2話 アドルフの目
本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。
※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。
※章ごとに話数を分けて投稿しています。
「いやぁ~、助かった。これでこのダサいカッコともおさらばだ~。ありがとね、蓮華」
蓮華のかたわらを歩く刀は、両手に大量の袋を持っている。もちろん、顔は満面の笑みである。
「礼を言われるほどのことじゃないわ。これも仕事のうちだから」
「あはは、うん。そうだね。でも案内してくれて心強かったよ。あたし、知らないところばっかりだからさ」
刀が見繕った服は、どちらかといえば男物が多い。はじめは女物を見てまわったのだが、身長のサイズがあっていても、肩幅が微妙に足りなかった。支給された服も、男物をまわしてもらっていたようだ。
結果、やぼったいとは思われないが、女性的な格好からやや遠いものになった。記憶を失う前の彼女も、ファッションとは縁遠い性格だったのかもしれない。
(なんなのかしら。今日はやけに疲れた……)
刀が持ちきれない分の袋を提げ、蓮華はため息を吐いた。この際必要なものはすべてそろえようと提案したのは自分だが、一を十にする大変さを見誤っていた。
蓮華も物持ちが多いほうではないが、刀は本当に、必要最低限の物しか所持していなかった。おそらく、彼女が保護された時の持ち物すら、手元にないのだ。
(彼女のこともますます分からなくなった)
戦うために生まれた。いや、造りだされたような正確無比な戦闘能力を見せたかと思えば、買い物に行かせてくれと恥ずかしそうに訴える。自分の欲しい服を見つければ目を輝かせ、これだこれだと飛びはねんばかりに喜ぶ。
あまりにも平時と戦闘時の差が激しい。一体どちらが本当の楠木刀なのか、蓮華は測りかねていた。
「それで、どうだった? 技術部の刀は」
「ああ、すごく軽くて使いやすかったよ。刃先がないのはなんかちょっと変な感じがするけど、大丈夫そう」
「そう。ならよかった」
(ま、測りかねるのはカタナよりも局の対応か)
技術二課から支給された切っ先の欠けた打刀は、任務外では回収されると思いきや、そのまま持つことが許された。偶発的な戦闘の可能性を想定したのだろうか。
万が一、刀が一人で魔と対峙する状況になっても、ひとまずは安心だ。
「ただいま帰りました」
玄関のドアを開けた音を聞きつけたか、慌てた様子で廊下を走る誰かがいた。
「おうっ、おかえり! 二人ともケガはないな?」
「……その手に持っているものがすっぽ抜けたら、どちらかが怪我したかもしれませんけどね」
アドルフは昨日とさほど変わらない格好――いわく日本の親父スタイル――で、包丁を握っていた。他人の目があったら、強盗に間違えられるところだ。
「おっと、夕飯作ってる途中だったからな。すまんすまん――って、ん? カタナ、背中のそいつはなんだ? イイもん入ってそうじゃねえか」
「えっ、いやぁ、イイもんかどうかは、そのぉ」
蓮華は師匠の目ざとさに心の中で舌打ちする。彼はこういうものに目がない。母屋ではなく、先に部屋に戻るべきだった。
仕事でも私事でも、行きと帰りには必ず母屋に声をかけている。鬼の力を得、外に出ればいつ魔に襲われるか予測できない。これは自分の安全を報告、確認する作業であった。
だが、今日はいつもどおりに寄ったのがまずかった。
舌なめずりをしながら――包丁は握ったまま――にじり寄るアドルフから、両手のふさがった刀は、思わず後ずさった。
「ふふ、隠したって俺には分かるぜ、サムライガール。ま、あとでたっぷり見せてくれ。今日の飯は酢豚だぞ~」
鼻歌を歌いながら、アドルフは台所へと消えていく。酢豚は今月八回目、およそ三日ぶりの登場である。彼が食事当番の時は、たいてい酢豚か酢豚なのだ。
「カタナ、とりあえず荷物は部屋においてきなさい。あとは居間で休んでて」
「分かった、蓮華は?」
「ちょっと先生手伝ってくる」
正直、酢豚のフルコースだけはもう我慢がならなかった。
今日の今後の更新は19時半、21時半の予定です。引き続きよろしくお願いいたします




