9話 迎えに行く
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
◇
蓮華はバッグ一つに荷物を詰めこみ、忘れ物がないか確認する。
気が付けば、あの騒動から一ヶ月近く経とうとしている。海堂の治癒結界に加え、自分の力を使えばもっと早く退院できたはずなのだが、今回に限っては叶わなかった。
海堂が厳しい監視を敷き、力の使用を固く禁じたからだ。脱走も試みたが、四六時中誰かが病室にいたため、未遂に終わった。
「さてと。長いこと世話になったわね、海堂クン」
病室を訪れた海堂に、軽く頭を下げる。
彼からは耳にたこができるほど説教を聞かされたが、それを除けば、黒鬼から受けた傷の痕が残らないよう治してくれた。彼の持つ流鬼の力と、医師としての腕があってこそだ。
しかし、海堂の表情はあまり冴えない。蓮華の退院を決めたのは彼自身。なぜ、浮かない顔なのだろう。
「これから、楠木さんのところに向かわれるのですか」
「ええ。あのまま放っておくわけにはいかないでしょう」
いずれ落ち着けば考えが変わる。そう思っていたのだが、監視を受け持った近藤によると、刀は自らに課した謹慎を解く気がない。
「足を運ばれても無駄です。楠木さんは、貴女を傷付けたことをひどく責めていました。アドルフさんや近藤さんがなだめても、考えを変えなかった。貴女が行ったところで、頑なに拒むだけでしょう」
「海堂クン。貴方このまま、カタナとは縁を切ったほうがいい、って言いたいんじゃないの?」
図星だったのか、海堂は苦い顔で軽く息を吐いた。
「これ以上、局に振りまわされない道を採るべきです。貴女は医者を目指しているのでしょう。ここにいても、その夢は遠ざかるばかりです」
「そうとは言いきれないわ。現に貴方は、立派なお医者様になったでしょ」
蓮華はバッグを右手で持ちあげた。山岡が作った新しい義手は質感は同じ、強度を上げた改良型だ。刀を迎えに行く準備は、ほぼ整っていた。
「……一つ、教えてください。なぜそこまで、楠木さんにこだわるのですか」
部屋の外に踏みだした蓮華の背中に、海堂の問いが投げかけられる。
「あのコ見てると、ときどきイライラするの。なにもしないうちに諦める。あんなの見せられて、知らないふりなんてできない」
心の傷を広げる一方の相棒をそのまま、自分だけが元の生活に戻る。他人のふりを決めこむ薄情な振る舞いは、天地がどうひっくり返っても、演じられそうにない。
「それに日常の一つがなくなるのも、少しさびしいし。あのコもそう思えるようになるといいのだけど」




