8話 叱責
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
◇
「まったくなにをやってるんだね君はッ!! なんのための監視だ!!」
新田の大音声が管理官室に響く。
「……私の失態です。申し訳ありません」
一夜明けて、蓮華は昨夕の事件を白沢、戸川、新田の三管理官に報告した。
「楠木君に甘いと思っていたが、監視を怠るなど言語道断だぞ!! ことの重大さが分かっているのかね!?」
新田の非難は、甘んじて受けるしかなかった。
その場をはなれていたせいで、刀や二課の人間が被害に遭った。特に、三チームで構成されていた二課の監視班は、十四名が命を落とした。残る一人も重傷だ。これに言い逃れはできない。
「蓮峰さん。新田管理官のおっしゃるとおり、この一件は貴女に責任があるでしょう」
白沢は胸の前で腕を組んだ。さすがに監視役はクビかもしれない。彼女がどう腕を買っていたかは知らないが、今回の失敗で信用が下がったのは確実だ。
「ですが、今回は不問に処します。今後はよりいっそう、責務をまっとうするよう励んでください。監視が困難の場合は、鉄鬼の主にまかせるように」
「え……」
白沢を除く全員が、その処置に驚かされた。部屋ごと時間が止まったかのような衝撃だった。
「白沢君!! それでは皆に示しがつかないではないか!! 二課の人間が十五人もやられたのだぞ!?」
「彼女は優秀な局員です。想定される黒鬼との戦い、代わりが務まる人間は鉄鬼の主だけ。しかし彼には彼の任務がある。一時の代役は務められても、常に役を負うことは難しい。これは黒鬼の運用を決めた時に確認したはずです、新田管理官」
白沢の冷ややかな目が、新田を射すくめる。
「彼女は自身の失態を包み隠さず話した。つまり事実を認め、責を担う覚悟を示しています。これ以上、我々が追及する必要はない」
「うぐっ……! し、しかしだね!!」
「局の者としてより自覚を持ち、任をまっとうする。それが蓮峰に課せられた使命、ですな」
ことの次第を見守っていた戸川が、新田の反論をさえぎる。白沢は小さくうなずいた。
「だそうだ。蓮峰、今後ともよろしく頼むぞ」
「はい。寛大な処置に感謝します」
心の中で安堵の息を漏らす。白沢の思惑がどうであれ、ここで監視役を外されてしまえば、刀の命は完全に局の握るところとなってしまう。
新田らがはじめに唱えた、黒鬼の覚醒前に刀の命を奪う案。それが実行される恐れは十分にあった。
「ところで蓮峰、楠木は」
「……意識不明の重体です。助かるかどうかは、まだ」
本当は報告など後まわしにして、刀の治療に専念したかったのだが、そういうわけにもいかなかった。容態が急変していなければいいのだが。
「彼女がどこにいるのか、教えていただきたいのですが」
「……カタナを狙った一級の魔は〝誰そ彼〟です。局員に扮し、彼女の行方を追っているかもしれませんので、安全なところに、とだけ申し上げておきます」
白沢の問いに、言葉を濁した。報告に嘘はない。刀が弱っている今、魔がとどめを刺しに再び襲ってくる可能性はある。
しかしそれ以上に、蓮華は管理局を信用できなかった。
「蓮峰さん。我々が、彼女をこのまま殺すとでも思っておられませんか?」
「――そんなことを考える輩がいるんですか?」
彼女は声音を低く、静かに訊ねた。三人の管理官の反応は予想どおりのもので、新田だけは顔が青く、必死に口元の震えを隠していた。
「いえ、貴女がそう思いこんでいるのでは、と感じただけです。黒鬼の主が目覚めるまで、待機を命じます。下がってよろしい」
管理官室を出たとたん、肩に重みがのしかかった。昨日は一睡もしていない。疲労も溜まっているが、弱音は吐いていられない。
「お疲れさん、蓮峰。昨日は大変だったな」
「近藤クン……。昨日はありがと。海堂クンも呼んでくれたから助かったわ」
「なに、困った時はおたがいさまだろ。頼ってくれて嬉しいよ」
近藤は周りの目がないか左右を見わたし、そっと訊ねた。
「それで、彼女は」
彼の問いに、応えられない。局に向かう直前まで、治癒の術を掛け続けていたが、好転の兆しが見られなかったのだ。
「そうか……。もし俺に手伝えることがあったら連絡してくれ。力になる」
「ありがとう、近藤クン。それじゃ」
蓮華はそばに設置された非常階段のドアノブをつかみ、鬼の力を解放した。
明日の更新は3話分あります。10時、19時半、21時半の予定です。どうぞよろしくお願いいたします。




