表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
八章 まわり道の帰路
64/68

8話 再会

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 一度ならず二度までも、目の前で倒れる蓮華の姿を見た。

 いずれも、原因は刀自身にある。

 病院から応援を連れて戻ったあと、蓮華はその場で簡単な処置をほどこされ、手術室へと運ばれていった。

 海堂からは、無理に動いたために傷口が開き、再出血していること、また血圧が急激に下がりつつあるとの説明を受けた。

 血圧低下の直接的な原因は不明で、数値を上げる処置も効果がない。このままでは心臓が十分に働かなくなり、血液が(じゅん)(かん)しなくなる。

 目の前が暗くなりかけた時、一人の女性がアドルフと共に、手術室の前に現れた。

 白い肌に、サイドアップにまとめた長い金髪、蒼い目を持った四十代の女性。年齢や目の色は違えど、外見と雰囲気は蓮華にそっくりだ。

「お呼び立てしてすみません、桜華(おうか)さん」

「いいえ。事情はだいたい()(あく)しています。あの子に、私の血が必要ってことでしょう?」

 海堂の沈黙を肯定ととった彼女は、小さくうなずく。

 桜華と呼ばれた女性は落ち着いていた。こういった深刻な場に慣れているのかもしれない。

「でも、蓮華(あの子)には内緒にしておいてくださいね。バレたらなにしでかすか分かりませんから」

「ありがとうございます。早速お願いします」

「待って。海堂さん、この人は?」

 女性は刀の姿を認め、足を止めた。海堂は遠慮がちに口を開く。

「彼女は……。蓮華さんが、今組んでいる方です」

 刀の頭上に影がかかる。女性がしゃがみ、刀の顔をのぞきこんだ。

「――大丈夫よ。あの子しぶといから、これくらいじゃくたばらないわ。私が来たんだから、死ぬはずがないの。だから、祈ってあげて」

 その青い瞳には、慈愛と自信が満ちていた。どうあっても大丈夫だと、彼女の目は告げていた。

 女性は刀の肩に優しく手をおくと、海堂と共に手術室へ向かっていった。


 女性の言ったとおり、蓮華は奇跡的に持ち直した。

 あの女性の血が、死の(ふち)から蓮華を救ったのだろう。しかし、彼女はいつのまにか姿を消しており、礼は言えず仕舞いだ。

 誰もが胸をなで下ろす一方、刀は謹慎する(むね)を近藤に伝えていた。

 蓮華が心配でそばに控えていたが、集中治療室から一般病棟に移ると決まり、ここに居続ける理由がなくなったからだ。

 今は彼女の負担を軽くしたかったし、はなれていたかった。たとえ彼女が目覚めても、うまく話せそうにない。

 だが眠りに落ちれば、ぐったりとした血だらけの蓮華が、夢に現れた。彼女やアドルフたちを、自分が斬り殺す夢さえ見る。

 起床の放送よりも、悪夢が刀にとっての目覚ましになっていた。

 今朝も、その夢で叩き起こされた。

 おそらく一生この悪夢にうなされ、最期は黒鬼のせいでなくとも狂ってしまうだろう。

「おい、顔色悪いぞ、大丈夫かい。昨日も寝れなかったのか」

「おじさん……心配してくれてありがと。でも、大丈夫だから」

 訓練所時代によく話しかけてくれた男性が、以前と同様に食事を持ってくる。刀が起こした事件を知らずに。

 ただ彼は、訓練不足という理由が、表向きにすぎないと悟っている。ここに戻ってきて二週間、刀は一度も訓練に出ていないからだ。

 腫れ物にふれぬよう、気を遣う彼の姿を見ていると、話すことさえ(おっ)(くう)になる。それならいっそ、無視してもらったほうがいいとさえ思っていた。

 しかし、彼以外にも放っておいてくれない人間がいた。蓮華の代わりに毎日監視にやってくる、近藤大輝だ。

「よっ、おはよう楠木」

「……おはようございます。近藤さん」

 刀は近藤から背を向けた。職員以上に会話を試みる彼とは、視線をあわせたくなかった。

「まだその呼び方か。さん付けはむずむずするんだ。同じ鬼の主のよしみだ、呼び捨てで構わないから。あと、堅苦しい話し方もよしてくれないか」

「……」

 刀には、似たことを言われた覚えがあった。二ヶ月前、どこの喫茶店だったか、ごった返した店内で話しあった。

『そうだ、その(てい)(ねい)語もやめてもらえる? 上司と部下の関係は形だけのものだし』

『これは命令。丁寧語はやめて、名前で呼びなさい。いいわね、カタナ』

 たった二ヶ月が、ずいぶん前の出来事に感じるのは、声の主と顔をあわせていないからだろう。

 当時は振りまわされてばかりで、自分が彼女の負担になるとは、予想もつかなかった。

 もしあの時、一定の距離を保つように心がけていたら、この事態は起きなかったかもしれない。上司と部下、それ以上の関わりを持たずに。

「命令なら、そうします」

 ぶっきらぼうに言い放つ。同じ轍は踏まぬよう、彼との関係は、距離をおくことに決めた。

「あのなぁ……。まあいいや、今日はいい知らせを持ってきた。蓮峰が退院する」

「蓮華が――!!」

「本人は早く病院から逃げだしたいって言ってたけどな。ようやく許可が下りたらしい。お前が謹慎する理由はもうないし、俺もお役御免だ。よかったな」

 近藤は彼女の復帰を待ち望んでいたようだが、刀はすなおに喜べなかった。

 怪我が治ったのは喜ばしいが、また同じことが起きるかもしれない。彼女と再び組むかぎり、その可能性は消せないままだ。

「……いやです。あたしはここから出ません」

「なに言ってるんだ。ずっと待ってたんだろ、蓮峰が元気になるのを」

「当然です! でも……それとこれとは、話が別です。あたしはまた、同じこと繰り返すに決まってます。今度はアドルフさんやアンディを傷付けるかもしれない。ここに来たのは、蓮華が他の人と組むのを待つためです。もうあたしのせいで、誰かが死ぬのはいや!」

 ここに閉じこもっていれば、人を害さずにすむ。結界に覆われた部屋の中で一生を過ごす。それでよかった。

「参ったな……お前はそれでいいかもしれないが、蓮峰がそれで納得するとは思えないぞ」

「それでも構いません。これは、あたしなりのけじめのつけ方ですから」

「そう、分かったわ」

「!!」

 声に、刀は振り返った。なぜ彼女がここにいるのか、理解不能だ。

 廊下に面した部屋の出入り口に、スーツを着こなした長身の女性が立っている。

 透き通るような金色の長い髪が、日の光を浴びて輝いていた。



明日の更新は16時50分、21時半となります。引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ