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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
八章 まわり道の帰路
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4話 奪還

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 両脇を抱えられながらエレベーターに乗りこむ。目隠しされた上に手首を縛られているため、身体の自由はほとんどないに等しい。

 まるで地獄へ吸いこまれるように、エレベーターは地下へ降りていく。蓮華と共に技術部におもむいた際も、ずいぶん下にあると思ったものだが、あの時よりもさらに奥に向かっているようだった。

 死刑執行という後ろめたい話だ。誰も近付かない場所で行ったほうが、他の局員にショックをあたえずにすむからだろう。

 視界が閉ざされたからか、刀の感覚はよりいっそう研ぎ澄まされていた。

 エレベーターが目的の階で止まった。扉が開いたとたん、死のにおいが足下にただよってくる。ここで処刑された人々の(えん)()の念が、お前も来いと誘っているようだ。

 竦む足を急かされ、歩きだす。気のせいだろうか、両脇の二人は足早だ。彼らは一刻も早く、この場所から去りたいのかもしれない。

 金属のドアの開く鈍い音が、廊下に響く。コンクリートの冷たい空気と混ざった死の気配が、全身に突き刺さる。ここがそうなのだ。

 部屋に入るよううながされ、コンクリートから金属の床に変わったところで彼らは止まった。

(そっか、こういう死に方なんだ)

 足首が縛られ、首にロープがかかる感覚。両脇にいた彼らが部屋を去り、独りになる。

 ボタンが押されれば、足下の板は下に開く。なすすべもなく身体は落ち、ロープの限界点で宙吊りにされるだろう。

(さよなら、蓮華)

 終わりを待つ刀の耳に、バチン、と照明の消える音が聞こえた。

 上に吊されていたロープが自然と切れる。足は床についたままだ。

 再び灯りが点き、何者かが近付く気配を感じる。慌てた様子はない。執行官の誰かであれば、ここまで落ち着いてはいられないだろう。

「だ……だれ?」

 謎の人物は手と足の縄を解き、目隠しを取った。

 夢ではないか。刀は息を飲む。

 はじめに、金色の髪と白い肌が目に入った。そして頭からつま先まで、まじまじと見つめた。

 彼女は白のワイシャツを着て、スラックスを穿()いていた。

 足はなぜか裸足だったが、髪の色も背格好も、蓮峰蓮華その人だった。

「れ……れん、か、なの?」

「それ以外の誰に見えるの」

 蓮華はげんなりした様子で応え、刀の首にかけられたロープを、左手で外した。

 黒鬼に断たれた右腕は、シャツの(そで)が揺れるだけ。

(やっぱり……夢じゃ、ない?)

 周りに視線を向ければ、部屋の外で男が二人、のびている。部屋の中のガラスで区切られた小部屋には、もう二人、男がそばの机にもたれかかっていた。

 灯りを消したあいだに、蓮華がやったに違いない。だがあれだけの大怪我を負った彼女が、大の男を四人、たやすく倒せるとは思えなかった。

 それでも目の前にいる彼女は、いつもの涼やかな顔だ。

「あ、あの、蓮華。なんで、ここに。あたしは、」

「いいから。こいつらが起きないうちにさっさと行くわよ」

 彼女は刀の右手を強引に引っ張り、部屋を出ていく。

「い、行くってどこへ!?」

 慌てて歩調をあわせながら問うたが、彼女は答えない。だまってついてこい、と言わんばかりだった。


 それは、予定された執行時刻よりも四十分早い出来事だった。邪魔が入るのを恐れ、課長か新田が手をまわしたのだろう。

 だが、奇襲には成功した。蓮華は山岡が用意していた衣服は着たものの、靴は履いていなかった。そのため、足音を消す必要もなく、不意を突くことができた。

 刀は蓮華がここにいるのが信じられないのか、夢の住人のようにぼんやりしている。

 おかげで、平手打ちを食らわせる気が失せてしまった。本人がこの様子では、やるだけ無駄だ。体力がもったいない。

「あ、あの、蓮華。なんで、ここに。あたしは、」

「いいから。こいつらが起きないうちにさっさと行くわよ」

 ドアの前にいた見張り二人と、執行ボタンを押すために待機していた二人、計四人を気絶させた。彼らが目を覚まして新田たちに連絡するまで、そう時間はかからない。

 その連絡が届くより先に、たどり着かねばならない場所があった。

 山岡が投与した鎮痛剤は、効き目は強いが持続時間は長くない。

 最大で三時間はもつと彼は言ったが、動けばそれだけ効き目は薄れていくだろう。

「い、行くってどこへ!?」

 刀の問いに答えるひまはなかった。話せばおそらく、彼女はそこへ向かうのを拒む。まだ彼女は、自分の命を局に差しだしたままなのだから。

 エレベーターの奥に刀を押しこみ、退魔一課へ。執行室のある階からでは、二分ほどかかる。

(とりあえず、このあいだに気付かれないことを祈るのみね)

 新田への連絡はともかく、病室がもぬけの殻なのは発覚しただろう。今頃、海堂は必死になって探しているかもしれない。

 手すりに寄りかかり、体力を温存する。ほんの数分の休憩でも、今の蓮華にとっては重要だった。

 刀はまだだまっている。今はなにも訊いても答えてもらえない、と思ったのかもしれない。

「カタナ、もうすぐ目的の階に着くわ。私の指示にしたがって、いいわね」

「……う、うん。分かった」

 刀は手首に残る縄の(あと)を、さすりながらうなずいた。まだ夢の中か、彼女の心は別の場所にあるようだった。

 エレベーターが止まる。廊下に誰もいないことを確認し、刀についてくるよう合図する。

「どこに行くつもりだ、蓮峰」

「!」

 背中に投げかけられた声に、蓮華は刀の袖を引っ張り、彼女の前に出た。

 スーツごしにも分かる、鍛えられた身体、革のジャケットを着た黒髪の男性が立っている。

「近藤クン……」

 男性は主任の近藤大輝だった。暴走した黒鬼をおさえられるもう一人の存在、鉄鬼の主だ。

 彼は主任として一つの隊――撤禍隊(てっかたい)を預かっているが、今は独り。まだ管理官へ連絡が届いていない証拠だ。

 彼一人なのは、海堂に頼まれて蓮華を探していたからかもしれない。

「病み上がりでどこほっつき歩いてるかと思えば、心配したぞ! お前がなにをやるかは知らないが、あいつらを刺激するまねはやめろ。これじゃ彼女の立場が悪くなるだけだ」

「邪魔をする気?」

「もし日野課長や新田管理官を殺すつもりならな」

「むしろ、あっちがやる気でしょう? 貴方こそ、彼らを止めてくれないの?」

 お前の言い分は詭弁(きべん)だ、と新田なら言うかもしれない。

 右腕を失ったままは心もとないが、ここで近藤と一戦まじえる覚悟を決める。

「もう一度訊く。課長たちを殺す気は、ないんだな?」

「彼らが私とかわした条件を、思いださせるだけよ」

 蓮華が重体であるのをこれさいわいと、新田たちは刀の殺害を企んだ。

 彼らは裏切った。この間違いは正さなければならない。

「それなら、いい。日野課長と管理官たちは、楠木の処分をめぐって、再度会議をやってる。第一会議室だ」

「そう。私がまにあわなかったら、カタナは会議中に殺されていたわけね」

「なんだって? 今日の執行は戸川管理官が止めたはず――あいつら」

 近藤の瞳に怒りが宿ったのを、蓮華は見逃さなかった。彼なら味方に引きこめる。

「近藤クン。私が課長たちと話をつけるまで、会議室への突入は待ってもらえる?」

「……ああ。部屋は部下に包囲させるが、それでもいいか?」

「構わないわ。そのほうが助かる。カタナ、行くわよ」

「え、えっ?」

「いいから来る!」

 思った以上に効き目が切れるのが早い。身体の奥にぴりりと電流が走った。

 それでも、ここで倒れるわけにはいかない。背中に隠れていた刀の手を引っ張り、奥の会議室へ足を向けた。


今夜の更新は21時半です。引き続きよろしくお願いいたします。

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