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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
四章 黒鬼の主、初陣す
22/68

3話 初陣

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。


 監視分析課が(かん)(そく)した魔の出現地点は、路地裏(ろじうら)袋小路(ふくろこうじ)だ。蓮華たちは近くの建物の屋上から、発生時刻まで待機する。

 魔の強さ、脅威の度合いは一級から五級まであるのだが、今回は五級の魔を一掃する任務を受けている。

 鬼の主が請け負うには役不足の仕事だが、蓮華は一年ぶりの現場復帰、刀は鬼の力が使えないままの初陣だ。様子見には適当かもしれない。

「もうすぐ出現時間ね。人払いの術は掛けたし、あとは結界を張るだけか。カタナ、準備はいい? カタナ?」

 刀は目をこらし、あたりをうかがっていた。蓮華も彼女の視線の先を眺めたが、なにもない。

「どうしたの、さっきから」

「うーん……なんかあたしたちのこと、見てる人がいるような。姿は見えないけど」

 蓮華は蒼鬼の力を、半径五千メートルの範囲へ拡げた。

 ざっくり空間をスキャンしたところ、二人を遠巻きに囲む、何人もの人の姿があった。

 人払いの術は、同じく半径五千メートルの範囲に掛けている。にも関わらず、彼らはその円の中。結界に侵入できるのは同業者か、術者の見知った人間だけ。おそらく退魔二課の連中だ。

(よけいなまねを)

『武器の件といい、信用されていないな』

 同じ鬼の力の気配に、蒼鬼も苦笑する。人間はいつの時代も変わらない。ヒトならざる力を恐れ、害があろうとなかろうと排除しようとする。

(まあこうなるんじゃないかとは思っていたけど。先に家に結界を張っておいて正解だったわね)

 アドルフの家は、鬼の血を引いた人間や魔を、結界が拒む。人払いのとは逆の効果だ。蓮華が安全だと判断した者以外、何者であろうとも弾かれる。

 空間の使い手では蓮華の右に出るものはなく、潜入を試みる同業者は、まずいまい。

 それにしても恐ろしいのは、刀の気配を読みとる(かん)だ。蓮華が鬼の力でようやく察したことを、彼女は肌で感じとった。鬼の主としては不完全でありながら、人間ばなれした身体能力を持っている。

「カンの鋭さじゃ貴女に敵わないわね。彼らはただの様子見よ、無視して構わないわ」

「ん、分かった」

 蓮華は人払いの術を掛けた範囲の内側に結界を張った。

 二課にはこちらの様子がのぞけるよう、遮蔽(しゃへい)効果はつけないでおく。お前たちには気付いている、という警告もこめて。

 報告のあった時間だ。夕方五時を知らせるチャイムが、あちこちのスピーカーから響きわたる。

 袋小路になった道の壁に、小さな穴が空いた。穴は次第に(うず)を巻きながら、大きくなっていく。

「今回の目標は()(ぐん)(ちゅう)という五級の魔よ。一匹一匹が小さいから、なるべくまとめて倒すこと。鬼の力がなくても魔は()(にん)できる。慌てず確実に応戦しなさい。それから、無茶はしないように。説明終わり」

「おっけー。どこまでやれるか分かんないけど」

 刀は肩にかけていたロッドケースを下ろした。

 ケースを吊っていたベルトの接続部のボタンを押す。鞘はケースに固定されている。中に充填されていたガスの圧力によって、打刀が抜ける仕組みだ。

「……あれが、魔」

 刀がぽつりとつぶやく。引き抜いた打刀を握り、彼女は魔をその目に(とら)えた。

 大きくなった穴から、烏群虫が我先にと、放射状に飛びだしていく。

 真っ黒な翼に甲虫の(がい)(こっ)(かく)が、夕焼けに染まった空を覆う。三百はゆうに超えている。群れて(うごめ)く姿は、まるで龍のよう。

「先に行くよ」

「ちょっと待ちなさ――!?」

 しかしその数に怖じ気付くどころか、刀は屋上の(えん)を蹴り、真っ逆さまに烏群虫のど真ん中に飛び降りた。蓮華が止めるまもない。

 刀は降下しながら、大上段から白刃を振り下ろした。ビルを震わすほどの(ごう)(おん)と共に、下から上へ風が突き抜ける。風は屋上にいる蓮華の髪を()らすどころか、毛先の一房をも断ち切った。

「な……っ」

 巻き起こった風は小さな鎌に分裂し、虫たちを()()()(じん)に斬り刻む。刀身に刃がなかろうと、欠けていようとお構いなしだ。まともに近付けない。

「カタナ!!」

 刀が宙にいたのはほんの一、二秒、地上は目と鼻の先。蓮華は彼女の落下地点に、空間の足場を生みだす。それを踏み台に、彼女は再び宙に身を(おど)らせた。

 まるで剣舞のように、刀が円を描く。突風が竜巻状に巻き上がり、烏群虫の巨大な(かたまり)を吹き飛ばした。

(すごい威力……!)

 しかし虫たちは仲間たちの非常事態にも動じず、風の届かない上空で、また群れをなそうとする。

 彼らには、一級二級の魔ほどの殺傷能力はない。小を捨て、大をとる。群れて生存率を上げ、再び勢力を回復するのだ。

 だが、先に張りめぐらされた結界がそれを許さない。

 狭い空間の中で、憐れな烏群虫は逃げ(まど)う。

 地を(すく)いあげる刀の一撃が、上空へ逃げた烏群虫を突く。ガラスを割るような断末魔。再び集結した黒い龍の胴体は断たれ、()(さん)した。

 三百以上あった虫の群れは、たった三太刀で数えるほどに減ってしまった。

 追い詰められた烏群虫は、ガチガチと口を鳴らす。今さらの()(かく)に、刀がうろたえるはずもない。

 虫たちの生き残りはそれぞれの高度と角度から、彼女を取り囲んで突進する。

 彼らはぶつかる直前に一体化し、鋭い槍に変化した。弾丸のように速く、刀を貫くスピードとしては十分だった。

「カタナっ、避けなさい!!」

 しかし、彼女は打刀を持った手をくんと振りあげただけ。

 一本の風の刃が、漆黒の槍を真ん中から断ち切る。

 生き残った一匹の烏群虫が、右へ左へふらついていたが、とどめの一突きがそれをさえぎった。

「……私の出る幕はなかったわね」

 蓮華は虫に向けた左手を(しょ)(ざい)なく下ろした。

 刀が短期決戦におよんだために力を使えなかったのもあるが、彼女の対応はどれも的確だった。人が変わったように、冷静な(きょ)(どう)ですべて(さば)いてみせたのだ。

 虫たちの最期の抵抗を、片手一本で打ち破ったことも驚くべきものだった。

 (なま)(はん)()な攻撃は彼女には効かない。刀は今、一人の兵器だった。

「カタナ」

「――あ。ごめん、獲物残しとくべきだった?」

 刀身を鞘に納めたところで、刀はようやく我に返った。別の意識が働いていたのか、今の今まで蓮華が目に入っていなかったらしい。

「……ええ、そうね。ウォーミングアップにもならなかった」

「ごめん、次はとっとく」

「いや、それはいいんだけれど。戦闘は状況判断が先よ。なにが起こるか分からないんだから、あんな風に突撃するのはやめなさい」

 苦笑する刀を、茶化さずにたしなめる。

 彼女が鬼の力に頼らずとも、十分戦えることは判明した。どれだけ武器が貧弱であろうと、彼女はそれを最強の武器に変えるだろう。

 だが鬼の力がないゆえに、無防備な姿をさらす時が必ず来る。場合によっては、蓮華がサポートにまわれない可能性もあるのだ。

「……ごめん。なんか刀抜いたら、意識がふっと切り替わる感じになって、身体が自然と動いちゃって。でも、次は気を付けるね」

「ええ、頼むわ。さて、局に報告しなきゃ。穴は浄定課(じょうていか)がふさいでくれるから、引き継いだら戻るわよ」

 浄定課――退魔部の課の一つで、魔を排除した場所の事後処理にあたる――にこの場を引きわたし、局へ引き返す。

 退魔二課の局員の気配は、すでになくなっていた。


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