3話 アドルフ家の食卓
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
◇
大皿に盛られた酢豚は、具が大胆に切られたまさに男の料理といった風情だった。それでいて味つけは程よい甘酸っぱさで、揚げた豚肉も加減が絶妙。初任務を終えた安堵からか、食が進む。
「ん~~! アドルフさん、これ、すっごくおいしいです!」
「おっ、そうか! いやぁ、作ったかいがあるってもんだ。こいつら酢豚はあきたあきたって文句ばっかりだからな」
刀は蓮華とアンディの手元を交互に観察した。確かに、二人の皿の酢豚は控えめだ。
蓮華にいたってはなにか思案中か、箸が止まっている。
「えぇ? こんなにおいしいのに、二人はもうそれだけ?」
「親父の料理のレパートリー、壊滅的に少ないんだよ。俺が小さかった時にお袋が死んで、それからは酢豚が一週間に三、四回出るなんてしょっちゅうでさ。当番制にしてからは、ましになったんだけど」
「そうなんだ。じゃあ、二人が当番の日もあるんだ」
「酢豚だと分かったら、結局私たちのどっちかが、他にも作るんだけれどね」
酢豚の大皿の隣には、蓮華の手による揚げだし豆腐。こちらはどちらかといえば味つけは控えめだが、出汁が利いている。
当番制は大変そうだが、血縁関係にない人間がうまくやっていくには、これが一番いい方法なのかもしれない。
「あの、あたしもその当番に加えてもらえないですか。居候させてもらってる身ですし」
「ほぉ、料理できるのか」
「……米の炊き方なら分かります。水で研ぐ、んですよね?」
それとも洗剤で洗うのが正しかっただろうかと三人の反応を確認する。どうやら前者で正解らしい。
ちなみに、その後の手順はうろ覚えである。
「他にそれ以外で作れるの?」
「うーん……わかんない」
作る時に思いだす可能性もあるが、過去のことは白紙状態だ。今、頭を叩いたところで、出てくるものではない。
「それなら、アンディに教わったら? 彼が一番レパートリー多いし。料理当番云々は、レシピを三つくらい覚えてからでも」
「で、でも――」
「酢豚ばかり出されても困るし」
「親父の二の舞だけは避けないとな」
「お前ら本当にひどいな!」
嘆きながらもアドルフは大声で笑い、アンディと蓮華の肩をばしばし叩いた。二人はそれを軽く受け流す。
普段からこうしてふれあっているのだろう。辛辣なことを言いあいながらも、そこには悪意も敵意もない。それぞれ信頼しあっているからこそ成り立つ関係、それが家族というものなのだろうか。
ほんの少しだけうらやましく、悩ましく思えた。自分はこの輪の中に入っていけるのだろうか、本当に加わっていいのだろうか、と。
今日はあと1話、21時半に更新します。引き続きよろしくお願いいたします




