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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
六章 たそがれにさく
44/68

11話 所有権

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

「蓮峰君、黒鬼の主が魔にやられた件についてだが、退魔二課の人間にも多数の死傷者が出ている。それについて説明を求めたい」

 退魔一課長の()()(たすく)が、口を開く。

 白沢から待機を命じられて早六日、蓮華は再び局に呼びだされていた。

 彼は一体、なにを聞きたいのか。発言の意図が読めず、(いぶか)しむ。彼らが知りたい情報は、すべて報告書に記載し、提出ずみだ。

「報告書のとおりです。あの場になぜ二課の人間がいたのか、というご質問でしたら、ここにおられる二課の方々にお(たず)ねになったほうが建設的でしょう」

「そういう話ではない。彼らの傷は皆、鋭利な刃物で斬り裂かれたことによるものだ。生き残った一人――(まき)君とかいったか。彼は、楠木君が襲いかかってきたと証言している!」

 一人だけ息のあった二課の人間、どうやら助かったらしい。

 もっとも、目撃者がいてもいなくても、課長は説明を求める気であったろう。

「相手は一級の魔、〝誰そ彼〟です。奴は楠木さんの姿をそっくりコピーしていましたから、彼らもそれにやられたとみて間違いないかと。おそらく、彼女を襲った時は私の姿を()していたはずです。奴に闇討ちされた例は複数件発生していると、近藤主任から聞いております」

「彼の証言を疑うのかね? 彼女が二課の者と戦って傷を負ったとも考えられるが」

「二課が彼女の殺害を命じられていたならば、そういうこともあるかもしれません。ただ、一課と二課の実力差を(かんが)みれば、誰も自分から死にに行かないでしょう」

 二課の上司たちが、不愉快そうな顔をする。が、ここはよく思われなくとも実状を説明すべきなのだ。

 一課と二課では、そもそも鬼の力の差が大きい。総合的な戦闘能力においてもだ。

 そのことは二課の連中は百も承知。それが分かった上で、あえて刀を襲うとは考えにくい。

「また、やはり黒鬼の(かく)(せい)は見受けられませんでした。彼女が暴走して斬りかかった可能性はゼロです」

 目の見えない刀が襲いかかってきた件については、報告書からは外してある。二課の人間がその場にいなかったことは、不幸中のさいわいだった。

「どちらにせよ、君が監視を(おこた)った分、楠木君の事情聴取を行う必要がある。彼女を連れてきたまえ」

「無理です。彼女は意識不明の重体、話ができる状態では」

「ならば意識が戻ったら、すぐ我々に引きわたしてもらいたい」

 やはりそうきたか、と蓮華はジャケットの内ポケットに手を伸ばした。保険に取ったものだが、早くも使う機会が訪れるとは思っていなかった。

「この署名をお忘れですか、日野課長。楠木刀の監視および処分判断を()(にん)する――貴方がたは彼女の処分に困って、引退同然の私にまかせたのではないですか。貴方のおっしゃりようは、自分たちが彼女の処分検討をすると言ったも同義です」

「課長に向かって無礼だぞ蓮峰君!!」

 日野の腰巾着、新田管理官が立ち上がって抗議する。

 この際、(あお)るだけ煽ってやろう。蓮華は心の中で笑った。口だけしかはさめない連中に、刀をわたしてなるものか。

「そちらがお望みであれば、私は今すぐ局を辞めても構いません。もっとも、彼女を御す人員がいれば、の話ですが」

 誰もが、それに応えられなかった。

 彼らは黒鬼の力を恐れながら、なおその力を自分たちの下で使役したいという気持ちを隠しきれていない。

 白沢の提案が、よほど彼らの欲に火を点けたのだろう。決断力の鈍った上層部など、蓮華の敵ではなかった。

「話ができる状態まで安定すれば、私が彼女を尋問し、ご報告します。音声データも提出しましょう。重傷人を無闇に動かしてはことですから」

「……課長、今は蓮峰さんの提案を入れましょう。黒鬼は我々の切り札、こちらから刺激をあたえるのは極力避けるべきです」

「同感です。怪我が悪化して死なれては、元も子もありませんからな」

 白沢と戸川が、沈黙を破った。課長と蓮華のあいだに立ち、たがいに冷静になるよううながす。

「分かった、もういい。蓮峰君、下がりたまえ」

 あっちへ行け、と右手首を返される。

 まだいくらでも〝口撃(こうげき)〟できたが、ここは、白沢たちの援護を受け取るほうが賢明だ。

 蓮華は黙したまま頭を下げ、部屋を退出した。



明日の更新も3話分あります。10時、19時半、21時半の予定です。引き続きよろしくお願いいたします。

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