ってきた、カタナ。レンカもな。早く酒が飲みたくて飲みたくてたまらなくてなぁ~。さっき一杯やっちまった、ハハハ」

「あ、あはは……そうなんですか」

 アドルフの顔はほんのり(じょう)()している。すでに歯止めが利かなくなっているのかもしれない。黒鬼の暴走よりは可愛いものだろうが、蓮華の頭痛の種が増えそうだ。

「酒盛りしたいだけじゃないの……まったく」

「ふ、そうと決まればパーティーだ!! レンカの退院祝いとカタナの帰還祝いだ!! 飲むぞ、レンカ!!」

「飲みませんよ!!」

 アドルフは蓮華の肩に手をまわし、母屋へと向かっていった。

 はしゃぐ師とあきれる弟子の姿に、思わず口元がゆるんだ。ここで何度となく見た光景だ。

「カタナ、どうかしたか?」

「帰ってきたんだなあって、思って」

「そっか。俺もだよ。二人が戻ってきて、一気に賑やかになったなあって」

「そ、そう?」

「うん。これからもうちにいてくれよ、カタナ」

 アンディは迷いもなく、さっと手を差しだした。

「……ありがとう。アンディ」

 刀はその手を、慈しむように両手で包みこんだ。今日の自分が今までで一番、だめだなと思う。涙のタンクが空っぽになるくらい泣いたはずなのに、また視界がぼやけてしまう。

 彼に引っ張られ、母屋に入ると、すでにパーティーの準備は整っていた。

 たくさん並べられた大皿の中に、アドルフが作ったらしい酢豚もある。それだけで懐かしさがこみあげてきた。ほんの少しのあいだ、ここをはなれていただけなのに。

「おっと、VIPはそっちの(かみ)()な。ほれ、座った座った」

「あ、いえ、あたしは(しも)()でけっこうです……」

 祝われるほどの立派なことは、なに一つない。下座へ腰を下ろそうとする刀の首根っこを、蓮華がむんずと捕まえた。

「貴女はこっち。ほら」

「こ、こっちが蓮華の席じゃない?」

「いいから」

「で、でも」

 押しきられる形で一番上座に座らされ、その隣を蓮華が固めた。場違いではないか、と全員の顔を見たが、誰もがさも当然とうなずく。

「遠慮する必要ないの。誰も文句は言わないわよ。先生」

「よーし、それじゃあ乾杯するぞ!! 烏龍茶か焼酎しかないが、好きなものを選んでくれ!」

 テーブルの上にどん、と力強く、一升瓶と烏龍茶のペットボトルがおかれた。アンディがあきれてつぶやく。

「いや、親父以外はみんなウーロン一択だと思うぞ……」

(のん)()()は先生だけだものね」

「コーラくらい買っとく気遣いも欲しかったよなあ」

「ごほんごほん!!」

 わざと咳払いするアドルフがおかしく、刀は思わず笑った。

 この家族のやりとりを、またこんな近くで見ることができる。自分には縁遠い日常だとしても、愛おしく思わずにはいられない。

「改めて、今日はよき日だ。レンカ、退院おめでとう。そしてカタナも、よく帰ってきた。また俺たちの家族としてよろしく頼むぞ」

「え……」

 アドルフが親指をぐっと立て、白い歯を見せた。

「よろしくな、カタナ!」

 アンディも屈託のない顔で笑う。

 蓮華はそんな二人を交互に見たあと、恥ずかしさをまぎらわすように肩を竦め、口元をやわらかくゆるめた。

「今後とも、よろしく」

「みんな……うん、よろしく!」

 アドルフが乾杯、と叫ぶ。軽快なグラスの鳴る音が、部屋の中に響きわたった。


 先にできあがったアドルフがいびきをかきはじめたころ、アンディが慌ててテレビのリモコンを手にした。

「やばい、もうはじまってる!?」

「なにか観たい番組でもあったの?」

「あ、ああ、うん。今日だってことすっかり忘れてた。まにあうかな……」

 蓮華の問いに、彼はそわそわとチャンネルを変える。頬を赤くし、少し恥ずかしそうだ。

『みんな、今日は来てくれてありがとう!!』

「よかった、今からだった!! 今日は新曲初()(ろう)なんだよな!」

 今にも嬉しさで跳ねそうなアンディの声に、二人も一体なんの番組だろうと、テレビに視線を移した。

 そこには白を基調としたミニスカートの少女が映っていた。赤みがかった黒髪のツインテールに、赤と白の花飾りがアクセントになっている。

『辛いことや苦しいことで悩んでいるあなたへ。聴いてください、〝あなたへ贈る歌〟』

 少女は大勢の観客の前で、バラードを歌いはじめた。暗闇の中、(さざなみ)のように、歌にあわせて赤のペンライトが揺らめく。

〝わたしはずっとそばにいるわ その傷ついた羽を 癒やしてあげましょう 痛みにそっと 寄り添いましょう 君がまた 羽ばたくまで〟

 歌詞に感情が乗り、心が震える。深く落ちこんだ恋人を、そばで静かに見守る女性が思い浮かぶようだ。

 少女を見るアンディの目は、うっとりしていた。

「綺麗な歌、歌う子だね。アンディ、このひと、なんて名前なの?」

()(づき)()()ちゃん、最近人気のアイドルなんだ! 俺、デビューしたころから応援してて――ハッ!!」

「まあ、アンディも男の子だものね。なにも恥ずかしいことなんかないわよ」

「うっ、ううっ……れ、レンカには知られたくなかった」

「ん? 観月、知恵……?」

 がくりと(ひざ)を折るアンディをよそに、刀はなにか引っかかるものを感じた。

 観月知恵という少女、どこかで聞いた名前だ。あの顔にも見覚えがある。

『私ね、アイドルやってるの。テレビに出てる売れっ子なんだから』

「……あたし、この子に会った、かも」

「えええええええっ!? ど、どこで!?」

 うなだれたはずのアンディが、すさまじい勢いで食らいついた。

「……蓮華の大学に行った時に、ちょっと話した。名刺もらったよ」

「め、名刺!?! そ、それ今持ってるのかカタナ!?」

「あー……どうだったっけ。蓮華、あたしの財布ってどうしたっけ」

 名刺は財布に入れていたのだが、その日のうちに魔に襲撃されたため、手元になかった。

「それなら、血だらけになってたから処分したわよ」

「ですよねー」

「捨てたああああああああああああああ!?? レンカの馬鹿っ!! なんてもったいない……!!!」

「血を吸った名刺なんて(りょう)()的すぎるでしょ!」

「う、ううぅ……!」

〝空に羽ばたいたら わたしにだけ分かる合図を送って わたしも送り返すわ〟

 画面の中で歌う、知恵の姿に視線を戻す。こちらの心を見透かすように、彼女の目はまっすぐ前を見つめていた。

〝君の旅は まだ終わらない〟

(旅はまだ終わらない……はじまったばかり、か)

 刀は今の自分が、ようやくスタートラインに立てた気がした。

 これから旅の道中、数々の苦難、試練が続くのだろう。

「蓮華」

「なに、カタナ」

「あたし、頑張るよ。蓮華の言うとおり、ちょっと抗ってみる。でも、途中で挫けそうになるかもしれない。その時は、力を借りてもいいかな」

 蓮華は両腕を組み、天井を眺めたあと、まぶたを閉じた。

 甘い考えだったろうか。考えこむ彼女に、思わず刀も目をつむってしまった。

「――ん。いいわよ」

「う、やっぱりだめかってえっ?」

 蓮華の左手が差しだされる。目はつむったまま、こちらを見ようとはしなかったが、彼女なりの照れ隠しだとすぐに分かった。

「いつだって力を貸す。相棒でしょ」

「……ありがと、蓮華」

 刀はその手を握り返した。自分たちの絆がより強く、長く続いていくようにと。

 そう。旅はまだ、はじまったばかりなのだから。


最終回です。これまでご覧くださった皆様、本当にありがとうございました。

本作以降も読みたい!と思った方、ぜひブクマや感想をいただけると励みになります。

よろしくお願いいたします。

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