表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
七章 黒鬼、覚醒
55/68

10話 驟雨のごとく

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

「……っ!!」

 膝が折れ、なんとか左手で身体を支える。今にも倒れてしまいそうだった。

 痛覚が麻痺してよく分からないが、背中に裂傷がいくつもできている。鏡で見れば、真っ赤に染まっているに違いない。

「どうやら……、貴様の抵抗も、ここまでのようだな」

 息を荒らげ、黒鬼が(わら)う。

 矢の残弾は一発、もはや打つ手は限られる。

 そして刀の命も。

(……やるしか、ないのね)

 なけなしの体力をかき集め、蓮華は立ち上がった。

 黒鬼はすでに太刀を大上段にかまえている。

「とどめだ。死ね、蒼鬼の主!!!」

 黒のつむじ風が地表を割り、がれきを()き散らしながら迫る。頬に小石が飛んでくる。

「――」

 片息の肺に長く息を吸いこみ、蓮華は左手を強く握った。前を(にら)みつけ、雑念を排除する。

「封印解除」

 その一言を合図に、左腕が熱を持つ。立っている場所が、力の圧に負けて沈む。

「行け!」

 血反吐を吐くように叫び、左拳を叩きつけた。

 蒼白い光と共に解き放たれたエネルギーは、地面を砕きながら黒鬼の斬撃を突破していく。

「なに!?」

 彼は慌ててもう一波を放ったが、蓮華の一撃はそれをも弾いた。

「これだけの火力、どこに隠して――」

 そうつぶやき、黒鬼ははたと気が付く。この力に、彼自身覚えがあった。そんなはずがないと打ち消そうにも、否定できない決定的なものだった。

「バカな! これは、俺の力ではないか……っ!!」

 黒鬼との純粋な力勝負では、蒼鬼だけでは勝てない。

 蓮華が負傷してまで先の一撃を左手に封じこめたのは、とっさに防御したからではない。黒鬼のあの攻撃に、それ以上の火力を叩きこむためだった。

 力の奔流はついにすべてを押し戻し、がれきの槍は塵となって砕け散っていく。

「くそっ、どこに行っ――!?」

 塵と埃が視界をさえぎる。それでも、蓮華は彼の姿を先に(とら)えた。右腕に意識を集中する。

「なっ!?」

 黒鬼が息を飲む。喪われたはずの彼女の〝右手〟がここにある。蒼鬼の力で編まれた、蒼白く光る手が。

「貴様……っ!!」

 蓮華は黒鬼が逃げるより先に飛びかかり、左肩を〝右手〟でおさえこんだ。

 彼を押し倒しながら、右脇に吊っていたナイフを左手で引き抜く。これで喉を貫けば終わりだ。

 光の速さのように、脳裏に一ヶ月の出来事が思いだされる。

 監視役と監視対象、そんな関係は自分たちには似合わなかった。

 たとえ擬似的なものと言われようとも、家族同然に過ごした。

 はじめは戸惑っていた刀も、やわらかい表情を浮かべるまでに変わった。

 黒鬼のことはすべてが局の壮大な勘違いで、彼女への恐怖の念は消える、はずだった。

 いや、そうあってほしいと勝手に思っていたのか。

 この未来を見たくなかっただけなのか。

『もし、もしあたしが、蓮華を殺そうとしたら。その時は、ためらわないで殺して。お願い』

 ナイフが刀の首筋をかすめ、アスファルトに硬い音を鳴らす。

退()け!!」

 反撃はここまでだった。腹部に強い圧を感じた瞬間には、蓮華はすでに蹴り飛ばされていた。

 受け身を取るひまもなく、何度も地面に身体を打ちつける。

 擬似的に展開した右腕は消え、目も(かすみ)がかかってよく見えない。

 ナイフは手からはなれ、結界も解けた。このままでは黒鬼を外に出してしまう。

『主、しっかりしろ!!』

 蒼鬼の声が危険を訴える。霞んだ視界の中に、太刀を携え、近付く黒鬼の姿が見える。

「詰めが甘いな、蓮峰の。この器に、情でも移ったか?」

「……」

「終わりだ。せめて一息で終わらせてやる」

 黒鬼が首に太刀を振り下ろそうとかまえた。

 爆竹が弾けるような音が、黒鬼の頭上で鳴った。

「なんだ?」

 彼が見上げたのと同時、稲光が空に走る。

 天候が悪化しただけかと思いきや、雷はそのまま彼に直撃した。

「ぐうおあああああっ!?!」

 目が醒める雷音。まるで、至近距離から大砲を撃ったような音と震動が、あたりを支配する。

『雷! まさか、これは――』

 雷に打たれた黒鬼の身体からは、黒煙が上がる。だが、彼はまだ立っていた。

「おのれ、何奴!!」

 黒鬼の頭上に再び雷の柱が降りる。

「がああああぁ!!! ……卑怯者ッ、姿を現せぇ!!」

 黒鬼は天空に向かって太刀を振るった。雷柱は縦に昇る黒の刃に、二つに裂かれ四散する。

 あれだけの電気エネルギーに身を焦がされながらも、彼はまだ戦う気でいた。

『主、早くここから逃げろ! あとはあいつがやってくれるはずだ』

 蒼鬼は雷の正体に覚えがあるようだ。

「あいつ……? あいつって、だれ」

『あれは黄鬼だ! 奴なら黒鬼を倒せる!』

 確かにあと数発あの雷撃を食らえば、さすがの黒鬼も音を上げるだろう。

「そうね……。でも、それはできない」

『主!?』

 しかしこのまま黒鬼を放っては、任務放棄と取られかねない。それにあの威力の雷を受け続ければ、刀も死んでしまう。

「あと、いっぱつ、のこってる」

 一発分の矢弾を撃つ力は、まだ空間の中に留めてある。

『馬鹿者、その身体で奴に勝てるわけが』

「いえ。あっちも、もう、限界よ」

 両足に喝を入れ、再び立ち上がる。黄鬼か誰かは知らないが、助太刀のおかげで、失いかけた希望をつかむ機会を得た。

 この一撃で、必ず刀を取り返す。どんなに苦境であろうとも、簡単に人の命を諦めたくはない。

 二度の雷を受けた黒鬼は、足下がふらついている。意地でも倒れない精神力は見上げたものだが、今度こそ彼も限界だろう。

「おのれ……待ってろ、蒼鬼を片付けたあとに、殺してやる……!!」

 おぼつかない足どりながらも、黒鬼は中段の突きのかまえで突進する。

 有効射程圏内に入ったタイミングで、蓮華は最後の一発を発射した。

 しかし万全な状態と違い、数百本の矢は黒鬼の横を通りすぎる。狙いの軸がかたむいていたのだ。

「はっ、どこを狙っている!!!」

 どすり、と腹部に衝撃が走った。冷たいなにかが背中を貫き、すぐさま生暖かい熱があふれていく。

「はっ、はっはっはっ……! 手こずらせ、おって……。俺の、勝ちだ!!」

「……さぁ、それは、どうかしら」

「!?」

 蓮華は残り火のような体力を振り絞った。

 彼は慌ててはなれようとしたが、足下から飛びだした(くさり)に縫いとめられ、身動きできない。

「これで、もう、にげられないわよ」

 蓮華たちの頭上には、数百本もの矢があった。

 最後の一発を蒼鬼の空間を操る能力で引き戻し、この場に展開したのだ。

「っ、蒼鬼いいいいいい!!!」

「私の勝ちよ、黒鬼」

 その言葉が合図となり、矢は(しゅう)()のごとく降りそそいだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ