10話 目覚めの足音
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
◇
いつのまにか、刀は暗闇の中に立っていた。目をこらしても、先がよく見通せない。鬱蒼とした森に迷いこんだようだ。
(ここ、どこ……?)
鎧のこすれるかすかな音が耳に届く。
背中に右手を伸ばしたが、あるはずの武器がない。
漆黒の空間に、金色の光が灯った。まるで獲物を狩る、肉食獣の眼光。
そしてそれよりも妖しく、鈍色を映す太刀。
「ふううううぅぅ……」
「ひっ!」
威嚇するように長く吐く息が聞こえ、刀は走りだした。
あれは自分を殺そうとしている。早く助けを求めなければ命はない。
背中に殺気が迫る。止まったら最後、その冷気にあてられて凍ってしまう。声を上げていなかったら、おそらく身体はあのまま固まっていただろう。
それなのにどうして、前に進まない。
無我夢中で足を動かしているのに、あれとの距離はまるで広がらない。
「誰か、助けて!!」
荒い呼吸の中、刀は必死で叫んだ。この空間のどこかで、誰かが声を聞きつけるかもしれない。小さな希望にすがるしかなかった。
だが、誰も応えない。鎧の足音は、もう五メートルも後ろにまで近付いている。
「あっ!!」
足がもつれ、刀はその場に転んだ。目の前のそれが、刃を振り下ろした。
「……っ!!?」
跳ね起きた、というのは幻想で、身体はうんともすんとも言わなかった。
全身が熱く、重たい。息苦しさもある。視界は白い靄がかかっていて、よく見えない。
(いまの、は……ゆめ?)
はっきり覚えていないが、刃物を持った何者かに追いかけられる夢だった。自分が生きていることに、胸をなで下ろす。
「――っ! ぐ……」
意識を取り戻したとたん、腹部の痛みが断片的な記憶を引き起こした。
(そうだ。あたしは、たしか、れんかと……だいがくに、いって。それから、れんかにきられて――そのあと、そのあと、は……)
激痛がそれ以上の思考を妨げる。
意識を失う直前のことは思いだせないが、とにかく助けられたのだ。
相棒を探すために身を起こそうと試みる。しかしほんの少し肩を動かすのが精一杯で、起き上がれそうにない。
(ここ……どこ、なんだろ)
ぼやけた視界には、うっすら天井が見える。腕にはなにか管が刺さっているが、点滴だろうか。
きっとここは病院だ。蓮華が運びこんでくれたのだろう。
「……っ」
ふと、光が差しこんだ。ドアが開き、誰かが慌てて入ってくる。
「お、おう……! 気が付いたのか!」
「……ぁ、どる、ふ、さ?」
聞き慣れた声。いつもは陽気なアドルフの声に、今日は元気がない。
刀はいつもどおりに応えたつもりだったが、かすれた小さな声しか出なかった。
「ああ……よかった。もう目ェ覚まさないかと思ったぜ」
「……どの、らい。あたし……」
「あれから一週間だ。よく頑張ったな」
優しく、アドルフが頭をなでた。なんだかほっとする。父親とはこんな感じなのだろうか、と刀は胡乱げな頭で思った。
「れん……かは……?」
「あいつなら局に出てる。夕方には戻ってくるから、もう少し休んでろ」
額に張りついた前髪を払われ、冷たいタオルがあてられた。熱の不快感が、ほんの少しだけ和らぐ。
刀はそのまま、まぶたの重さにまかせて目を閉じた。
次の更新は今夜21時半です。引き続きよろしくお願いいたします。




