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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
八章 まわり道の帰路
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9話 迎えに行く

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 蓮華はバッグ一つに荷物を詰めこみ、忘れ物がないか確認する。

 気が付けば、あの騒動から一ヶ月近く経とうとしている。海堂の治癒結界に加え、自分の力を使えばもっと早く退院できたはずなのだが、今回に限っては叶わなかった。

 海堂が厳しい監視を敷き、力の使用を固く禁じたからだ。脱走も試みたが、四六時中誰かが病室にいたため、未遂に終わった。

「さてと。長いこと世話になったわね、海堂クン」

 病室を訪れた海堂に、軽く頭を下げる。

 彼からは耳にたこができるほど説教を聞かされたが、それを除けば、黒鬼から受けた傷の(あと)が残らないよう治してくれた。彼の持つ流鬼の力と、医師としての腕があってこそだ。

 しかし、海堂の表情はあまり()えない。蓮華の退院を決めたのは彼自身。なぜ、浮かない顔なのだろう。

「これから、楠木さんのところに向かわれるのですか」

「ええ。あのまま放っておくわけにはいかないでしょう」

 いずれ落ち着けば考えが変わる。そう思っていたのだが、監視を受け持った近藤によると、刀は自らに課した謹慎を解く気がない。

「足を運ばれても無駄です。楠木さんは、貴女を傷付けたことをひどく責めていました。アドルフさんや近藤さんがなだめても、考えを変えなかった。貴女が行ったところで、(かたく)なに拒むだけでしょう」

「海堂クン。貴方このまま、カタナとは縁を切ったほうがいい、って言いたいんじゃないの?」

 図星だったのか、海堂は苦い顔で軽く息を吐いた。

「これ以上、局に振りまわされない道を採るべきです。貴女は医者を目指しているのでしょう。ここにいても、その夢は遠ざかるばかりです」

「そうとは言いきれないわ。現に貴方は、立派なお医者様になったでしょ」

 蓮華はバッグを右手で持ちあげた。山岡が作った新しい義手は質感は同じ、強度を上げた改良型だ。刀を迎えに行く準備は、ほぼ整っていた。

「……一つ、教えてください。なぜそこまで、楠木さんにこだわるのですか」

 部屋の外に踏みだした蓮華の背中に、海堂の問いが投げかけられる。

「あのコ見てると、ときどきイライラするの。なにもしないうちに諦める。あんなの見せられて、知らないふりなんてできない」

 心の傷を広げる一方の相棒をそのまま、自分だけが元の生活に戻る。他人のふりを決めこむ薄情な振る舞いは、天地がどうひっくり返っても、演じられそうにない。

「それに日常の一つがなくなるのも、少しさびしいし。あのコもそう思えるようになるといいのだけど」



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