表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
六章 たそがれにさく
40/68

7話 拍動

 息を長く吐きながら、刀は周りの音に耳をかたむけていた。出血が止まらないため、視界はぼんやりしたものしか映らない。どれだけの時間が経っているのかも、今の刀には判断できなかった。

「――っ!」

 どくんと心臓が跳ねた。蒼鬼と顔をあわせた時と、同じ痛みが胸を差す。

 こつん、こつんと廊下に足音が響く。ゆったりとした足どりで、人気を失ったこの構内を誰かが歩いている。考えうるのは相棒か、その姿を模した魔。

「っ!! ……ぁ」

 再び、胸が激しく(はく)(どう)した。講義室のドアが開き、足音の主が入る。やはりなにか探しているのか、部屋の中をゆっくり確認している。

(ここで倒さなきゃ、今度こそ、やられる)

 胸の痛みは治まるどころか、脈打つ速さと共に、強くなる一方だった。傷よりもずっと、鮮烈な激痛。いずれは意識を失うだろう。

 痛みの原因は間違いなく、この何者かだ。茶色の呪符を取りだし、身体に貼りつける。

 足音がはっきり聴きとれる距離になったのを合図に、刀は教卓の裏から飛びだした。


「!!」

 白銀の光が矢のように飛びこむ。蓮華は身をひねり、後方に転回した。が、その着地を狙われた。何者かの影が目の前に迫る。

「っ!!」

 防御結界を張るひまもなく、とっさに右の義手で受けた。

 ぎぎっ、と鈍い金属音が響く。日本刀のような刃物が、腕を断とうとしていた。

 蓮華は左足を踏みだし、力まかせに右腕を振り抜いた。相手は弾かれた勢いで数歩下がったが、即座に立て直し、再び突撃した。

 相手の動きを止めようとかまえた、蓮華の前から気配が消える。いや、その頭上。空中から殺意が降ってくる。

『レンカ!!』

「ちっ!」

 蒼鬼の警告に、意識を瞬時に(しぼ)る。机が所狭しと設置されたここでは、避けるのも困難だ。空間を転移、必殺の剣を(かわ)す。

 空振りに終わった奇襲は、直前までいた場所をずたずたに裂く。悔しそうに、相手が歯をきしませる。

 襲撃者は三度目の突撃を敢行、袈裟(けさ)に刃を振り下ろした。

 甲高い風の音と共に、机が切り刻まれる。

 机の断末魔と破片が(おうぎ)状に広がりながら、鋭利な刃物と化して蓮華を襲った。術でそれを防ぐものの、これでは前に出られない。

「くぅ……っ!」

(この強さ……まさか、黒鬼!?)

 さらにもう一振り、先よりも威力の強い一撃が加えられた。右腕がきしむ。後ろに追い詰められれば、下手に空間転移を使うのは危険だ。狭い場所では転移先を読まれやすい。

 結界を断ち切ろうと、三撃目の刃が弧を描く。そのまま首を刈らんばかりに。

 講義室全体が剣気を受けて()える。ぴしり、と防御の要にヒビが入り、蓮華は叫んだ。

「カタナ! 私よ!! 分からないの!?」

「っ!!」

 相手の動きが止まる。蓮華もそれにあわせて結界を解いた。これ以上、あちらを刺激する必要はない。

「……れん、か?」

 か細い声。いつもの元気は失われているが、聞き覚えのある声だ。

「ええ。蓮峰蓮華よ、貴女の相棒の」

「……」

 がちゃん、となにかが床に落ちる。相手が手に持っていた打刀が、抜け落ちた音だった。

「カタナ!!」

 蓮華の声を聞いて安心したのか、刀は糸が切れたように倒れた。

 すぐさま身を助け起こす。左手がぬるりと滑った。

「カタナ、貴女――」

「……っ、は。ごめ……ん。め、よく、みえなく、て。てき、かと。けが、しなかっ、た?」

「バカ、話さないで。なんて無茶をしたの」

 刀がほどこした応急処置の上から、強く傷口を縛る。海堂からもらった治癒の呪符も、血を吸いこみ、元の色がどんなものだったか思いだせない。

 多量出血に加え、今の一連の動き。重傷の身でできる限界はとっくに超えている。

「てき、まだ、ぃるかも……。きを、づけ、っ!!」

 刀は血を吐いた。内臓まで達する怪我だ。鬼の力が覚醒しているならばまだしも、彼女の肉体はほとんど一般人と同じ。このままでは命を落としかねない。 

「カタナ! しっかりして!」

 大出血を起こしている箇所に治癒の術を掛けながら、耳元に叫ぶ。だが、その声に刀が応えることはなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ