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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
一章 蠢動する闇、日常の終わり
4/21

3話 ある鬼の兆し

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

「……完全な覚醒ではない、とはどういうことですか」

「一度、力の(けん)(げん)を見ましたが、それ()(こう)(かく)(にん)されていません。つまり、黒鬼からは鬼の主とは認められていない。しかしながら、その際に無関係の一般人を斬殺しています。黒鬼がこの者の身体を乗っとり、(さつ)(りく)を行う恐れは十二分にある。過去存在した黒鬼の主は、(めい)(れき)の大火をまねいています。これは黒鬼が主の肉体を奪った結果です」

 白沢の声は淡々(たんたん)としたものだったが、蓮華は言葉を失った。そんな救いのない化け物が、復活しようとしている。

 明暦の大火は、江戸時代に起きた大火事だ。二日間にわたった火事は、江戸の街はもちろん、江戸城の天守閣さえ焼きつくした。今、東京に同じ大火が発生すれば、予想される被害は過去の比ではない。

「完全な覚醒の前に、主候補を内々(ないない)に処理する方法も考えられました。しかし、魔のモノの勢力は苛烈(かれつ)さを増しています。黒鬼が我々の管理下に入れば、魔への有効な一打となります。蓮峰さん、貴女には、黒鬼の監視と制御をお願いしたいのです」

(涼しい顔で難しい注文するわね……この管理官)

 過去の実態を()(あく)していながら、なお理想を追い求める。いかにも若い上司が考えそうなことだった。

「私は現実的でないと思うし、処分は早いほうがいいと言ったんだがね、確かにその点も捨てきれない……」

「右に同じく」

 これまでだまっていたもう一人の男性も、新田に続いてうなずく。

 蓮華の休職以前、退魔一課は新田が力を振るっていた。一年のあいだに、うら若き管理官が主導権を握るなど、誰も予想がつくまい。

 しかし、彼女は首を縦に振らなかった。いや、振れない理由があった。

「なぜ、私なのでしょう。私以外にも適任は――、鬼の主はいます。こんな、片腕の人間では」

 蓮華は右の二の腕を、精一杯の力をこめて動かした。シャツの(そで)は、一定の場所からだらりと()れ、小さく()れている。

 彼女の右腕は、二の腕から下がなかった。

「黒鬼と対した記憶を多く持つ蒼鬼、その主であり、誰よりも鬼の力をうまく操るのは貴女しかいません。他の主にはそれぞれに任務があり、さらに負担は難しい。無理を承知でお願いしたいのです」

「復学した場合の学資金等、できることはこちらで援助する。引き受けてもらえないか」

「蓮峰君。我々、いや、この国のためにも、頼む……!」

 三人がそろって頭を下げる。

「……少し、考えさせてください」

 そう言ったものの、逃げ道がないことは分かっていた。鬼の主である以上、彼女ははじめから、拒否権を持っていないに等しかった。


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