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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
七章 黒鬼、覚醒
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8話 黒鬼と蒼鬼

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 黒鬼が首を掻く寸前、蒼鬼の主は落としかけた弓をつかみ、太刀を防いだ。そのまま反時計まわりに押し、絡みとろうとする。

「む……!?」

 この細腕のどこに、自分と(きっ)(こう)する力を持ちあわせているのか。それも先ほどの蹴りは、彼女が気絶してもおかしくない力をこめたのだ。

「なんなのだ、貴様は……!」

 これだけしぶとい人間が、かつていただろうか。

 純粋な力くらべならば、黒鬼が勝つ。これまでずっとそうだった。

 しかしそれを幾度となく跳ね返し、こちらの想像を超えて立ちはだかってくる。

「私は表に出ないつもりだったのだがな。仕方のない主だ」

 彼女の口から発せられた声に、少年の声が混じる。

「貴様……蒼鬼か!!」

「いかにも。こうして顔をあわせるのは、はじめてだな、黒鬼」

「今さらなにしに来た! 俺に殺されたやつらの敵討ちか?」

 蒼鬼は涼やかな顔でそうだな、とつぶやいた。(あお)るような笑みをたたえて。

「私は、こいつが好ましくてな。お前にくれてやるわけにはいかんのだ。無論、お前の主の命もな」

「俺の主だと!? はっ、こんな軟弱者、器としての価値以外ないわ!!」

 自分にとって、鬼の主など知ったことではない。彼らは鬼が生きるための、ただの器。(さつ)(りく)という欲を満たす、それだけの道具だ。

 前の器は必死に黒鬼を止めようとしたが、なんのすべも持っていなかった。

 今の器は、自分を恐れて逃げるだけ。

 どちらも不快な、ひ弱な人間だ。

 黒鬼は蒼鬼の弓を弾き返し、彼に向かって突進した。


「おおおおっ!!!」

 蒼鬼は黒鬼の上段からの一振りを弓で受け流す。決して受けとめない。動きを止めてしまえば純粋な力勝負になる。

 右腕を落とされただけではすまない、今度は斬り伏せられるだけだ。

「どうした、蒼鬼!! 逃げるだけか!?」

「逃げてはおらんよ。そいつに斬られたくないだけだ」

「それを逃げていると言うのだ!!」

「っとと、手厳しいな」

 頭の上を豪風がかすめる。

 さいわい、機動力では蓮峰蓮華という当代の主は、黒鬼より上だ。相手が予期せぬ動きをとらないかぎり、負けはしない。だが――。

(主、主っ!! 早く起きろ!! 私では奴に勝てんぞ!!)

 黒鬼の(しつ)(よう)な斬撃を躱しながら、気絶した主に呼びかける。

 負けは回避できても、勝つことは叶わない。

 数代にわたって戦ってきた因縁の相手だ。蒼鬼が使う手は黒鬼もよく知っている。

 既存の戦術を持たぬ、彼女でなければ勝てない。それが彼の結論だった。

(レンカっ!! 惰眠を貪るのは休みの日だけにしろ!! 今は寝てる場合ではない!!)

『――うるさいわね、起きたわよ』

 気怠い声が頭に響く。蒼鬼の声が届き、蓮華が目覚めたのだ。

(気が付いたか、よかった。主、やれるか?)

『黒鬼が次に斬りかかってきたら、受け流すタイミングで代わるわ。うまく距離をとれる?』

(承知した。それならば可能だ)

 蒼鬼は自身が生みだした弓を、前にかざした。黒鬼の姿が再び迫ってくる。

「蒼鬼っ、覚悟ォ!!!」

「ふんっ!!」

 振り下ろされる太刀を下から弾く。

 かちあった瞬間、小さな爆発が起きた。弓からの衝撃は黒鬼を大きく後退させ、自然と間合いが開いた。

 頭上に現れた無数の矢を黒鬼が視認した時、すでに蓮華は蒼鬼と入れ代わっていた。


次の更新は今日の21時半です。引き続きよろしくお願いいたします。

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