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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
六章 たそがれにさく
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10話 目覚めの足音

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 いつのまにか、刀は暗闇の中に立っていた。目をこらしても、先がよく見通せない。(うつ)(そう)とした森に迷いこんだようだ。

(ここ、どこ……?)

 (よろい)のこすれるかすかな音が耳に届く。

 背中に右手を伸ばしたが、あるはずの武器がない。

 漆黒の空間に、金色の光が灯った。まるで獲物を狩る、肉食獣の眼光。

 そしてそれよりも妖しく、(にび)(いろ)を映す太刀。

「ふううううぅぅ……」

「ひっ!」

 威嚇するように長く吐く息が聞こえ、刀は走りだした。

 あれは自分を殺そうとしている。早く助けを求めなければ命はない。

 背中に殺気が迫る。止まったら最後、その冷気にあてられて凍ってしまう。声を上げていなかったら、おそらく身体はあのまま固まっていただろう。

 それなのにどうして、前に進まない。

 無我夢中で足を動かしているのに、あれとの距離はまるで広がらない。

「誰か、助けて!!」

 荒い呼吸の中、刀は必死で叫んだ。この空間のどこかで、誰かが声を聞きつけるかもしれない。小さな希望にすがるしかなかった。

 だが、誰も応えない。鎧の足音は、もう五メートルも後ろにまで近付いている。

「あっ!!」

 足がもつれ、刀はその場に転んだ。目の前のそれが、刃を振り下ろした。


「……っ!!?」

 跳ね起きた、というのは幻想で、身体はうんともすんとも言わなかった。

 全身が熱く、重たい。息苦しさもある。視界は白い(もや)がかかっていて、よく見えない。

(いまの、は……ゆめ?)

 はっきり覚えていないが、刃物を持った何者かに追いかけられる夢だった。自分が生きていることに、胸をなで下ろす。

「――っ! ぐ……」

 意識を取り戻したとたん、腹部の痛みが断片的な記憶を引き起こした。

(そうだ。あたしは、たしか、れんかと……だいがくに、いって。それから、れんかにきられて――そのあと、そのあと、は……)

 激痛がそれ以上の思考を(さまた)げる。

 意識を失う直前のことは思いだせないが、とにかく助けられたのだ。

 相棒を探すために身を起こそうと試みる。しかしほんの少し肩を動かすのが精一杯で、起き上がれそうにない。

(ここ……どこ、なんだろ)

 ぼやけた視界には、うっすら天井が見える。腕にはなにか管が刺さっているが、点滴だろうか。

 きっとここは病院だ。蓮華が運びこんでくれたのだろう。

「……っ」

 ふと、光が差しこんだ。ドアが開き、誰かが慌てて入ってくる。

「お、おう……! 気が付いたのか!」

「……ぁ、どる、ふ、さ?」

 聞き慣れた声。いつもは陽気なアドルフの声に、今日は元気がない。

 刀はいつもどおりに応えたつもりだったが、かすれた小さな声しか出なかった。

「ああ……よかった。もう目ェ覚まさないかと思ったぜ」

「……どの、らい。あたし……」

「あれから一週間だ。よく頑張ったな」

 優しく、アドルフが頭をなでた。なんだかほっとする。父親とはこんな感じなのだろうか、と刀は()(ろん)げな頭で思った。

「れん……かは……?」

「あいつなら局に出てる。夕方には戻ってくるから、もう少し休んでろ」

 額に張りついた前髪を払われ、冷たいタオルがあてられた。熱の不快感が、ほんの少しだけ和らぐ。

 刀はそのまま、まぶたの重さにまかせて目を閉じた。



次の更新は今夜21時半です。引き続きよろしくお願いいたします。

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