2話 三人の管理官
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
金色の髪の女性――蓮峰は、管理官室と書かれた部屋に通された。そこには、三人の男女が待っていた。
一人は初老の男性。スーツごしにも分かる、がっちりとした上背。彼は、三人の誰よりも貫禄があった。
もう一人は中年に差しかかったやや背の低い男性で――身長一七〇超えの蓮峰からは、彼を見下ろす形になる――、あいそ笑いを浮かべている。
そして最後の一人は、若い女性だった。
管理官といっても二十代前半くらいだろうか。ミディアムショートに整えた黒髪、雪のような白い肌に、落ち着いたまなざし。
この三人は、いずれも管理官と呼ばれる人間だ。その中で、彼女がかなりの切れ者であろうことは、雰囲気から読みとれた。
「久しぶりだね、蓮峰君。休職中なのに、急に呼びだしてすまないね」
中年の男性があいそ笑いのままに、にこやかな声で切りだした。
「いえ。それでご用件はなんでしょうか」
来た早々ではあるが、できればすぐに終わらせて帰りたい。彼女はそう考えていた。
「ま、まあ、かけたまえ。今から説明する」
男性の笑顔が引きつった。女性のつっけんどんな声が、気に障ったらしい。他の管理官の目がなかったら、不快をあらわにしていただろう。
「と、その前に自己紹介だ。彼女は新しい管理官、白沢月子君。蓮峰君とは入れ替わりに、この一課に所属となった」
「白沢です、以後お見知りおきを。貴女の噂はかねがね」
若い女性管理官は、やや小さく、透き通った声で名乗った。
「……蓮峰蓮華です。よろしく」
どういう噂だと返したくなるのをおさえ、女性――蓮峰蓮華も名を告げた。
「彼女はまだ二十五なんだが、本当に優秀でね、白沢君が入ってからというもの、我が一課は――」
「新田管理官、私の話はそれくらいに、用件を。我々は蓮峰さんに時間をさいていただいているのですから」
かろうじて笑みをたたえていた男性――新田の顔が、白沢の一言で完全に崩れた。話を中断させられた彼は、わざとらしく咳払いし、一枚のファイルを蓮華に見せた。
「蓮峰君、君は蒼鬼の主として目覚めたが、彼に因縁深い鬼がいるのは知っているかね?」
「いえ……」
「実は一年前、その鬼の主が見つかった。白沢君」
「発見されたのは黒鬼の主です。もっとも、完全な覚醒にいたっていないのですが」
ファイルには、ぼんやりと映った、一枚のモノクロ写真があった。右手に日本刀らしきものを持った人の姿。写真からは分かりにくいが、身体つきを見るかぎり女性だ。
(蒼鬼、黒鬼ってどんな鬼?)
蓮華は管理官たちに問うでもなく、心の中でつぶやいた。
『何度か我が主たちが刃をまじえた。生まれは私のほうが古いのだが、奴は若いくせにめっぽう強かった』
昔を懐かしむ少年の声が、彼女の思考に返る。その声は、やはり管理官たちには聴こえていない。
この日本には、神々が降臨し、国を治めたという神話が残されている。
神々は人ならざるモノを自分たちにしたがわず、害をなす〝魔〟であるとし、武力で制圧した。
だが、神々――あとを受けた朝廷の力が弱まると、魔は息を吹き返した。中でも畏れられたのが、神に近い力を誇る鬼だ。
人は神々に代わって、魔を打ち払う人材を探し求めた。その人材たちを集めた組織が、この対異総合管理局の前身だ。
皮肉なことに、彼らのほとんどは魔、とりわけ鬼と人のあいだに生まれた混血であった。
蓮華はたまたま、ある鬼の血――蒼鬼の血を継ぐ子孫にあたったらしい。
鬼は肉体が滅んでも、生きのびるすべを持っている。
彼らは自分の血を引く子どもたちの中で、最も素質の優れた者の肉体に魂を移す。
魂の器となった子どもは鬼の主と呼ばれ、人間でありながら鬼の力を振るう。
蓮華は大学二年の時に、蒼鬼を目覚めさせてからというもの、管理局の部署・退魔部退魔第一課に属している。現在は一年間の休職が認められたため、大学に戻っていたのだが。
(いちおう、聞くわよ。強いって、どのくらい?)
頭の痛くなる予感を覚えつつ、彼女は居候の鬼に続けて訊ねた。
『そうだな。私の主はお前を含め五人、奴と戦ったのは三人。うち二人は奴にやられた。結果、先代の主で家は絶えている』
(大事じゃない。で、斎宮? だったかしら。あなたはその主家が滅んだから、うちに来たってこと?)
『そうだ。お前の家は斎宮の分家だったから、私は生きながらえているわけだ』
蒼鬼は一体何者なのか。蓮華は彼本人から、だいたいの経緯を聞いている。それによれば、はじめに彼が鬼の主として白羽の矢を立てたのが、斎宮を名乗った子どもだ。
斎宮は数百年後に絶家となり、蒼鬼は分家筋の蓮峰家から、新しい主が現れるのを待っていた。
だが、断絶した理由までは詳しく訊ねていなかった。根ほり葉ほり訊いておくべきだった、と後悔してももう遅い。
(黒鬼はあなたの天敵のようにしか思えないんだけど。そんな奴がいるなら、もっと早く教えてくれない?)
『そう言われてもな。いくら選んだ私の子とて、その家から主にふさわしい者など、なかなか現れないのだぞ? ましてや、たがいの主が出逢うことじたい少ないのだ』
(のわりには、ずいぶんぶつかる割合が高いじゃない)
『まあ、そうだな。奴とはそういうさだめ、腐れ縁なのかもしれんな』
(縁切りの神社でも行ってきたほうがいいかしら……)
蒼鬼は飄々とした様子であるが、人ごとではない。自分が黒鬼を相手にする流れになっている。もし救いを求めるならば、白沢の言った言葉だ。




