表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
一章 蠢動する闇、日常の終わり
6/13

5話 暗殺者

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 蓮華は一瞬目を見張り、気を引き締めた。たった今電話したばかりの相手が、目の前に立っているのはどう考えてもおかしい。待ちあわせ中に、おたがいを探していたのならともかく。

 彼は紅く目を光らせ、無表情で蓮華をじっと見つめている。

『こいつは〝()(がれ)〟か。魔の情報も早いな。いや、これまで何も起きなかったのがおかしいのか』

 魔の中には、人の姿を模倣(もほう)するものがいる。誰そ彼は、その代表的な魔であり、優秀な暗殺者だ。

「彼らもバカじゃないわ。敵意のない相手を敵とは見なさない、手は出さないんでしょう。敵になるかもしれない、だったら別だろうけど」

 彼女は左手をぎゅっと握った。息をするように、力を解放する。

 蒼鬼は脳、鬼の力は身体に(じゅん)(かん)する血液や筋肉と同等だ。強く意識しなくとも、無意識に操れる。その体力と気力がもつかぎり。

 手の中に蒼白い光を帯びた弓が現れた瞬間、男――誰そ彼が反応した。右手を漆黒の剣に変化させ、蓮華目がけて走る。

 蓮華はそこから動かない。隻腕で戦うのは不利と見たか、それともなにかの作戦か。

 男はそれを見定めにかかった。右手の剣を左に大きく振った。

 がぁん、と鐘を突くような音。弓は折れることなく、剣を受けとめている。

 男はすぐに後ろに引いた。ち、と蓮華が舌打ちする。

「そううまくはいかないか。鬼の主にケンカ売るようなやつだものね」

 彼女の手元の弓は、独特の()りを失い、(むち)のようにしなっていた。

 あのまま男が剣を押しこんだら、弓を絡みつかせて地面に叩きつけるつもりだったのだ。

『そもそも、弓は剣や鞭ではないのだが――』

「うるさいわね、こっちはあなたにあわせてやってるのよ」

 鞭は一振りすると、すぐ弓の形に戻った。

 弓は蒼鬼が得意とする武器であり、代々の主も名射手だったらしい。斎宮(さいみや)の人間は(たん)(れん)を欠かさなかったようだが、蓮華はあいにくと二年前までさわったことすらなかった。

 片腕を失った今では、まず弓を弓として扱えない。

 それでもまだ、この時点で不利なわけでもない。

 やれるものならやってみろ、と弓を前にかかげた。男が再び動く。

 弓が獲物に飛びかかる蛇のごとく、男に伸びる。

 暗殺者は身体をくねらせて避けた。その動きはクモのそれと同じ。

 難なく(かわ)した先には、がら空きになった蓮華の(ふところ)。男は迷わず飛びこんだ。右手の剣は槍に形を変え、彼女の左胸を――。

(かかった!!)

 彼女の眼前には、弓と同じ色の壁が浮いている。穂先は左胸を貫くことなく、その壁にあたって砕けた。

 同時に、蓮華は彼の胴に鞭を巻きつけ、引き戻す。さすがに今度は、誰そ彼も避けきれなかった。

 アスファルトに強く叩きつけられ、魔が苦悶(くもん)の声を上げる。鬼の血を引く人間は、見た目が華奢(きゃしゃ)でも、すさまじい力を振るう。それがたとえ、隻腕であろうと。

 動きを封じられた誰そ彼に、もはや抵抗するすべはない。

「とどめ――っ!!」

 突如、蓮華の左手から、ぽとりと鞭が落ちた。両膝を突き、顔には苦痛に耐える表情が浮かぶ。

『主、どうした!?』

 力がゆるんだのを、男は見逃さなかった。鞭を引きはがし、その場から溶けるように姿を消した。

「……にが、したか」

 長い息を吐き、ないはずの右腕を左手でさする。

『大丈夫か、主』

「……ええ、だいじょうぶ」

 そう答えたものの、彼女の顔はまだ青かった。左手は右腕をつかんだままだ。痛みに歯を食いしばる主に、蒼鬼はなにもできない。蓮華本人にもどうしようもないことだからだ。

幻肢痛(げんしつう)か。こういう時に起こると厄介だな』

「だから、現場に復帰しろって言われても、こまるのよ、ね。あー、痛」

 失った腕をまだあるものと錯覚し、脳が痛みの信号を送る。蓮華の場合、右腕全体が深く裂けたように痛む。毎日ではないが、ときおり起こる。

 痛みは錯覚であるため、鎮痛剤が効かない。そのことが精神的な苦痛も呼び起こす。

 そしてこの痛みは、他人に説明しても理解されにくい。

『立てそうか? 無理なら家に連絡したほうがよいのではないか』

「いえ、だいじょうぶ。もう、少し、やすんだら」

 再び長い息を吐いた蓮華は、やがてゆっくりと立ち上がった。右腕は完全に痛みが引いたわけではないが、同じ場所に(とど)まっていれば、また(おそ)われる可能性もある。

『明日、(りゅう)()の主に会うのだろう? その時に(そう)(だん)するといい』

「別にそこまですることでも――ま、ついでに聞くわ」

 両肩を竦め、彼女は西日の差す()()を急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ