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うつし世の鬼  作者: タケハタユウ
四章 黒鬼の主、初陣す
21/68

2話 斬れない打刀(後)

本作は、過去に同人誌として発表した作品を、Web向けに一部改稿のうえ再掲載したものです。


※本作は現代日本を舞台にしたローファンタジー/異能バトル作品です。

※章ごとに話数を分けて投稿しています。

「……ん?」

 打刀を持ちあげたとたん、刀が眉をひそめる。

「どうかした?」

 蓮華の問いに答えず、そのまま(こい)(くち)を切り、抜き身の刀身を照明にかざす。

(あ――)

 日本刀にうとい蓮華でも、はっきり分かったものがあった。

 刃先がない。途中から折れている。

 振るうこともせず、刀は刀身の長さを確認しただけで鞘に納めた。

「カタナ、ちょっとそれ、貸しなさい」

 彼女はうなずき、蓮華に打刀をわたした。抜いてみれば、刀身の輝きは金属と見間違えるほどだが、その重さはまるでアルミのパイプのようだ。

 刃に指をあててみる。ほんの少し指の腹が(しず)むだけで、切り傷の一つもつかない。

「長主任。これは模造刀ですか?」

「いえ。魔の攻撃を受けても容易には折れぬよう、本来使われる(たま)(はがね)とは別の特殊合金を使用しています。一般流通されている模造刀とは、そもそも格が違います」

 模造刀呼ばわりされたことに、技術部のプライドが許さなかったのだろう。長はむっとした口調で言い返す。

「私の注文内容が大雑把だったのは認めますが、刃と刃先がついていないのは誰の指示です? これでは魔も斬れないでしょう。現場の判断ですか」

 武器の製作は蓮華から()(らい)したものだが、特別な注文はつけていない。何者かが、そののちに指示を出したとしか考えられなかった。

「申し上げられません。私は依頼どおりに作らせただけです」

「私以外の依頼どおりに、の間違いでは?」

 事務的な答えに、思わず拳を握りしめる。魔との命のやり取りに、よけいな配慮(はいりょ)は無用だ。現場を知らぬ何者かの思惑など、なんの役にも立たない。

「蓮華、もういいって」

「は――?」

 さらに詰問しようとした蓮華の肩を引き寄せ、刀は耳打ちした。

「貴女、なに言ってるの」

「あたしはこれで十分。ここで騒いだら、長さんたちに迷惑がかかるよ」

「……貴女、本当にそれでいいの? 貴女の命を守る武器が、こんな(たけ)(みつ)みたいなもので構わないの?」

 彼女は困ったように微笑み、小さくうなずいた。

『主、黒鬼の主の申すとおりだ。ここはおさえろ。お前はやや、独断専行に走るところがある。局もお前の行動には目を光らせているのではないか?』

 先日の海堂の苦言を思いだす。彼は蓮華に、組織の一員であることを自覚し、行動するよう忠告していた。

「分かった。長主任、このままいただきます。でも外で持ち歩くにはいろいろめんどうですから、なにかいいカモフラージュはありません?」

 たとえ刃と切っ先がなくとも、それを他人の目にさらせばなにかと(やっ)(かい)だ。

 警察に局の名前を出したところで、巡査や巡査部長クラスでは信じてもらえないだろう。

「ロッドケースを改造したものを用意してあります。そちらもお受け取りください」

 長は眼鏡の位置を確かめながら答えた。内心安堵したのか、彼の表情からはやや堅さが抜けていた。もう少し圧をかけていれば、武器の件は押し通せていたかもしれない。

 そのまま技術部との接触は、おたがいいい印象を抱けずに終わってしまった。

 山岡もそうだが、技術部の人間はプライドの高い人物が多いのだろうか。長もどこか、他人を突き放すような態度だった。

「カタナ。もう一度確認するけど、本当にそれでいいの?」

 蓮華は隣を歩く刀に視線を向けた。彼女は左肩に黒のロッドケースをかけている。中身はもちろん、先ほど受け取った打刀だ。

「うん。局の人が決めたことだもん、大丈夫。それに蓮華、忘れた? あたし、木刀でああだったんだよ。今さら刃のあるなしくらいじゃ、そんなに変わんないよ」

「……そう」

 相づちを打つも、納得できない。心の中にもやもやが残る。蓮華が刀と手合わせたあとと同じで、よく分からない衝動が()き起こっている。

 なにかに対しての怒りではないか、と考えてはみたものの、今ひとつはっきりしない。

『今日はよい顔合わせとはいかなかったが、奴を通して今後も接触すべきだと思うぞ』

(長主任と? なんでまた)

 蓮華は半ばげんなりしながら、()(そうろう)の蒼鬼に応えた。できれば長とは、再び顔をあわせたくなかったからだ。

『長氏は武器の製造、管理、軍事に()けた物部氏(もののべのうじ)を祖とする。私が生まれる前からいる一族と言えば、その古さが分かるだろう。なんにせよ、関係は作っておくに()したことはない』

「なるほどね……」

「? なにが?」

「いえ、なんでも」

 管理局には、大きな特徴がいくつかある。局員の先祖の多くが、有史以来の一族であるのも、その一つだ。

 蒼鬼の言葉はだいたい聞き流すのだが――はじめは仕方なく聞いていたが、うんちくに耳を貸すのがめんどうになった――、今回の情報はまあまあ役に立つ。

 長が技術部で主任を務めているのも、彼の祖を考えれば適任だ。

 過去に楠木を名乗った一族も、古い豪族・(たちばな)(うじ)の子孫と自称している。あながち嘘ではないのかもしれない。

 もちろん、由緒ある家と関わりの薄い鬼もおり、(いち)(がい)には言えない。蓮峰家じたい、斎宮(さいみや)とくらべれば新しい家だ。

「ねえ、蓮華。あたしたちこれから現場に行くんだよね?」

「ええ、その予定だけど」

「質問してもいい? 魔って、どうやってこっちの世界に出てくんの? あたし、魔の姿見たことないからさ」

 昨日は鬼について長々と説明したが、魔についてはさわり程度だった。任務の前に疑問は解消しておいたほうがいいだろう。

「魔は、大昔からこの国に住んでいたというのは話したわね。でも彼らはもともと、人間の世界で生まれたものではないの」

「じゃあ、どっから来てるの?」

「魔界よ、ネーミング分かりやすいでしょ。魔は、日本と魔界がつながってしまった場所から現れる。つなぎ目は見つけ次第、ふさぐようにはしているんだけど。今は昔とくらべて魔に対する人の警戒心が薄れているから、住み心地のいい環境になっているそうよ」

 蓮華も妖怪や幽霊などといった(たぐい)は、非科学的だと信じてはいなかった。昔の人が創った与太話(よたはなし)だと考えていた。

 実際に、魔と遭遇して襲われるまでは。

「魔の発生は、管理部にある監分(かんぶん)――監視分析課から連絡が来るわ。私たちはそれを受けて、現場におもむく。魔界のなわばり争いに敗れて逃げてきた魔も、落ちのびた先で勢力を広げるから、排除するしかない」

「ち、ちょっと待って。その監視分析課が気付く前に、魔の姿を目撃した人がいたら、どうなるの?」

「教えてもいいけど、おすすめはしない」

「――」

 刀は息を呑み、それ以上は追及しなかった。

 目撃者は、すでに魔によって殺されていることが多い。

 仮に逃げおおせても、局員が術を使って記憶を消す。化け物に襲われたという記憶は、忘れたほうが楽だ。

「もうすぐ出現時間よ、急ぎましょう」

「――うん」

 さぞ真っ青になっているだろうと、刀の顔を(いち)(べつ)する。しかし意外にも、表情の色は変わっていなかった。まるで自分の仇と言わんばかりに、その眼には闘志が宿っていた。



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