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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
五章 楠木刀という人
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7話 再びの戦

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

「……とまあ、こんな感じで。ご心配おかけしました」

 管理局へ向かう道すがら、刀は蓮華にことの(てん)(まつ)を話した。

 本人の名誉もあるので、彼女が苦労した話はだまっておいた。なにも考えずに口に出してしまったら、無実のアドルフに拳が飛びそうだ。

「本当に、意識を変えただけなのね。驚きを通りこしてあきれるレベルだわ」

「それは、ハイ、おっしゃるとおりだと思イマス……」

 あんなに悩んでいたのが馬鹿みたいだ。蓮華の顔にはそう書かれていた。

「ただ、これで少しは蓮華に迷惑かける部分は減ったでしょ」

「それは否定しないけど。先生にまた水を空けられたから、正直複雑ね」

「そ、そんなことないって! ほっ、ほら! 適材適所ってやつ!! 魔とか鬼の力とか、アドルフさんには対応できないのもあるし、ねっ?」

 悔しそうに(うめ)く蓮華の背中に、一瞬負のオーラが見えた。フォローしなければ、アドルフに危険が迫ってしまう。

 刀が早口でまくし立てたからか、彼女は(いぶか)しんだ表情を浮かべた。が、自分に言い聞かせるように、分かっている、とうなずいた。

「なるべく、先生には関わってほしくないから。それだけ」

「……ん、そっか。そうだよね」

 新たな格闘術を確立したアドルフだが、鬼の力を持たない一般人だ。

 信頼できる人間とはいっても、管理局の深い部分まで見せてしまっては、後戻りができなくなる。蓮華はそれを恐れているのだ。

 刀にとっても、それは避けたい。

「あたしも、そう思うよ。蓮華にこうしてサポートしてもらってるのも、早くなんとかしたいし、アドルフさんたちに迷惑かからないようになり――」

 刀の背中の筋肉が、ぴりりと強張(こわば)った。蓮華もなんらかの気配を感じとったらしい、小さくうなずいた。

「……いるね、後ろ」

「ええ。気配を隠さないところを見ると、ここをなわばりにさだめた魔か」

 殺意は徐々に近付いている。

「三秒。数えたら左右に散るわよ。(けん)(せい)は私がやる。貴女はその(すき)に奴を倒しなさい」

「了解」

「行くわよ。一……、二、今っ!!」

 気配が急接近するのにあわせて、二人は左右に分かれた。

 そのあいだを、瞬時に黒い風が駆け抜けた。

 渾身(こんしん)の一撃を(かわ)された魔が、壁につっこんでいた。しかし、すぐさま壁を壊して体勢を立て直す。

「な、なに、こいつ……」

 見た目は虎かヒョウに近い漆黒の身体だが、図体はそれの二、三倍はあろうか。()()には(えい)()な爪を持ち、全身には小札(こざね)の鱗。

 目は赤々と光り、刀たちを獲物と見定めている。

鎧虎(がいこ)、三級の魔よ!」

 蓮華は鬼の力で編みだしたらしい()(きゅう)を手にしていた。

 彼女は数発を矢継ぎ早に放ったが、鎧虎はそのすべてを躱す、(しゅん)(びん)な動きを見せた。単発で射る弓矢では、動きが読めなければ圧倒的に不利だ。

「すばしこい……!」

「蓮華!!」

 鎧虎が蓮華の頭上に跳んだ。(げい)(げき)の矢は魔のまとう鎧に弾かれた。猛獣の爪が迫る。

「っ!! ……カタナ!」

「ぐうううぅぅ……!!」

 虎の爪が、牙が、(つば)にぶつかってカタカタと鳴る。

 無我夢中で、刀は彼女の前に割りこんでいた。左腕の上腕がなにやら熱いが、かまっていられない。ここで押し負ければ、二人とも死んでしまう。

(試すしか、ない!)

「邪魔だ!!」

 一気にギアを四段階に上げる。

 (いっ)(かつ)と共に、剣気を放った。振り抜くのではなく、防御したままの状態で。

 ほんの一瞬力を溜めて打っただけだが、魔がひるむには十分な威力だった。

 刀はそれを見逃さない。間合いを一気に詰め、相手がその爪を(ひらめ)かせるより速く、一太刀を振り下ろした。

 硬い岩石につるはしをあてたような、高い金属音が鳴る。

 打刀は()(ざん)にも、鍔元から折れてしまっていた。

「カタナ、退きなさい!!」

「っ!?」

 蓮華の一言に我に返る。間一髪、鎧虎の爪を避けた。彼女が矢を放って牽制していなければ、追撃を受けたところだ。

「……くそ、折れた。これじゃ戦えない」

 刀身をほぼ失った打刀は、もはやアルミのパイプよりもはるかに軽かった。昨夜の木刀に続き、武器が簡単に使えなくなるなど、誰が予想しようか。

「嘆かない、むしろ技術二課に堂々とクレームつけられるわ。それよりカタナ、さっきのもう一回やって」

「さっきのって、どれ」

「気を放ったでしょう。アレを今度はしっかり振り抜くの」

「んな言ったって……これ根元からなくなっちゃってんだけど」

 同じことをやろうにも、武器は失われてしまった。折れた刀身は鎧虎の足下、近付いて回収するのは困難だ。

「いいからやる。私があいつを封じこめるから、合図で斬りかかって。来るわよ」

 鎧虎の(きょ)()が、空中に(おど)る。

 蓮華は矢を上空に放った。鎧虎は今度は避けることもしない。己の防御力を誇るように、その身で矢を弾く。このまま勢いにまかせて彼女に一撃を加える、つもりだったろう。

 跳ね返った矢は(くさり)状に形を変え、鎧虎の脚を捕らえた。もう一方は地面に固定されている。

 移動することで逃れようとした魔だったが、鎖の長さは一気に縮んだ。

 猛獣は地面へと叩きつけられ、四方を蒼白い壁に囲まれてしまった。逃げる場所は、上しかない。

「カタナ!!」

「ああもう、なんだか分かんないけどやってやる!!」

 柄だけの打刀を手に、鎧虎の胴へ大上段に振りかざそうとした、その時。

 蒼白い刀身が、折れた部分を補って現れていた。

(そういうことか!!)

 もう一度、剣気を刀身にこめる。今自分ができるだけの精一杯を、振り下ろす。

「とどめだ怪物!!」

 絶叫と共に、漆黒の小札が飛び散る。

 鎧虎はその強固な肉体を打ち砕かれ、消滅した。


 魔の消滅を確認した蓮華は、すぐさま浄定課(じょうていか)に連絡をとっていた。このあたりに魔の潜入する穴がないかどうか、探る必要があるからだ。

「とりあえずこれでよしと。次は貴女よ、カタナ」

「え、あたし?」

 蓮華はため息まじりに座れと地面を指差した。

「まだ気付いてないの? 驚くべき精神力ね。それとも鈍いと言うべき? 左腕を見なさい」

「え……? あ――っ、い、いた、……つぅ――!!」

 左の上腕が縦に裂けている。それを認めた瞬間、焼けるような痛みが襲いかかった。

 鎧虎から蓮華を守る際に、左腕に少し熱を感じたのはこれだったのだ。

「とりあえず動かないで、じっとしてなさい。治すから」

 彼女の手が、傷口にかざされた。ほんのりと明るい(みどり)(いろ)の光が、刀の左腕に吸いこまれていく。

 効果はすぐに現れ、痛みが次第に治まりはじめた。いや、傷そのものがふさがっていく。

「……す、すごい」

「別に大したことないわ。医者を目指す人間としては、こういう術も使えて当然でしょう」

 蓮華は手をかざしたまま、淡々と話す。

「や、フツーのお医者さんには無理でしょ」

 これは彼女が鬼の主だから、できることだろう。それ以外の局員で、ここまでの治癒術を操れるものはそういないはずだ。

「はい、これでおしまい。動かしてみなさい」

「……痛くない、治ってる。ありがとう、蓮華!」

 破れてしまった服はそのままだが、そこからのぞく肌は、傷一つない。

「――よし、それじゃ行くわよ。今日はまず、技術部に直行ね」

「りょーかい」

 刀は落ちた刀身を拾いあげ、着ていたジャケットでそれを包んだ。

 蓮華はすでに、さっさと先を歩きはじめていた。

明日の更新から、再び21時半となります。よろしくお願いいたします

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