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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
八章 まわり道の帰路
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10話 彼女たちの思惑

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 白沢月子は、デスクの左右に積まれた書類のあいだにいた。彼女とよく顔をあわせていた新田と戸川の姿は見えない。

「今日が退院でしたか、蓮峰さん」

 大量の書類に囲まれながらも、白沢の顔に疲労の色は見られない。話をかわしながら、その手と視線は書類に向かっている。

「はい。このたびは新田管理官を止めていただき、ありがとうございました」

 白沢はなんでもないことと言うように、首を左右に振った。

「貴女とは他人の気がしませんから」

「……どういう意味です」

「今の状況に満足していないところが、です」

 彼女は席を立ち、高層ビル群の並ぶ外を眺めた。

「ご存じないかもしれませんが、局の事件解決率は低下、魔による犠牲が増えています。それも局員の力不足ではなく、幹部の権力争いが原因で。本庁勤務のかたわら、ここを調べるうちに、私はこの現状を知った。そして決めたのです。局をまっとうな体制に整え、市民の安全をより確実なものにする、と」

 魔による事件は、局と警察庁が連携して情報統制を行っている。

 彼女がいた部署は、局と関りのあるところだったのだろう。それならば、内情を探るのはそう難しくない。

 警察庁からの出向者は、主に局との調整役として期待されてきた。彼女が現れる、それまでは。

「手はじめとして、日野課長と新田管理官の力を殺ぐことには成功しました。新田管理官は半年の謹慎と給与返還、日野課長にいたっては(くん)(かい)処分に留まったのは残念ですが、しばらくは大人しくするでしょう。ここまでできたのは貴女のおかげです」

 白沢は口の端を少しだけ上げた。彼女なりに笑っているのだと、蓮華は気付かなかった。

「――蓮峰さん、私と手を組む気はありませんか。貴女もここの体制に不満を持っている。特に今回は、権力の濫用を痛感したはずです」

 新田と同じ人間は、局に一人ではない。自分たちの地位の保持しか考えていない者は、まだ多く在籍している。現場を知り、適切な指示を出す人間こそ、この局に必要とされる人材だ。

 そう、例えば目の前にいる若い女性のような。

「……せっかくの申し出ですが、お断りします」

「なぜです。理由をお聞かせ願えますか?」

「いつのまにか権力争いに巻きこまれるのは、ごめんです。今は、カタナのこともありますから」

 蓮華は白沢の誘いに迷わなかった。

 これは一歩間違えれば、局内だけの問題ではなくなる。白沢の裏には警察庁がいる。建前は確かに立派で、局の改革は必要だ。

 しかしそれが成功すれば、局は警察庁に組みこまれ、干渉を許しはしないか。もし彼女一人の野望ではなく、組織ぐるみの戦略であるならば、体制の骨抜きに力を貸す愚行は犯せなかった。

「そうですか。新田管理官に振りまわされた貴女としては、そうでしょうね。分かりました」

 白沢は表向きの理由に納得したのか、それ以上は問い(ただ)さなかった。

「ですが、いつでもお待ちしています。あなた方鬼の主の力は、今の局を変えていく重要な切り札になりえますから」

 白沢はデスクの引きだしから、A4の茶封筒を取りだした。

「謹慎を解く命令書です。彼女が自主的にはじめたとはいえ、勝手に外に出られても困りますから。訓練所の所長にわたしてください」

 蓮華は封筒に伸ばしかけた手を、ぴたりと止めた。

「まだなにか?」

「一つだけお訊ねします。貴女は今回の騒ぎに、絶妙なタイミングで駆けつけ、収拾した。新田管理官たちが、カタナを秘密裏に処分しようと企んだあの状況で。出張先で情報を得て帰還したにしても、話ができすぎている」

 処分の再検討を行う会議は、戸川管理官が求めたものであった。新田たちは、その会議中に刀を殺すつもりだった。

 命令変更が正しく届かなかったため、と彼らは弁解したが、ひそかに処断を企てていたことは間違いない。

 そしてそれを知っていたのは、新田と日野、彼らから命令を受けた執行官のみ。

「蓮峰さん。貴女がなにをおっしゃりたいのか、分かりかねます」

「貴女には内部を探る協力者がいる。具体的に言えば、黄鬼(こうき)、もしくは黄鬼の主が、貴女と手を組んでいるのでは?」

 何百年ものあいだ、存在が確認されていない鬼――黄鬼。雷を自在に操り、黒鬼を二度も封じた最強の鬼。今回の黒鬼との戦闘において、蓮華をすんでのところで救ったのが、黄鬼の雷撃だった。

 黄鬼かその主は、気配を察知されることなく、局の内情を探っている。そして、彼もしくは彼女が集めた情報は、白沢にわたっている。

 蓮華が刀を助けに行けなかった場合も、黄鬼がなんらかの横槍を入れて救出したのではないか。

「または、貴女が黄鬼の主なのではありませんか、白沢管理官」

「……いるか分からない相手をあげるのは、乱暴な推理にすぎません。私から鬼の血が匂うというなら別ですが、残念ながら私はただの人間です」

『主、その者からは黄鬼の気配はない。奴と接触したのであれば、残り香があるはずだ』

 ことの成り行きを見守っていた蒼鬼が、口をはさむ。

「――失礼しました。確かに、私の推理は穴だらけです。ただ、黄鬼はどこかにいます。それだけは間違いないかと」

 蓮華は今度こそ封筒をつかみ、部屋をあとにした。


 封筒を受け取り、蓮峰蓮華が出ていく。管理官室は、月子独りだけだ。

「話は終わりました。もうかくれんぼはけっこうですよ」

 手元の書類に目を落としながら、白沢はつぶやいた。背後の壁はドアとなっており、一人の少女が姿を現す。赤みがかった長い黒髪に、赤縁の眼鏡の少女。学校帰りなのか制服姿で、オレンジ色のショルダーバッグを提げている。

「うーん、さすがに蒼鬼の主さんにはバレちゃったかな?」

 彼女は大きく背伸びし、胸の前で手をあわせた。

「責は問いません。貴女たちの加勢がなければ、蓮峰さんは死んでいた。私もまにあわなかったでしょう。今回はお疲れ様でした」

 少女は白沢のデスクのかたわらにかがみ、にこりと笑う。首をややかしげた姿は、モデルかアイドルのポージングのようだ。

「ううん、これくらいダンスレッスンより楽だよ~。それに、あの人たちをぎゃふーん★と言わせられたから、わたしは嬉しいな」

「……思えば、私がここへ出向するきっかけになったのは、貴女の訴えがあったからでしたね」

 白沢は少女に視線をよこした。彼女は笑顔のまま、なにも答えない。

「しかしまだ、改革のための一歩が踏みだせたばかり。今後も引き続き、よろしく頼みます」

 少女はすっくと立ち上がった。小さな拳で、胸をとんと叩く。

「うん、まかせて。――あっ! そろそろ次の撮影だから行かなきゃ。それじゃ白沢さん、バイバイ★」

「ええ、また。今日の生放送、(はい)(けん)させてもらいますよ」

 少女はぱっと顔を弾ませ、ウインクを一つ。

 軽快な足どりで去る彼女を、白沢はだまって見送った。


明日の更新は21時半となります。引き続きよろしくお願いいたします。

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