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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
七章 黒鬼、覚醒
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2話 迫り来る者

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 翌朝、蓮華は必要最低限の会話だけかわし――包帯を替えるとかいつ戻る、など――、出ていった。

 昨日の話の続きをする空気ではなかった。だまっている彼女は無表情で、まだ怒りが治まっていない様子に思えた。

「はぁ……参ったな」

 今朝も、あの夢に蓮華が現れた。やはり斬り殺される瞬間に目覚めたので、最悪の場面は見ずにすんだのではあるが。

(あたし……どうなっちゃうんだろう)

 不安に頭を抱えた刀の耳に、部屋のドアを叩く音が聞こえた。

「……はい? 誰、ですか?」

「カタナ! 俺だよ、俺!」

 ドアを開けて入ってきたのは、学生服を着たアンディだった。

「アンディ! 久しぶり!」

 負傷して以来、彼には一度も会っていない。二週間ぶりの再会だった。

 アンディは子犬のようにさっと駆け寄り、ベッドのかたわらに腰を下ろした。

「ひどいケガしたってレンカや親父から聞いて、ずっと心配してたんだ。俺も看病に行くって言ったんだけど止められてて……」

「アンディは学生だもんね、それは仕方ないよ」

「あ、いや、まあ、それも理由の一つなんだけど――」

「?」

 顔を赤らめるアンディに、刀は首をかしげた。なにを恥ずかしがっているのだろう。彼は膝の上で、両掌をつけたりはなしたりを繰り返す。

「その……か、カタナは、ケガ人で、女の人で、俺には、ええと、いろんな意味で刺激が強いって……」

「あ、そ、そういうことか。心配してくれただけで、あたしは嬉しいよ。来てくれてありがとう、アンディ」

 思えば、包帯を替えるのは蓮華の役目だった。

 アドルフがやってくれる時もあったが、なるべく肌を見る相手が異性ではないよう、蓮華が気を遣ったのだろう。アンディにとっては複雑な気持ちだったかもしれない。

「今日は、学校終わったの?」

「いや。カタナに会いたくて、早退してきた。レンカには場所を聞いてたし、手伝えることがないかなと思ってさ。なにか食べたいものとかあったら作るよ」

「……ありがとう。アンディに会えただけで、あたしは十分だよ」

「ええ? 大げさだなー」

 それは、決して()(ちょう)ではなかった。

 近しい人たちと会話をかわすだけで、悩みは薄れた。彼らの優しさが、安らぎを運んでくれた。

 黒鬼にこの身体を乗っとられたら、こうして彼らと話すことはできなくなる。

 その前に、しばらく会っていなかったアンディと話せた。刀にはもう、それだけで十分だった。

「大げさなんかじゃないよ。それに、まだあんまり食欲なくてさ。お(かゆ)くらいしか口に入んないし、気にしないで」

「お粥かあ。じゃあ、たまご雑炊はどうだ? ケガ治すには、体力つけなきゃ」

「あ……うん。お願いするよ」

 作らせてほしい、とアンディの顔には書いてある。せっかく来てくれた彼の申し出を、無下にするのも忍びない。

「オッケー! じゃあ買い物行ってくるから、待っててくれよ!」

 アンディは親指を力強くぐっと立て、慌ただしく部屋を出ていった。急ぎすぎて、つまずかなければいいが。

「それじゃ、()(なが)に待ちますか……」

 刀は半身を、再びベッドに沈めた。こうして身体を起こしていられるのも、長くて二十分が限界だ。アンディの言うとおり、体力はつけなければ。

 しかし怪我が癒えてしまったあと、自分がどうなるのか。刀には見当もつかなかった。



 逃した獲物を追いはじめてから、十四度目の陽が昇っている。

 同胞たちに依頼された件の重大さは、()(がれ)こと、()(さつ)も認識していた。十殺とて、この人間界で糧を得ている。自分たちの勢力を脅かす人間の存在は、排除せねばならない。

 標的の血の匂いは覚えている。どこに隠れても、見つける自信があった。のだが、それを巧妙に隠しているらしい、黒鬼の主はまだ見つからなかった。この日、とある男を見かけるまでは。

 その男は金髪の青年だった。彼からは、蒼鬼の主の匂いがほのかに感じられた。

 蒼鬼の主は、黒鬼の主と行動を共にしているはず。ならば彼を尾けていけば、おのずと居場所も分かる。

 もし護衛もなく床に()せっているのであれば、首を掻く最大の好機だ。

 しかし青年を追う先には、蒼白い線が何本も張りめぐらせてあった。

 侵入を察知するための結界だ。これを越えれば、間違いなく気付かれてしまう。

 十殺はすぐにでも追いかけたいという、自分の衝動に堪えた。

 おそらく、彼はまたここに戻ってくる。その足どりを頼りに、居場所を突きとめればよい。

 暗殺は衝動で行っては失敗する。まぐれでうまくいっても、それはただの殺し。

 武器を研ぎ、根気よく機を待ち、実行し、成功させる行為こそが暗殺だ。十殺はそれをよくわきまえていた。

 はたして、青年は結界の中から足早に出てきた。

 蒼鬼の主と会ったならば、その匂いが濃くなっているはずだが、それはなさそうだ。逆に、黒鬼の主の匂いが強くなっていた。

 間違いない。目標は今、独りだ。

 青年の姿が見えなくなり、ついに十殺は索敵の網にふれた。



明日は16時50分、21時半の更新となります。引き続きよろしくお願いいたします。

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