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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
七章 黒鬼、覚醒
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3話 来たる運命

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 鈴の音が幾重にも響き、刀は身を起こした。蓮華が結界を張っていたに違いない。それが音を発している。

(まさか、こないだの魔……?)

 パーカーを羽織り、フードを目深に被る。ここにやってくるのは時間の問題だ。刀はベッドのかたわらにかけていたロッドケースを、杖代わりに立ち上がった。

(立ちくらみは、なし。やれる)

 腹の傷が少し引きつるが、痛みは気にならない程度だ。

 この異常には蓮華も気付いているだろう、それまでは持ちこたえる。体力の限界は二十分だが、これだけの時間があれば、彼女もまにあうはずだ。

 静かに玄関の鍵を開け、外に出る。都心のどのあたりかは分からないが、マンションの一室に匿われていたようだ。

 身をかがめ、そっと眼下をのぞく。

「……っ!」

 蓮華の姿が見えた。結界が鳴動しているにも関わらず、急ぐそぶりはない。

 いくらなんでも戻ってくるのが早すぎる。おそらく、彼女は蓮華ではない。魔だ。

 マンションの階段を少しずつ降り、その都度、下の様子をうかがった。

 蓮華はまっすぐ、刀のいるマンションへ向かってくる。

(……よし、行くぞ)

 物陰から出て、ロッドケースの仕込み刀を引き抜く。体力が落ちているせいか、重たく感じられた。

 しかしそれでも、刀はこれまでどおり雑念を削ぎ落とし、目の前の敵に集中する。相棒の姿を模した、暗殺者に。

「蓮華、じゃないよね」

 蓮華は答えない。黙したまま、右手を振りあげた。

「分かった。じゃあ、やられるわけにはいかない」

 右手から放たれた気の刃が、アスファルトを切り裂いていく。

 刀も魔に向かって、打刀を振り下ろした。

 アスファルトには二つの深い爪痕が刻まれたが、二人は位置を変え、それぞれ回避した。

「はあっ!!」

 周りの被害を考え、力を加減する余裕はない。刀は空間を三度()ぎ払った。

 降りそそぐガラスの破片のような、細かな刃が魔に襲いかかる。

 しかし、魔はそのあいだを()い、刀との距離を一気に詰めた。

「なっ!?」

 金属音が鼓膜を大きく震わせる。とっさにかまえた打刀に蓮華の手、いや、一振(ひとふり)の大剣が火花を散らした。

「くっ!」

 腕と一体となったその剣を、魔は容赦なく振り下ろす。

「こ、の……っ!」

 一撃一撃、ハンマーで鉄板を叩くようなすさまじい衝撃が全身に伝わった。刀の身体は、さながらボディブローを受けるサンドバッグだ。治りかけの傷が、じわりじわりと痛みを訴える。

「づっ!?」

 剣を完全に受け流しきれず、身体が後ろに下がる。

 バランスを崩した瞬間を、魔は逃さなかった。蹴りが刀の腹部に吸いこまれる。

「ぐ……っ!! あ――」

 軌道は読めても、身体が思いどおりに動かなかった。膝が勝手に折れ、前に倒れこむ。

 得物を杖代わりに立ち上がろうとしたが、魔の姿は目の前にあった。

「――!?」

 背中を足で押さえつけられ、息が詰まる。地面へめりこまんばかりに(にじ)られる。

「うぐ……っ!」

 心臓がどくんと激しく跳ねた。腹部に生暖かいものが伝わってくる。今ので傷口が完全に開いたのは間違いない。

「は、あ――ッ」

 再び脈打つ心臓に、身体が(けい)(れん)する。柄からずるりと手がはなれ、刀にもはや抵抗する力はなかった。

(蓮華……ごめん。あたし、ここまで、みたい)

 魔の巨大な剣が振り下ろされる瞬間、目を閉じる。

 しかし、最期の時は訪れなかった。なにかが突き刺さる音が、頭上に響く。

(……え?)

 剣を振りかざした魔の腕には、蒼白い光の(やじり)がのぞいていた。後ろから誰かに撃たれたのだ。

 二本は左胸、もう一本は頭を。そのどれもが貫通している。

「散りなさい」

 魔は後ろに振り返ろうとしたが、遅かった。

 矢は帯びていた光を膨張させた。光は内から外へ、魔の身体を粉々に吹き飛ばす。

 魔は蓮華の模倣を維持できず、真っ赤な泥を散らしながら(とっ)(かん)する。

 十本もの矢が、胴と足だった箇所に次々と突き刺さり、魔を内側より破壊していく。

「――――ッ!!!」

 再生する肉体を食い破られた魔は、断末魔の叫びを上げ、あとかたもなく消えた。塵となった身体が風にさらわれ、崩れ去っていく。

(たす……かっ、た?)

 刀は視線を動かし、魔を打ち破った誰かを見た。

 すらりと伸びた長身をスーツに包んだ、金色の長い髪に白い肌の女性。手には蒼白く光る長弓があった。

 そして遠目からでも分かるほど、その瞳には蒼い光が宿っている。

「あ――」

 魔性の瞳が、刀を射抜く。息が止まりそうなほど、心臓がひどく弾んだ。

 あの目を見てはいけない。そう思っても、視線を逸らすことができなかった。まるで他人に操られているように。

「あっ、ぐぅっ……!!」

 身体が熱い。他の音が聞こえないほど、鼓動は次第に強く激しくなっていく。

「カタナっ!」

 異常を察した蓮華が近付いてくる。だめだ。このままでは、彼女が危ない。

「れんか……っ、にげ、て――ッ!!」

 心臓の鼓動が、激痛に変わる。刀の意識は、それきり落ちた。


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