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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
五章 楠木刀という人
28/68

4話 戦闘狂の目

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

「あー、ところでカタナ」

「っ、ひゃ、ひゃい!」

 物思いにふけっていたところの不意打ちに、舌を噛みそうになった。声をかけた当の本人、アドルフはにんまり笑っている。

「帰った時に持ってた例のブツ、アレを見せてくれねぇかな」

 背中に緊張が走る。おいしい食事と会話ですっかり忘れていた。夕方のアドルフは、今にもあのロッドケースに手を伸ばそうとしていたのだ。

「い、いやいや、あ、あれは模造刀みたいなもんですし、そもそも刃先ついてないですし!」

「そうなのか、残念だな」

「は、はい、残念ながら」

「それじゃあ、言い方を変えよう。カタナ、俺と一本、勝負しないか?」

「ダメです!!」

 机を強く叩く音に、思わず蓮華を見る。冷静さを欠いた彼女の姿に、刀はあっけにとられた。

「〝おいおい、なんでお前が出てくるんだ。これは俺と、カタナの話だぜ〟」

「〝バカやらかす師匠を止めるのも、弟子の務めよ。いくら先生でも、カタナと勝負するのは無謀です、死にたいんですか!?〟」

「〝くたばる気はねえよ。それに万が一は、お前がカバーしてくれりゃすむだろ〟」

「〝簡単なことじゃないわ! 先生はカタナの実力を知らない。私が割って入る保証はできかねます〟」

 刀がはじめてここに来た日同様、蓮華は英語でまくしたてた。なんと話しているかは不明でも、どういう会話かは推測できる。数日前、刀と真っ向から勝負したのは、他ならぬ彼女なのだから。

「アドルフさん、あたしと勝負なんかしたら怪我じゃすまないです。あたしは、貴方を傷付けたくない。アレは、人間相手に使っちゃいけないものなんです」

「そうだな、おいそれと扱うもんじゃないだろうさ。俺の先源流も同じだ」

「だったら――」

「だからそんな俺を、人間じゃないと思えばいい。武器を持った奴を見ると、血が騒いで、うずうずする。強い奴と戦うスリルが欲しくてたまらない。俺はろくでなしなんだ」

 アドルフの目が、(おおかみ)のようにぎらりと光った。その妖気に、喉が引きつく。

 彼は興味本位で言っているのではない。本能にしたがって、戦いを求めている。

「この気持ちをおさえる方法はな、一回やるしかないんだ。そうでなきゃ、俺は毎日だってお前さんに催促(さいそく)して、レンカに半殺しされなきゃならない」

「いっそのこと地獄に落としてやりましょうか?」

 ぼきりぼきり。蓮華が左手の骨をあからさまに鳴らした。師匠も師匠なら、弟子も弟子だ。

「だとよ、カタナ。一つ()くが、こいつはお前さんに勝ったのか? 負けたのか?」

「……あたしは、蓮華が勝ったと思ってます。彼女には否定されたんですけど」

 痛いほどの視線を近くで感じながら、刀はおそるおそる、昨日の話を告白した。あの時の戦いは、いつ思い返しても自分の負けだ。

「なら、もう答えは出てるじゃないか。俺とお前がやったって、俺が勝つさ。怪我なんてしねえよ」

「なんか、すごい自信ですね……」

「おう。納得したか?」

「う~ん、いいえ。でも、分かりました。断っても、ムダみたいですから」

 本当に、妙なところで頑固なのは蓮華と同じだ。拒否(きょひ)し続けても、ことあるごとに手合わせを催促されても困る。一度手の内を見せれば、アドルフも満足するだろう。

「ただし、木刀を使わせてください。アドルフさんだけじゃなくて、家にも被害が出る可能性があるので、そこだけは譲れません。あの刀は、魔を斬るためのものですから」

 彼が大丈夫だと言い張っても、万が一怪我を負った場合、管理局から処罰を受けるのは刀と監視役である蓮華だ。自分はともかく、彼女を巻きこみたくはない。

「ふーむ……ん、仕方ない。そいつで妥協(だきょう)しよう。契約(けいやく)成立だな」

「ごめん、蓮華。そういうことだから、フォロー、できる範囲で頼むね」

「謝るのはこっちだわ、まったく。バカな師匠につきあわせて悪いわね。結界を二重に張るから、その中でやりなさい」


明日の更新は10時、19時半、21時半となります。よろしくお願いいたします

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