4話 戦闘狂の目
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
「あー、ところでカタナ」
「っ、ひゃ、ひゃい!」
物思いにふけっていたところの不意打ちに、舌を噛みそうになった。声をかけた当の本人、アドルフはにんまり笑っている。
「帰った時に持ってた例のブツ、アレを見せてくれねぇかな」
背中に緊張が走る。おいしい食事と会話ですっかり忘れていた。夕方のアドルフは、今にもあのロッドケースに手を伸ばそうとしていたのだ。
「い、いやいや、あ、あれは模造刀みたいなもんですし、そもそも刃先ついてないですし!」
「そうなのか、残念だな」
「は、はい、残念ながら」
「それじゃあ、言い方を変えよう。カタナ、俺と一本、勝負しないか?」
「ダメです!!」
机を強く叩く音に、思わず蓮華を見る。冷静さを欠いた彼女の姿に、刀はあっけにとられた。
「〝おいおい、なんでお前が出てくるんだ。これは俺と、カタナの話だぜ〟」
「〝バカやらかす師匠を止めるのも、弟子の務めよ。いくら先生でも、カタナと勝負するのは無謀です、死にたいんですか!?〟」
「〝くたばる気はねえよ。それに万が一は、お前がカバーしてくれりゃすむだろ〟」
「〝簡単なことじゃないわ! 先生はカタナの実力を知らない。私が割って入る保証はできかねます〟」
刀がはじめてここに来た日同様、蓮華は英語でまくしたてた。なんと話しているかは不明でも、どういう会話かは推測できる。数日前、刀と真っ向から勝負したのは、他ならぬ彼女なのだから。
「アドルフさん、あたしと勝負なんかしたら怪我じゃすまないです。あたしは、貴方を傷付けたくない。アレは、人間相手に使っちゃいけないものなんです」
「そうだな、おいそれと扱うもんじゃないだろうさ。俺の先源流も同じだ」
「だったら――」
「だからそんな俺を、人間じゃないと思えばいい。武器を持った奴を見ると、血が騒いで、うずうずする。強い奴と戦うスリルが欲しくてたまらない。俺はろくでなしなんだ」
アドルフの目が、狼のようにぎらりと光った。その妖気に、喉が引きつく。
彼は興味本位で言っているのではない。本能にしたがって、戦いを求めている。
「この気持ちをおさえる方法はな、一回やるしかないんだ。そうでなきゃ、俺は毎日だってお前さんに催促して、レンカに半殺しされなきゃならない」
「いっそのこと地獄に落としてやりましょうか?」
ぼきりぼきり。蓮華が左手の骨をあからさまに鳴らした。師匠も師匠なら、弟子も弟子だ。
「だとよ、カタナ。一つ訊くが、こいつはお前さんに勝ったのか? 負けたのか?」
「……あたしは、蓮華が勝ったと思ってます。彼女には否定されたんですけど」
痛いほどの視線を近くで感じながら、刀はおそるおそる、昨日の話を告白した。あの時の戦いは、いつ思い返しても自分の負けだ。
「なら、もう答えは出てるじゃないか。俺とお前がやったって、俺が勝つさ。怪我なんてしねえよ」
「なんか、すごい自信ですね……」
「おう。納得したか?」
「う~ん、いいえ。でも、分かりました。断っても、ムダみたいですから」
本当に、妙なところで頑固なのは蓮華と同じだ。拒否し続けても、ことあるごとに手合わせを催促されても困る。一度手の内を見せれば、アドルフも満足するだろう。
「ただし、木刀を使わせてください。アドルフさんだけじゃなくて、家にも被害が出る可能性があるので、そこだけは譲れません。あの刀は、魔を斬るためのものですから」
彼が大丈夫だと言い張っても、万が一怪我を負った場合、管理局から処罰を受けるのは刀と監視役である蓮華だ。自分はともかく、彼女を巻きこみたくはない。
「ふーむ……ん、仕方ない。そいつで妥協しよう。契約成立だな」
「ごめん、蓮華。そういうことだから、フォロー、できる範囲で頼むね」
「謝るのはこっちだわ、まったく。バカな師匠につきあわせて悪いわね。結界を二重に張るから、その中でやりなさい」
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