4話 避けられぬ道
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
「蓮峰君、受けてくれるだろうか」
蓮華が去った部屋の中で、新田が口を開いた。
「でなければ困ります。ここ一ヶ月、ただでさえ少ない局員が、あいついで殺されている。鬼の血を引く人間はまれ、中でも鬼の主である彼女は貴重な戦力です。隻腕であろうとなかろうと我々が管理、運用することで、この国の真の平穏は保たれるのです」
「しかし仮に黒鬼の主を使ったとして、はたして平穏はもたらされるものかね? 白沢君」
新田は鼻で笑い飛ばす。黒鬼の主の保護と運用は、ここにいない他の管理官たちとの話しあいの結果、多数決で決まっている。
だが、彼は反対票を投じていた。白沢の意見には理解を示してはいるものの、まったく賛同したわけではない。
「現在、局の任務遂行率は下降しています。これは局の存在意義を危うくするものです。この事態が誰によってもたらされたのか。責任を問われる覚悟は、おありですか? 新田管理官」
「っ、それは我々の責任ではない! 魔の活動が以前より活発だと、管理課からの報告を受けている!!」
「お二人とも、そこまで」
初老の男性が、新田と白沢のあいだに入った。
「ご両名の意見はごもっとも。しかしどちらにせよ、現場で動く者がいなければ、我々管理官はかたなしです。彼女がうまくやれば、黒鬼という戦力が加わることになる。だめであれば、局の全戦力をもって黒鬼を討ちはたすだけです」
「ふん。前ならともかく、片腕を失った彼女が受け入れるとは思えないがね、戸川君」
新田の悪態を背中で聞きながら、初老の管理官――戸川は窓の外を眺めた。ちょうど、蓮華を乗せた車が出ていくところだった。
「新田管理官。私は、蓮峰はやってくれると信じていますよ」
その車が見えなくなるまで、戸川は窓の景色を見続けていた。
「はぁ……」
『大変なことになったな、主』
車を降り、蓮華は大きなため息を吐いた。時間は二時間もかかっていないのだが、感覚としては半日以上捕まっていたに等しい。
「なに他人事みたいに言っているの。死ぬかもしれないのよ」
『大丈夫だ、お前はこれまでで一番、優秀な主だ。単純な黒鬼の奴に負けるものか』
からからと笑う蒼鬼が、この状況を楽しんでいるのは明らかだった。もし彼の実体があるならば、殴っているところだ。
「そんな風に言われても、嬉しくないんだけど……」
今日はもう大学に戻れそうにない。心が疲れてしまっている。
とりあえずは家に帰り、食事と入浴をすませたら、他には手をつけずにさっさと眠ってしまおう。ひょっとしたらこれは夢かもしれない、などと自分に言い聞かせる。
だがもし、これが現実ならば。
蓮華は携帯に登録していた番号に電話をかけた。
「もしもし、海堂クン? ……久しぶり。調べてもらいたいことがあるんだけど。――ええ、そう。できれば明日か明後日までに。……急ですまないわね。よろしく」
知人への通話を切り、スマートフォンをバッグの中に適当に放りこむ。
そうして顔を上げたところで、たたずんでいる一人の男に気付いた。
「海堂クン?」




