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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
八章 まわり道の帰路
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6話 矜持

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 

 刀はまだ、夢の中にいるようだった。自分の処分が取り消され、こうして命をつないでいる。

 蓮華は処分前に刀と話した男性――近藤と、一言二言かわし、また歩きだした。刀はそのあとをついていく。

「蓮華、どこ行くの?」

「どこって、そりゃ、家にかえるのよ。私も、あなたも、ずっと帰ってないでしょ」

 蓮華の歩みはゆっくりで、心なしか声にも覇気がなかった。課長相手に脅しをかけていた彼女とは、別人のようだ。

「う、うん……。そうだけど。帰って、いいのかな」

「いいに決まってる、でしょ。ここにいたら、また難くせ、つけられ、――ごめん。ちょっと休けい」

 蓮華は自販機横にあった、背もたれのないソファに腰かけた。刀もうながされ、かたわらに腰を下ろす。

 近くで見るせいだろうか。彼女の顔は、いつもより真っ白だ。

「蓮華、ほんとによかったの? あたしなんか助けて」

「たすけなかったら、後あじ、わるいじゃない。ヘンなうわさ、たてられても、困るし」

「……でも。あたしのせいで、その腕」

 黒鬼が、蓮華の右腕を断つところを見た。夢だと思っていたものの中で、それだけはまぎれもない事実だった。

 しかし蓮華は目を丸くし、小さく口元をゆるめる。

「な、なんで笑うのさ……」

「めんどうだから、言わなかったけど。一年前から、こうなの。あれは、義手」

「え? そ、そう、なの……? あっ、だから!」

 手合わせの際に感じた、右腕の動きのかすかな遅れ。

 あれは怪我の影響ではなく、義手によるものだったのだ。

「ええ。あのときはまさか、気付かれるなんて、おもわなか――」

 突然、蓮華は刀に寄りかかった。

「だ、大丈夫? れん――っ!!」

 一気に夢から覚めた。彼女の背中と腹部に、赤い染みが広がりはじめている。

「蓮華、血が……!!」

「……は。いたい、わけだわ」

 蓮華は冷や汗を額に浮かべ、困ったように笑みをこぼした。だがその笑顔は痛みで歪んでいる。

「やっぱり……やっぱりあたしのせいで!」

(夢なんかじゃ、全然なかった……!!)

 考えれば助けに来た時からおかしな点はあったが、少しの()()だと思いこんでいた。

 彼女はなんらかの方法で痛みを耐え、誰にもそれを(かん)()させなかった。

「ごめん……ごめん、蓮華……!」

「ったく……やったの、は、あなたじゃ、ないでしょ。そんなかお、みせないの」

 蓮華は左手を伸ばし、刀の目に浮かんだ涙を(すく)った。

「だって、だって――!!」

「わーわー、わめくんじゃ、な……ぃ」

 涙を拭った手が、力を失い、だらんとたれる。

「蓮華!? しっかりして!!」

「蓮華さんっ!!」

 慌てて駆けつける足音に振り返ると、このあいだの白衣の男性――海堂がやってきていた。

 彼が蓮華の主治医なのだろう。倒れた彼女のそばに腰を落とし、染みを作ったシャツのボタンを外した。すぐさま傷の状態を確認するため、バッグからはさみを取りだす。

「なにを泣いてるんです」

「え……」

 海堂の声は、静かな怒りに満ちたものだった。彼をよく知る者が見れば、その姿に驚いただろう。

「今貴女がすべきは、蓮華さんを救うことでしょう」

「!!」

 蓮華に視線を落とした海堂は、手を動かしながら続けて言った。

「局の隣に病院があるのは分かりますね? そちらに行って、応援を呼んできてください」

「は、はいっ!!」

(そうだ、泣いてる場合じゃない!!)

 刀は弾かれたように駆けだした。誰の監視もつかない、たった独りで走った。

 今度は自分が、蓮華を助けるために。


「……よかった。よかったよ、蓮華が助かって」

 おぼろげな意識の中、女性が語りかけていた。顔ははっきりとは見えない。(かす)んでしまっている。

 左手が両掌に包まれた。

「治るまで無理しちゃだめだからね。海堂さんやアドルフさんのいうこと、ちゃんとよく聞くんだよ。あたしからのお願い」

 まるで、母親が子どもに言い聞かせるようだった。両掌がそっとはなれ、かたわらの気配も遠ざかる。

「もう、いいのか? そばにいてやらなくて」

「はい、大丈夫です。――じゃあね、蓮華」

 ドアが閉じ、足音が遠くなる。そこで蓮華の意識は、再び途切れた。


今日の更新は19時半、21時半です。引き続きよろしくお願いいたします

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