9話 一息遅れる
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
「行け!」
「ちぃっ!!」
黒鬼は自らを中心に、円を描くように刃を振るった。
黒の風が吹き荒れた。矢の半分以上が折れ、吹き飛ばされる。
先の射撃もこうして避けたのだろう。彼は金色の瞳をぎらつかせ、長い息を吐く。
「よもや、よもやこれほど骨のある奴とは。気に入ったぞ、蓮峰の」
「意地を張るのもいい加減にしたら? カタナは手負いよ。このまま続けたら、貴方も暴れるどころじゃないでしょう」
「ほざけ。貴様こそ内心焦っているのではないか? どんな手を尽くそうとも、俺には勝てんぞ」
空間からの矢の射出は、これで五発。
ここから先は、刀の処分も覚悟しなければならない。あらかじめ空間に備えておいた矢は、最高で十発。鬼の主とはいえ人間、操る力には限界がある。蓮華のキャパシティではこれが精一杯だ。
半分以上の矢弾を、今撃ち尽くした。空になった空間に、すぐさま弾倉を補充できるわけでもない。
刀の腹部は赤く染まりはじめている。体力の限界を超えて黒鬼が戦えば、彼女が命を落としかねない。
まずは動きを止めなければ。そして肉体へのダメージではなく、彼の魂に強いショックをあたえる。それが最善の策だ。
(そのためには、陽動が必要。一発はそれにまわす、あとは――)
「分からず屋とこれ以上話しても無駄ね。カタナは返してもらうわ」
「やれるものならやってみろ!!」
動きを牽制するよう、六発目の矢を放った。
「はっ! 何度同じことを――!?」
黒鬼が矢を弾いたところに、再び矢の雨を降らせる。
蓮華は六発目のすべてを一気に射るのではなく、少しずつ展開した。
彼の動きを極力おさえ、残りの弾数でことを有利に運ぶには、これが有効だ。
「っ、こしゃくな!!」
六発目すべての矢を撃ち尽くす前に後ろへまわり、その背中に七、八発目を叩きこむ。
(これで決める!!)
「レンカ、カタナ!? なにやってるんだ!?」
左手を振り下ろそうとした瞬間、青年の狼狽した声が響く。
結界の中に、アンディが立っていた。
人払いの術は、術者に近い者には効かない。そもそも彼はまだ学校に行っているはず、なぜここに。一瞬だが、蓮華の思考は後れを取った。
「邪魔立てするな!!」
「アンディ逃げなさい!!」
「え?」
黒鬼の一振りが地面を割り、衝撃波がアンディに襲いかかる。
蓮華は二人のあいだに転移し、三発分の矢を一気に放った。
しかし剣風が起こした針の山は、千本以上の矢を受けても止まらない。
「く……!」
地面から突きでる槍は、もう目と鼻の先だ。
防御の厚い壁を二つおき、時間稼ぎを図った。機械で巨大な杭を打ちこむような、破壊の波音が壁に迫る。
(頼むから、もって……!!)
だが彼女の願い虚しく、防御結界が砕ける。
「っレンカ!!」
「――っ、くううううぅ……!!!」
左腕で彼を引き寄せ、結界を張った。すさまじい圧力が、身体全体に襲いかかる。
「これでどうだ!!」
再度、黒鬼の一撃が背中に直撃する。
それでも蓮華は耐えた。ここで打ち負ければ、アンディもやられてしまう。
「はあっ、はあっ、強情な、やつめ。まだ、倒れんか」
黒鬼の声に疲れがまじる。あちらも何発も強力な攻撃を放っており、体力が尽きかけているらしい。
「レ、レンカ……!」
「アンディ、けがは、ない?」
二波を凌ぎきり、腕の中のアンディに呼びかける。
「あ、ああ、だ、大丈夫だ」
「早くにげなさい。海堂クンたちがくるから、私のことはしんぱいしないで」
「レンカ!?」
彼が異常に気付く前に、局の近くに空間をつなげ、そこにアンディを押しだした。
明日の更新は16時50分、21時半となります。引き続きよろしくお願いいたします。




