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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
一章 蠢動する闇、日常の終わり
3/15

2話 三人の管理官

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

 金色の髪の女性――蓮峰は、管理官室と書かれた部屋に通された。そこには、三人の男女が待っていた。

 一人は初老の男性。スーツごしにも分かる、がっちりとした上背。彼は、三人の誰よりも(かん)(ろく)があった。

 もう一人は中年に差しかかったやや背の低い男性で――身長一七〇超えの蓮峰からは、彼を見下ろす形になる――、あいそ笑いを浮かべている。

 そして最後の一人は、若い女性だった。

 管理官といっても二十代前半くらいだろうか。ミディアムショートに整えた黒髪、雪のような白い肌に、落ち着いたまなざし。

 この三人は、いずれも管理官と呼ばれる人間だ。その中で、彼女がかなりの切れ者であろうことは、雰囲気から読みとれた。

「久しぶりだね、蓮峰君。休職中なのに、急に呼びだしてすまないね」

 中年の男性があいそ笑いのままに、にこやかな声で切りだした。

「いえ。それでご用件はなんでしょうか」

 来た早々ではあるが、できればすぐに終わらせて帰りたい。彼女はそう考えていた。

「ま、まあ、かけたまえ。今から説明する」

 男性の笑顔が引きつった。女性のつっけんどんな声が、気に障ったらしい。他の管理官の目がなかったら、不快をあらわにしていただろう。

「と、その前に自己紹介だ。彼女は新しい管理官、(しら)(さわ)(つき)()君。蓮峰君とは入れ替わりに、この一課に所属となった」

「白沢です、以後お見知りおきを。貴女の噂はかねがね」

 若い女性管理官は、やや小さく、()き通った声で名乗った。

「……(はす)(みね)(れん)()です。よろしく」

 どういう噂だと返したくなるのをおさえ、女性――蓮峰蓮華も名を告げた。

「彼女はまだ二十五なんだが、本当に優秀でね、白沢君が入ってからというもの、我が一課は――」

新田(につた)管理官、私の話はそれくらいに、用件を。我々は蓮峰さんに時間をさいていただいているのですから」

 かろうじて笑みをたたえていた男性――新田の顔が、白沢の一言で完全に崩れた。話を中断させられた彼は、わざとらしく咳払いし、一枚のファイルを蓮華に見せた。

「蓮峰君、君は(そう)()の主として目覚めたが、彼に(いん)(ねん)深い鬼がいるのは知っているかね?」

「いえ……」

「実は一年前、その鬼の主が見つかった。白沢君」

「発見されたのは(こっ)()の主です。もっとも、完全な(かく)(せい)にいたっていないのですが」

 ファイルには、ぼんやりと映った、一枚のモノクロ写真があった。右手に日本刀らしきものを持った人の姿。写真からは分かりにくいが、身体つきを見るかぎり女性だ。

(蒼鬼、黒鬼ってどんな鬼?)

 蓮華は管理官たちに問うでもなく、心の中でつぶやいた。

『何度か我が主たちが刃をまじえた。生まれは私のほうが古いのだが、奴は若いくせにめっぽう強かった』

 昔を懐かしむ少年の声が、彼女の思考に返る。その声は、やはり管理官たちには聴こえていない。

 この日本には、神々が降臨し、国を治めたという神話が残されている。

 神々は人ならざるモノを自分たちにしたがわず、害をなす〝()〟であるとし、武力で制圧した。

 だが、神々――あとを受けた朝廷の力が弱まると、魔は息を吹き返した。中でも(おそ)れられたのが、神に近い力を誇る鬼だ。

 人は神々に代わって、魔を打ち払う人材を探し求めた。その人材たちを集めた組織が、この(たい)()(そう)(ごう)(かん)()(きょく)の前身だ。

 皮肉なことに、彼らのほとんどは魔、とりわけ鬼と人のあいだに生まれた混血であった。

 蓮華はたまたま、ある鬼の血――蒼鬼の血を継ぐ子孫にあたったらしい。

 鬼は肉体が滅んでも、生きのびるすべを持っている。

 彼らは自分の血を引く子どもたちの中で、最も素質の優れた者の肉体に魂を移す。

 魂の器となった子どもは鬼の主と呼ばれ、人間でありながら鬼の力を振るう。

 蓮華は大学二年の時に、蒼鬼を目覚めさせてからというもの、管理局の部署・退(たい)()部退魔第一課に属している。現在は一年間の休職が認められたため、大学に戻っていたのだが。

(いちおう、聞くわよ。強いって、どのくらい?)

 頭の痛くなる予感を覚えつつ、彼女は居候(いそうろう)の鬼に続けて(たず)ねた。

『そうだな。私の主はお前を含め五人、奴と戦ったのは三人。うち二人は奴にやられた。結果、先代の主で家は絶えている』

大事(おおごと)じゃない。で、(さい)(みや)? だったかしら。あなたはその主家が滅んだから、うちに来たってこと?)

『そうだ。お前の家は斎宮の分家だったから、私は生きながらえているわけだ』

 蒼鬼は一体何者なのか。蓮華は彼本人から、だいたいの経緯(いきさつ)を聞いている。それによれば、はじめに彼が鬼の主として白羽の矢を立てたのが、斎宮を名乗った子どもだ。

 斎宮は数百年後に絶家となり、蒼鬼は分家筋の(はす)(みね)家から、新しい主が現れるのを待っていた。

 だが、断絶した理由までは詳しく訊ねていなかった。根ほり葉ほり()いておくべきだった、と後悔してももう遅い。

(黒鬼はあなたの天敵のようにしか思えないんだけど。そんな奴がいるなら、もっと早く教えてくれない?)

『そう言われてもな。いくら選んだ私の子とて、その家から主にふさわしい者など、なかなか現れないのだぞ? ましてや、たがいの主が出逢(であ)うことじたい少ないのだ』

(のわりには、ずいぶんぶつかる割合が高いじゃない)

『まあ、そうだな。奴とはそういうさだめ、腐れ縁なのかもしれんな』

(縁切りの神社でも行ってきたほうがいいかしら……)

 蒼鬼は(ひょう)(ひょう)とした様子であるが、人ごとではない。自分が黒鬼を相手にする流れになっている。もし救いを求めるならば、白沢の言った言葉だ。


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